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目黒に言われて考えること数日。

今だどうすればいいのか分からない。


以前、目黒が言っていた「新しいものを得るためには何かを切り捨てなくてはいけない」と言う言葉。

あいつは、自分と同じように“弱さ”を捨てろと言ってるんだろうか。


人を信じきれない弱さ。

なのに離れていくことを怖がる弱さ。

一線を引き踏み込めない弱さ。


その全てを捨てた時、俺には何が残る?

自慢じゃないが俺と言う人間は“弱さ”で出来ていると言っても過言じゃない。

臆病で怖がりで、周りがいないと何も出来ない弱い自分。

周りには前しか見てない奴らしかいないのに、どうして俺はそう出来ないんだろうか。


ラウールを信じる。

あいつらを信じる。

ただそれだけの事が難しくてどうしようもない。





そんなある日。

前向きさにかけては帝国一位タイを誇るやつらに呼ばれた。


「何故ふっかを呼ぶんだ」


暫定一位の護衛団長。


「お前があまりにも恐ろしい形相なもんでつい、な」


同じく一位の王子。


「何がつい、だ。お前は鏡を見たことがないのか」

「それは俺もお前みたいな顔をしてると言いたいのか」

「俺以上だろ」

「お前こそ鏡見たことないだろ」


その話、当分続く?


「今度の護衛団設立記念のプレゼント、宿舎を全面鏡貼りにしてやろう」

「いらん」

「遠慮するな」

「宿舎に来れなくなるぞ」

「どういう意味だ」

「自分の顔を絶えず見るなど拷問だろう」

「凍りたいのか」

「やってみろ」


続きそうだな。


いつもの事とは言え、ため息をつきながらお茶を淹れようと用意を始める。

目黒は俺にこうなれと言ってるのか?

むりむり、なれる自信もないしなりたいとも思わない。


「何してるんだ、ふっか」

「俺のことはいいから続けろ」

「そうじゃない、俺にはないのか?」


あぁそっちね。


ソファーに座り淹れた紅茶を一すすりしようとした所で王子のおねだり。

ついでにひかるの分も淹れてやり、こっちに座れと促した。

ひかるがこの部屋で座ることはまずない。大抵執務席の前に立ったままか、ドアの前で様子を伺ってるか。

どちらにせよゆったりと深く腰掛ける事はせず浅く、何かを察知次第すぐに動ける体勢でいるのは変わらない。


「お前もこっち来いよ」

「護衛と同じ高さに座るのは気に入らないが、まぁいいだろう」


ソファーに本でも積んで嵩まししとけ。


「で、どうしたんだ」

「護衛、さっきの話をふっかにも教えてやれ」

「何を言ってるんだ。俺にも守秘義務はある」

「ふっかなら別に構わないだろ?」

「…」


何なに?どういう事?


ひかるが渋ると言うことは恐らく業務上の話。

だとしたらそりゃ誰にでも教えられる話じゃないだろう。

なのに俺なら構わないとは?側近だから?大した仕事できてないのに?


「ふっか」

「ん?」

「これは他言無用だ。いいな?」


いや別に聞きたくないんだけど。


何に納得させられたのかすっかり話す気でいるひかる。

今の会話のどこにそれがあったんだ。


「先日、酔っぱらいを捕まえたと言っただろ」

「あぁ阿部が一瞬目を覚ました日か」

「そうだ」

「そいつがどうしたんだ?また何かやらかしたのか?」

「死んだ」

「え、死んだ?」

「そうだ。翌日の朝、牢を見に行くとすでに死んでいた」

「それって…」


ひかる曰く。

夜中に城下の酒場で暴れ、ひかるが捕獲した酔っぱらい。

護衛団が仕切る本部まで使用するほどではないため、城下に数ヶ所ある駐屯所に連れて行ったと言う。

そこで話を聞こうとするが、目はうつろ、呂律が回らず、椅子に座ることも出来ないほどにふらついていて、一晩置いておくことにしたらしい。

翌朝、再度聴取をするため兵士が牢に向かうとその男はすでに冷たくなっていた。


「一応検死に回し調べてもらったが、アルコールの反応はなかった」

「え、どういう事?」

「酒を飲んで暴れていたわけじゃなかったんだ。酒場と言うだけで、酔っぱらっていると俺たちが思い込んでいただけだった」

「怠慢だな」

「その通りだ」


いやいや、酒場で呂律回ってない男なんて酔っぱらいだと考えるのが普通だろ。


「それで、死因は何だったんだ?」

「薬物だ」

「あークスリね」

「恐らく過剰摂取だろうと言われたが腑に落ちない」

「何が?」

「名前らしきものが聞き取れたから調べたが、この国の人間じゃなかった。聞き間違いかとも思ったがどうやら違う」

「違うって?」

「誰もあの男の存在を知らなかった」


突然酒場に現れた男。

いくら目が虚ろいでいても身体がふらついていてもそこは酒場だ、よくある光景なので誰も気にしない。

男は手始めに入り口すぐにあったテーブルを持ち上げ投げた。椅子も投げ、止めようとした客には殴打、一発でぐったりとした身体を持ち上げそのまま投げる。

普通ではない腕力。これは能力だと店にいる全員が悟りすぐに護衛団に連絡を入れた。


話を聞く限り特に目立っておかしいところはないように思う。

大きな帝国のため、出稼ぎや観光に来る他国の人間だっている。

その中にクスリをやってる人間がいたって別に不思議じゃないのに、ひかるは経験から何かが違うと感じているようだ。


「男が死んでから城下で聞き込みを続けたが、誰も男のことは知らなかった」

「うん」

「それどころか、あの日は揉め事が多かったそうだ」

「揉め事?」

「ああ、こっちにまで話が来ない程度の小競り合いらしいがな。ただ話を聞いた全員、その揉め事を起こした相手のことを知らない奴らだと言った。全員がだ。ありえない」

「それは、確かに…」


城下には色んな人間が暮らしている。その中には気の合わない者もいるだろう。

肩がぶつかった、盗みを働いた等の、小さな言い争いから護衛団を呼ぶほどの争いまで、数え上げればキリのないほど。

もちろん観光客同士のケンカもあるし、知らない人間がその相手だとしてもおかしくはない。

ただ、それがその日一日の全てとなるとひかるの違和感にも納得がいく。


「しかも全員が焦点が合わず言葉もまともに話せていなかったらしい。気味が悪かったと言っていたそうだ」

「全員、クスリをやっていたと?」

「それしかないだろう」

「しかも、うちの国民じゃない」

「そうだ」


それから、共通点がもう一つ。


「誰かを探していたようだ」


通りすがりに顔を覗きこまれる。

そんな事をされればよほど気の弱い人間でもない限り不穏にもなるだろう。

小競り合いの原因はこれだったのか。


「俺が聞いたのはここまでだ。続きはあるか?護衛」

「あれから身元不明の遺体が数体出た。どれもうちの人間じゃない。調べてはいるが恐らく身元は分からないだろう」

「それって」

「男と同じだ」


ひかるが阿部に殴られたと。しかもずっと眠り続けていた阿部に。

その衝撃で頭の片隅にも残らず忘れてしまっていた一夜の出来事。

まさかこんな大事になるとは。


「報告は以上だ」

「分かった。下がっていいぞ」


ひかるはこの不可解な事件を自分たちで解決する気でいる。

本当にただの報告だけのつもりだったんだろう、王子の言葉に素直に部屋を出ていった。


忙しい男なのは知っていた。

俺たちとは違う種類の仕事。俺には想像もつかない出来事に毎日走り回っている。

昼間はラウールの護衛。たまに俺や目黒に任せ仕事に戻る事もあるが、それはどうしてもその日外せない用がある時だけ。

団の仕事はラウールが休むために部屋に戻る夜に片付けているんだろう。

本当は、ラウールよりも優先すべき仕事があるだろうに。


「あいつ、寝れてんのかな?」

「さあな。元々脳みそが筋肉と責任感で埋まってる男だ。どうせ横になっても眠れないだろ」

「せめてラウールの護衛を解けないか?」

「バカを言うな、それが最重要だ」

「そうだけど…」


ラウールにもし何かが起こっても、その時ひかるが倒れでもしていたらどちらにしろ滅亡は避けられない。

この国にはひかるが必要だ。だから何よりもあいつの身体を大事にしてやりたい。

自分は不死身だと思っていそうな護衛団長の代わりに、周りが心配するくらい許されるはずだ。


「筋肉バカの話はもういい。それよりふっか、この話どう思う」

「どうって」

「俺が何のためにお前を呼んだと思ってる」


いや、まぁそんな気はしたけど。


「ラウールだろ、探してんの」


ほんとは少し期待していた。

俺があいつを保護したことで未来が変わるんじゃないかと。

大切に思う人間が増え、毎日笑顔で過ごしている。そんなラウールが変わるはずがないと。

だけど、目がうつろな他国の人間。それがあの時のラウールと重なった。


「お前にしては認めるのが早いな、珍しい」

「認めたくねえけど、それしかないだろ」

「隣国の仕業だと思うか?」

「そうだな。けどどこから入ったんだ?」

「城門も完全じゃないからな。抜け道など探せばどこにでもある」

「そうか」


恐らく仕組んだのは隣国。

ラウールを手に入れるために動き始めたと考えていいだろう。


だけど分からない事はまだある。


「どうやって、ラウールの存在を知ったんだ?」

「まぁ、向こうにも“居る”と考えるのが妥当だろうな」

「そんな、まさか」

「こっちに複数いるんだ、向こうにいてもおかしくはない。だから護衛の任務は解かない。あいつの体力が尽きるまではこのままだ。いいな?」


王子はこんな事がこの先も続くと考えているんだろう。

隣国からの侵入者。しかもクスリを使いまともではない状態の。

そんな奴らにラウールを奪われたら。クスリを使われたら。

またあの時と同じ事が起きてしまう。


「目黒に聞いてくる」

「何をだ」

「クスリの事だよ」

「それなら今護衛が聞いてるだろう。後の報告で構わない」

「ひかる、目黒のとこに行ったのか?」

「他に手がないからな」


ひかるにはプライドと言うものがない。

プライドで飯が食えるのか?と真顔で言う男だ。

基本自分の行動は正しくあろうとするから頭を下げる事はないが、必要とあらば仲違いをしている人間だろうが気にせず話をしに行く。

ひかるや王子にとっても、この国で最も薬に精通しているのは目黒で。その目黒に話を聞くのは当たり前の事でしかないんだろう。


「ほんと素直じゃないな、お前ら」

「何の話だ」


今回のことはきっとまだほんの序盤。

分からない事が多すぎる中、俺たちが出来るのは一つずつ解決していく事だけ。


何故あいつらはラウールがここに居る事を知ってる。

何故あいつらはそれほどまでにラウールを欲しがる。

何故あいつらはラウールの能力を知ってる。


そもそも。

ラウールの能力って何なんだ。






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