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「ふっかさん、見て!魚がいるよ!」


少し足を伸ばしてやってきた湖。

周りに建物はなく、見晴らしの良いだだっ広い空間にぽつんとあるそれは阿部のお気に入り。

冬が来たと言うのに湖に氷は張っておらず、自由に泳ぎ回る魚を見てラウールが驚いた声を上げる。


「演習場が近いからな、ここは氷が張らないんだ」


訓練場では能力は使えない。城の敷地内にあるからだ。

あそこは身体の基礎値を上げるため、トレーニングや格闘術などを主に行う。

そして別に作ったのが、護衛団が思う存分能力を使えるよう敢えて建物を置かないこの場所。

団長が遠慮なく炎をぶっ放すおかげで他の場所よりも気温が若干高いと思うのは俺の気のせいじゃないはずだ。


「ひかるは凄いね」

「そうだな」

「みんなひかるを尊敬してるんだよ」

「そうか」

「さすが団長だね」


能力を思うがままに使うためには体力と精神力が必要。

ひかるはどちらも必死で鍛え上げた。


「大変だったんだぞ、ひかるが団長になるまで」

「そうなの?どうして?」

「若かったし、あの可愛げのない性格だろ?そん時の団長に嫌われててさ」

「へえ」

「まぁ我慢してたんだけどな、ひかるにしては」


そう、ひかるにしては。



学校を卒業し、すぐに入団した護衛団。

能力の強さに加え、王子の友人と言う事もありそれは大層に迎えられた。

けれどそれを面白く思わない奴は当然いて。正にその時の団長が筆頭で。

自分を敬わないひかるに対し他の新人とは比較にならない、いやその時いた団員ですらこなせない量の訓練を言いつけた。

だがそこは我らがひかるさん。難なくこなした上に「これで終わりか」と余計なことまで言って更に嫌われた。


護衛団とは国を守るもの。甘い訓練ではないだろうとひかるは入団前から覚悟していた。

だから訓練ならば我慢できる。これくらい出来なくては務まらないと。


それにキレたのが阿部だった。

「何で黙っとくんだ、あんな奴らぶっ飛ばせ」と怒った。

もちろん俺はそんな事知らない。この頃にはすでに引きこもっていたからだ。

教えてくれたのは佐久間。「阿部の顔ヤバかった」と楽しそうに言っていた。

多分それを見ていたら阿部を天使と思うなんて血迷ってなかっただろう。


子供の頃からの刷り込みとは何とも恐ろしい。

阿部に言われてしまえばそうするしかない。

そう思ったひかるはすぐに動いた。

いつものようにバカみたいな訓練をこなした後団長に手合わせを願った。もちろん却下された。

だけどもここで何もせず帰ったら阿部に何をされるか分からない。

団長に嫌われるくらいどうって事ないけど、阿部に「護衛団なんか辞めちまえ」と言われるのは困る。

ようやく普通の生活が出来るのに。阿部の考えたおかしな筋トレをしなくて良くなったのに。

結果として今のひかるがあるのは、その阿部考案の“ひかるにしかこなせない無茶苦茶な筋トレ”にあるのだが、その時のひかるはそんな事知らない。今の護衛団でそれが使われて自分の部下たちが毎日死にかけてるなんて想像もしてない。


問答無用でひかるは炎をぶち上げた。


「かかって来ないならお前が死ぬだけだ、です」


まるでどこかの悪役のようなセリフを吐いて。

全く使い慣れていない敬語を忘れてなかった事がひかるの無駄な器のでかさを感じさせる。


それから城内は騒然とした。

今でも不器用だがその頃は更に抑えの効かない若者時代。

あまりの威力に訓練場の壁が焼け落ちたほどだ。

新人が団長にケンカを売った!説教だ!クビだ!でも殿下の友人だ!どうしよう!

右往左往する団員たち。そこに現れたのはその殿下。

友人を止めに来たのかと安心したのも束の間。


「どうした団長、やり返せ。俺が許可する」


とんでもない一言を放った。


こんな事を言われてやり返さなきゃ男じゃない。

良くて降格、悪けりゃ自分の首が飛ぶ。もちろん物理的に。

立ち上る煙の中、団長はそれを実行しようとしたが。


「何でお前の許可がいるんだ。引っ込んでろ」


無表情ながら内心ひかるは焦った。

ひかるにとって怖いものは王子や団長じゃない。

阿部だ。ひかるが唯一逆らえないのが阿部だった。

団長には自分の意思で戦ってもらわなきゃ困るのにこんな奴が出てきたと知られたら何を言われるか分からない。

誰が出ようがぶっ飛ばしさえすれば阿部は満足なのに、焦っているひかるは気づかない。


「俺が言わなきゃお前はただの弱いものイジメだぞ」

「そんな事してない」

「見てみろ、どう見てもやる気がない」

「そんな事はない。そうだろ?団長、さ…ん?」


そんな時でも呼び方に悩むのがひかるだった。


「とにかくやる気を出させてやったんだから感謝しろ」

「お前に感謝するくらいなら死んだ方がマシだ」

「なら死ね」

「断る」


元々王子は団長が気に入らなかった。

ひかるへの執拗なイジメではなく、自分の好みで団員を選んでいたことに。

どうせ格の違いにすぐに気付くだろうと放っておいたがいつまで経ってもくだらないイジメは止まない。

こうなればやり方なんてどうでもいい、ひかるの力を身をもって知れば二度とバカな考えは起こさないだろうと前に出てみたはいいが、お互いまだ血の気の多い年頃。

気の合わない同士で顔を会わせれば目的が変わるのも仕方がない事。


「くたばれ」

「お前がな」


瞬間、新たに発現する炎と氷。

規模が尋常じゃなく、その二つによって城が見えない。

一色触発な場に周りは青ざめた。下手すりゃ自分たちも無事でいられない。

「お前が行けよ!」「立派な戦死だったって言ってやるから!」「ほら!」

完全に腰が引けてしまった団長を前に押し出す団員たち。すでに団長の威厳など無いに等しくなっていた。


意を決し一歩前に出た団長。

そんな団長に向けられたのは射殺されるような瞳。


「そこで大人しく待ってろ。後で相手してやる」

「邪魔をするなら先にお前でもいいが?」


もう敬語を使う気すらないひかると、最初から偉そうな王子だった。


「出来もしない我慢を続けるからこんな事になるんだ。少しは反省しろ」

「何故俺が反省しなければならない。こんなのを団長に据えたお前らに責任があるはずだ」

「お前がもう少し早く動けばさっさと首に出来ていたんだ」

「人任せにするな。こんな小さな男、相手にするのも気が引ける」


随分な言われようだったが、団長はもう何も言えなかった。

幼なじみと言う気安さからか、遠慮のなさすぎるこの二人に割って入る勇気のある人間などこの国に数えるほどしかいない。

誰もが同じ状態で静かに見守る中、その日帝国の城が半分消えた。



「それで?」

「まぁ、怒られたらしいな」

「王子とひかる?」

「おう」

「それで団長はどうなったの?」

「すぐ退団届け出したらしいぞ。んでひかるが次の団長に選ばれた」

「すごい!」


目をキラキラさせて続きをせがむラウール。

俺からすれば今も変わらない二人だが、ラウールにとっては違う。

いつでも大人で冷静で、自分を大切にしてくれる二人のヤンチャな時代。

想像したら楽しくて仕方がないんだろう。


「団長さん、泣いた?」

「いやあんだけ言われりゃ泣く気も失せるだろ」

「お城なくなって王様も泣いた?」

「泣きそうにはなってたらしい」


怒りに任せて放った炎が思いの外でかく、城から煙が上がった瞬間はさすがの二人も血の気が引いて。

焦った王子が氷で消そうとした結果城全体が凍ってしまい本末転倒。

お互いに消せもせず溶かす事も出来ない能力。そのため氷の中から上がる炎は止められず、逆に氷のせいで余計に消せなくなってしまったため慌てて自ら氷を溶かすも時すでに遅し。

二人して崩れ落ちていく城をただ呆然と見ていたらしい。


「ふふふ」

「笑い事じゃねえぞ」

「だって、だって」


それから仲良くなったかと言えばそんな訳がなく。

ただお互い能力を使うのは危険だと分かり口喧嘩をするようになった。

それはそれで迷惑だ。


「じゃあここはひかるのための場所なんだね」

「まぁそうだな」


元々は演習場は訓練場の隣にあった。

バカ二人のせいでそこがしばらく使えなくなった上に、ひかるの能力の危険性を肌で感じた城の人間が「せめて能力を使う場所は違うところにしてほしい」と懇願し、ここが選ばれた。

まぁ訓練のたびに城を燃やされたら敵わないから当然の処置と言える。


「王子も怒られる事あるんだ」

「昔はしょっちゅう怒られてたぞ」

「ふふふ」


堪えきれない笑いに口を押さえて楽しそうなラウール。

こんな笑顔を見るのは久しぶりだと思った。


ここに来る前に作ってもらった軽食を食べながら草の上に転がって。

のんびりとした時間に、ラウールの表情が少しずつ和らいでいく。

手を出せば嬉しそうに握り返してきて。頬を撫でれば猫のように目を閉じた。


最近あまり時間を取ってやれず、ゆっくり会話をするのは寝る前だけ。

笑ってはいたがいつも寂しそうにしていた事は気になっていた。

無意識だろう、寝付くとすぐに寄ってくる身体。

俺の服を握り朝まで離さない。

起きている時は気を付けられても眠ってしまえばそうはいかない。

それほど我慢させていた事、家庭教師から聞かなければ分からなかったかもしれない。


「なあ」

「何?」

「俺に言いたい事ないか?」

「言いたいこと?」


この時間を壊したくはない。

だけどラウールの我慢が途切れた今しか聞けない。






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