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ラウールの警戒心を解くためだろう。その点はよく調べたと誉めてやりたい。

けれど姿を消した理由までは調べられなかったのか、平然と俺たちの前に立つ目黒。

知っていればこの二人を前に、こうして笑みを浮かべる事なんて出来ないだろうに。


「お久しぶりです」

「ああそうだな」

「ラウールは今どこに?」


おいおい、二人に挨拶はどうした。


いくら嫌ってるとは言え礼節は守る目黒が二人を無視するなんてあり得ない。

佐久間の時と言い調べ方が中途半端過ぎるだろ。


「お前は何故ここに?」

「戻ってまいりましたので、ラウールに挨拶をと」

「ラウールはもう寝てる。明日にしてくれ」

「早く顔が見たいんです」


気付け。背中が熱いし寒いしこっちは大変なんだよ。


ひかるの事を少しも気に止めない目黒。

目黒について調べていたのなら、いつも護衛についていたのがひかるだと知っていてもおかしくないのに。

ただの下っぱをつけていると本気で思っていたんだろうか、ラウールを守る事がこっちの国の最重要と知っているはず。

いくら能力を出さなかったとは言え直接ひかるに事情聴取もされただろうに、何故こんな奴を寄越したのか向こうの神経を疑うレベルだ。


「バカ過ぎるな」

「そうだな。ふっか、話をするだけ無駄だ」

「俺に挨拶もないとは」

「元々あいつはお前を見下していただろう」

「俺が、あいつを、見下していたんだ」

「どっちもどっちだ」


いやお前もな。


「クオリティが低すぎて話すのも面倒だ。捕らえろ、護衛」


王子の言葉にひかるが剣を構える。

それに目黒がうろたえた。


「何を、」

「もっと良く調べてから姿を変えるべきだな。そいつは寝てるラウールを起こしてまで会おうとはしない」

「まだ佐久間の時の方がマシだった。目黒になりきりたければもっと性格の悪さを出せ」

「何の話を」

「それと残念だが、ラウールはここには居ない。そろそろお前に会ってる頃だ」


え?


「気付かないとでも思ったか、ふっか。隠したければ窓くらい閉めとくんだな」

「あ」


そうか、そこまで気が回らなかった。


「さっさと斬れ」

「ちょ、待っ」

「心配するな、本物の目黒なら切られたくらいじゃ死なないらしい」

「くそっ」


ニコリと笑う王子に青ざめた顔を見せ、もう逃げ出す事しか考えつかなかったのか背中を向けた目黒。

その目黒の前に、ピンクの髪をした佐久間が現れた。


「侵入者だ!」の声にこーじと分かれそいつを探していると、見知らぬ男が城の中に入ろうとしていて。

あとを尾けると目黒に姿を変え俺の部屋の方へ向かっている。

こいつが自分に姿を変えた奴かと考えたけど確証がない。

躊躇わない男とは言え罪のない人間を殺したいわけじゃない佐久間は、それを得るまで姿を消して様子を伺っていた。


「お前が俺に化けてた奴?」


ふーんと言いながらくりくりとした目で下から見上げる。


「すげーな、まんま目黒じゃん!」

「あいつはもっと態度がでかい」

「それにもっと腹が座ってる」

「そっかー」


その瞬間、イヤな予感がした。


「やめろ佐久間!!」


叫ぶと同時、目黒の喉元へ向けた袖から出したナイフがピタリと止まる。


「止めんなよ、ふっか。どうせ殺すんだし、別に誰が殺しても一緒だろ?」



『めめが、佐久間に攻撃させちゃダメだって。佐久間が佐久間じゃなくなっちゃうって。お願い、ふっかさん。佐久間を守って』



「一緒じゃない、お前はダメだ」

「何でだよ」

「分かんない、けど、」

「何だそれ」


言っても良いんだろうか、目黒が言っていたと。

それを言ったとして、こいつは信じてくれるんだろうか。


「頼む、佐久間。ここは、」

「なら俺が行こう」


躊躇う俺に、佐久間は納得しない。

このままでは刃が刺さってしまうだろう。目黒じゃなければ即絶命するほど深く。

何故佐久間の攻撃を目黒が止めるのかは分からない。攻撃する事によって何が起こるのかも分からない。

けれどここは二人を信じなければいけないと、何故か強く思った。


「何すんだよ涼太!」

「ふっかが止めたんだ、何か理由があるんだろう」

「俺がやりたかったのに!」

「自分に化けられて不愉快なのは分かるが、ここはふっかに従え。それにまだ殺してはいない。話が済んだら好きにしろ」

「…分かった。次は止めんなよふっか!」


王子に向かって怒る佐久間の後ろには凍りついた侵入者。

見開いた目、大きく開いた口。殺してはいないと言ってたけどもう意識はないんだろう、能力が解けた男は目黒とは程遠い外見をしていた。


「こいつか、護衛」

「そうだ」

「逃がした責任はどうする」

「俺が取る」

「分かった、処遇は楽しみにしてろ。とりあえずこいつを運べ」

「誰か呼んでこい、佐久間」





凍ったままの男を牢まで運び。

さてここからどうするか、すぐに話を聞くかそれとも朝まで置いとくか、と話していると何故か阿部がやって来て。


「俺やってみたい、聴取ってやつ」


と言い出した。

どうやら聞きたい事があるようで、ひかるは止めたがそんなの聞く男じゃない。

これまでの調べで能力は“変貌”。攻撃性はなく、ただ姿を変えられるのみ。その相手の能力までは受け継げず、けれど狙った相手に近付き目的を達するには手っ取り早い力。

ならば自分が傍に行ってもいいじゃないか行きたい見たい話したい!と譲らない阿部に、そこで踏ん張れるなら恐らくひかるは護衛団長になれていない。

自分も同席する事を条件に阿部の接見に許可を出した。


「ねえ、目黒になったんだって?俺も見たいんだけど」


王子によって首から上だけ溶かされた氷。

目を開くなり満面の笑みが待ち構えていて、面食らった表情を見せる侵入者。


「わあほんとにそっくりだ!すごいねえ」


地面に転がされた自分を覗きこむ細身の男。ニコニコと笑う顔はどう見ても弱そう。

けどその周りには自分を凍らせた男や刃を突きつけた男。それにそいつらと仲良さそうにしてた奴ら。

大人しく言う事を聞き目黒に姿を変えればパチパチと手を叩かれる。

バカにされてる気がしたが何となく言っちゃいけない気がして何も言わずにおいた。


「で、何が目的?」


顔を覗きこまれ反らした先には凍らせた男。


「ラウールに会って何する気だったの?」


追ってきたからその反対を向けばナイフを見せつけられ。


「ラウールの何が欲しいの?能力?身体?それとも」


ぐいと両頬を包まれ正面に向けられたかと思えば、やはりニコニコと笑顔があり。


「欲しいのは、血液。かな?」


言葉に驚いた瞬間、頭が燃えた。


「阿部に触れるな」


いやむしろ触ってんの阿部だから。

若干同情しながら、こんな事もあろうかと常備されているバケツに溜められていた水を、侵入者の頭にぶっかけて消火してやる。


「いちいち燃やすなよ、阿部がヤケドしたらどうすんだ」

「これくらい避けられない男じゃないだろ」

「お前の阿部の評価は難しすぎる」


実際燃える前に手は離していたけれど。

確かに阿部も何ともないみたいだけれど。


「血液で合ってる?」


むしろひかるが燃やす事分かっててやりやがったな、こいつ。


「何で、それを」

「認めちゃうの?頑張んないの?つまんね」


どんな返しを期待していたのか口を尖らせながら「ちょっと考えれば分かるでしょ」と阿部。


「あの薬、未完成なんだろ?」


佐久間が盗んで来た薬。

あれが完成品ならもうラウールを追う必要はない。

ならばあれには何かが足りない。それは恐らくラウールの何か。

ラウールを拐いたいなら複数人いないと無理だ。なのにこいつは一人で侵入してきた。

狙いは本体じゃない、恐らく部分的なもので十分なんだろう。

皮膚?髪の毛?いや薬ならもっと混ぜやすいものがあるじゃないか。

生きていく上で最も必要なもの。ラウールの能力を作り出すもの。そして弱いこいつでも近付けさえすれば奪えるもの。

それがラウールの血液だと阿部は結論づけた。


「いつの間に」

「ラウールの能力が分かんなかったからさ、ちょっと時間かかっちゃったんだよね」

「能力?え、だってお前」

「あれ違ったみたい。ひかると涼太も分かったんじゃない?」


ねえ?と振り返る阿部に、王子と目が合った。

やっぱりあの時のものはラウールが起こしたものだったのか。


「力の作用は何となくな」


使われた者にしか分からないラウールの能力。

あの短時間で二人は気付いたと?顔色も変えていなかったのに。


「お前は知っているのか、ラウールの力を」


ひかるが侵入者に問う。

頭を燃やされ、更にひかるの背には熱で温められた空気がゆらりと揺れている。

何が楽しいのか笑みを絶やさない阿部の後ろに立つ、終始敵意を放つ男。腕を組み、見下ろされ。これまで幾度と顔を合わせていた時とは違う、自分の国でも感じた事のない威圧感を見せつける。

ようやくこの目の前にいる男が団長だと気付いたのか、すでに逆らう気は失せたようだ。

がっくりと項垂れながら素直に口を開いた。


「“支配”だと、聞いた」

「どんな力だ」

「その場の全ての能力を、意のままに扱えると」


ああなるほど。誰も間違ってなかったんだ。

コピーだと思ったしょうたも、増幅だと感じた阿部や目黒も。そして減退だと言った王子も。

誰も間違っていない。ラウールの能力は、その全てを備えていたんだから。






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