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ひかるの言う通り、俺の力でも守れたようだ。

ホッと息をついたのも束の間、現れたひかると王子の姿にラウールの目黒を抱き締めている腕に力が入ったように見えた。

奪われてしまうと思ったんだろう、どこかに連れて行かれてしまうと。

そのためにここに来たんじゃないかと、二人を疑っている。

実際、俺とひかるが能力を使ったのは同時で。すぐにブレスレットから作り出した壁に囲まれたラウールからすれば、それが無くなった今自分の目に映るのは何もない平地。

目黒が愛した、大切にしていた森は消え。代わりにあるのは焦げた臭い。

誰がそうしたのかなんて、考えるまでもない。


「ラウール、話をしよう」

「なんの…?」

「色々だ。目黒にも聞かなきゃいけない事がたくさんある」

「めめ、連れてくの?」

「お前も一緒に行くんだよ」

「やだ、だめ。お願い、ふっかさん。めめを連れて行かないで。めめは悪い事してないよ、俺を守ろうとしてくれてただけなんだよ」

「分かってる。だから話を聞きたいんだ」

「ねえ、ふっかさん言ってよ。めめは悪くないってちゃんと言って。めめを捕まえないで」

「ラウール」

「お願い、ふっかさん」


ラウールの瞳に不安が浮かぶ。

目黒を守らなければと。連れて行かないでくれとそればかりで、話を聞こうとしない。


「ラウール、ちゃんと俺の話を聞け」


強く言わなければならないほどに。


「ひかるはお前とどんな約束をした?」


お前を傷つけないと言ったんじゃなかったか。


「殿下はどんな誓いを立てた?」


お前を幸せにすると言ったんじゃなかったか。


「お前は、二人を信じないのか?」


目黒が戻って来たと会いに来れば襲われ、気がつけば森が無くなっている。

混乱してるんだろう、何が起こったのかついて行けず。

優しくしてやりたい。怖かっただろうと抱き締めてやりたい。

けれどやっぱり許してはいけない。

ラウールを守るために、傷つけないために。休む間もないほど尽くしてくれている二人。

そんな二人を。俺の大切な仲間を疑うことは、俺が許さない。


初めて見せる俺の怒りに、怯えた表情を見せるラウール。

目黒の服をきゅっと掴む指が震えている。


「信じられないならもういい、好きにしろ」

「やだ!ふっかさん!」

「帰ろう」

「ごめんなさい!ごめんなさいふっかさん!」

「それを言うのは俺じゃないだろ!」


どうして俺に謝るんだ。

どうしてお前が泣くんだ。


「甘えるのもいい加減にしろ!」


甘やかしたのは俺たち。ラウールは与えられた愛情を素直に受け止めただけ。

ラウールは悪くない。分かってる。そんなこと分かってるんだ。


「お前の仲間は目黒だけか!俺たちはお前の何だ!」


ただ、寂しかった。

ラウールが信じてくれなかった事が。

二人をまるで敵のように見る瞳が、俺たちは必要じゃないと言われている気がして。


「何をしても許されると思うな!!」


ラウールに、こいつらを信じさせてやれない自分が許せなかった。


「もういいだろ。落ち着け、ふっか」

「…ごめん、俺がちゃんとしなかったせいで」

「お前だけのせいじゃない」

「俺が、俺がもっとちゃんと、」


ラウールが泣いている事に耐えられなくなったんだろう、王子が後ろから肩を押さえる。

それに堪えきれず涙が溢れ、ラウールが震えた声で「ごめんなさい」と。

だから、どうして俺なんだ。


「どうする、ラウール。ふっかがこれじゃあもう話は出来ない。俺たちは戻るが、お前は残るのか」


淡々と。一見冷たく感じる王子の声。

今は近づき過ぎない方がいいと気遣っている事が、ラウールに伝わってるんだろうか。


「ふっかさん、」


分かってる。ラウールが何を求めているのか。

「来い」と言ってほしいんだと。「一緒に帰ろう」と呼んでほしいんだと。

けれどそれじゃ今までと何も変わらない。

目黒に何かあるたび、きっとラウールはまたこいつらを疑うだろう。


ラウールにとって、目黒と同じ存在になれるだなんて思ってはいない。

俺たちも、目黒のようにラウールを唯一としては見てやれない。

それでも大切に想い、これからもそうしてやりたいと思ってる。

だから今、ラウールから求めなければ変わらない。

ちゃんと俺たちを信じて戻って来なければ。


「俺はもう何も言わない。お前が決めろ」


突き放した言葉に、ラウールが目を見開く。

見捨てられたと思わせてしまっただろう、ポロリと涙がこぼれた。


すると突然、辺り一面が眩しく照らされた。


「団長!」

「殿下もいらしたぞ!」


数分で一つの森が燃え尽きるほどの山火事が起こり、そこに向かおうにも氷の壁で入れない。

その二つが同時に起こると言う事は、そこには皇太子と護衛団長の存在がある。

護衛団とは言え王子の氷を破れる者はおらず、解除されるのを待っていたんだろう。

ザリザリと土を踏む音が聞こえ、声が増えていく。


さぞかし肝を冷やした事だろう。

森が燃えている事に気付き、もしやと探してみれば団長と王子の姿がない。

何かが起こっているのは明白なのにそこに近づく事すら出来ず、壁が消えるのを待つ間気が気でなかったはずだ。


「ご無事ですか!」

「ああ、もう終わった」

「勝手に外に出られては困ります!」

「文句があるなら団長に言え。今回のはあいつらのスタンドプレーだ」


二人に駆け寄る団員たち。

青い顔をしながら、そっけない答えにも慣れているため無事を確認するなり次の動作に移る。


「敵は」

「その辺に転がってる黒いのがそうだ。どうせもう死んでいる、確認は明日でいい」

「了解いたしました。ではもう引き上げますか?」

「ああ、戻っていい」


ひかるの巻き添えを食らわないために作られた耐熱性マント。

残り火の可能性を考え、今着ている二人のマントをそれと交換する団員たち。

そして同じ物を持ち、俺に近づいて来る一人の男。


「お怪我はございませんか?」


食堂で表情を変えなかった一人。

つまり、団長に近い立場にいる人間。

ひかるを敬い、団長のためなら命など惜しくないと。それを公言し、正にそのように動く。

王子とひかる直々に副団長へと任命されるのは当然で、本人もそれを名誉だと思っている。


「ないよ。悪かったな、連れ出して」

「いえ。ですが、次回からは報告していただけると助かります」

「分かった」


こいつは俺の事が好きじゃない。

突然王子の側近として現れ、幼なじみだと言うだけで尊敬する二人の傍にいるからだ。

心配している口ぶりで言外に「またお前か」と。冷めた瞳がそう伝えてくる。

俺が振り回しているのは事実。言い訳のしようもなく、むしろ申し訳ないとすら思う。


「何があったのですか」

「詳しい事はまだ分からない。また団長から説明があるだろう」

「ラウール様に関係が?」

「いや、あいつは巻き込まれただけだ。関係ない」

「そうですか」


つくづく自分は甘いと感じる。

ここでラウールが起こした事だと言えば強引にでも連れ帰る事は可能だろうに。


これまでとは違う俺たちの位置。

人前でこれだけ離れていた事は無かった。

こいつはそれを不審に思っているだろう、何も思わないのなら副団長には向いていない。

じっと探るような視線を感じ、ラウールが俺に目を向ける。


「お連れしますか?」

「必要ない」

「ですが」

「あいつらの事は放っておいてくれて構わない」


「っ!」


ラウールが自ら城に戻るために護衛団の手は必要ない。

それを借りれば、無理に戻されたと感じたまま過ごす事になってしまう。

ラウールからの視線を感じながらも気づかない振り。


「宜しいのですね?」

「ああ」

「了解いたしました。一応お渡ししておきます」

「ありがとう」


出されたラウールと目黒のマントを二人分。

受け取った俺に、ひかるの元へ戻るため背を向けた副団長の口元が弛んでいたのが見えた。

ああ、こいつはラウールの事も嫌いだったのか。


感情の揺らぎはない。当然そうだろうと思ったからだ。

護衛団長としての職務。ラウールの護衛。ひかるの事だ、どちらも手を抜いたりはしていない。

けれど格段に減っただろう団での時間。それをこいつが面白いと思うわけがない。

一瞬の弛みさえなければ俺なんかに気付かせなかったラウールへの嫌悪。

ひかるはそれを知っていても尚、俺たちを信じてくれたんだろう。


「それでは先に戻ります」

「ご苦労だった」


詳しくは明日調べる事になり、団員たちが山を降りていく。

残った三人で、自然と目が合った。

端からラウールたちを置いて行くつもりはない。さて、ここからどうするかと。


真っ先に動いたのはひかるだった。


「目黒を渡せ。連れて降りる」


目黒を腕に抱えたまま座り込んでいたラウールに近づき声をかける。

抵抗するかと思っていたが、すんなりと手を離したラウール。

俯いたその瞳からは光が消えていた。


「お前はあいつらについて行け」


ひかるはラウールが共に降りる事を一切疑っていなかった。

目黒を肩に乗せ、「先に行く」と振り返りもせず降りて行った。


「ラウール、行こうか」


続いて王子。

かけられた言葉にこくりと頷き、差し出された手を取る。

何も言わず、されるがまま。

立ち上がり手を引かれ、王子について行く。

俺を見る事もなく、俯き。まるで小さな子供のように。



『俺を、捨てないで』



その姿に気付いた。


俺は、ラウールに。

してはいけない事をしてしまったのだと。






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