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自分の分かる範囲で丁寧に話したラウールの発現の原因。


「ラウールは悪くないんだ、だから」

「当たり前だろう」

「悪いのは弱いお前だ、ふっか」


もしこの事が理由でラウールが罰せられたら、との俺の不安は見事に外された。


「ラウールの前で怒鳴ったり泣いたりするお前が悪い」

「そもそもお前は父親代わりじゃないのか、ラウールに守られてどうする」

「ラウールがあんなに優しい子に育ったのは俺の教育の賜物だな」

「バカ言え、お前がやったのはせいぜい家庭教師をつけたくらいだろう」

「いい教師を選ぶのも親の役目だ」

「いつからお前が親になった」

「たった今からだ。ふっかには任せられん」

「それは同意だな」


珍しく気の合った二人。

今度はどっちがラウールの新しい親になるかで揉めはじめた。

もう好きにしてくれ。


「良いんでしょうか」

「いいんだよ、こいつらはこんなもんだ」

「そう、ですか…」


目黒も同じように考えていたんだろう。

ラウールを助けてやりたいと。

だからラウールに不利になるような言葉は使わず、なるべく救われる方法を探そうとしてくれた。

そこまで考えてくれていたのにこの二人のこの反応。

そりゃ死んだような目にもなる。


「ラウールの髪、金だっただろ?」

「そうでしたね」

「過去の色を調べてみたんだけど、これまで発現してないようなんだ」

「これまでにない能力と言うことですか?」

「似たような色はあるんだけどな」


ラウールの能力発現の後、城にある国の歴史を読み漁った。

それで分かった事と言えば同系の色は能力も似ているという事、能力の強さでより鮮やかな色に変わるという事。

元々この世界の人間の髪は黒だが、例えばひかるの赤はどこからでも目を引く真紅に近い。これはひかるの炎の強さを表している。

王子もしかり。やつが能力を使う時にはまるで海のようなキレイな青に染まる。

つまり、同じ能力でも力が弱ければ弱いほど黒みが強くなり、濁った色になる。

ラウールは、混じりけのない純粋な金色だった。あれ以上の輝きはないだろうと思えるほどの。

何も残っていない記録。ラウールの力のことは何一つ分からなかった。

ただ、色と能力の種類の豊富さに感心しただけで終わってしまった。


「けど分かんないのがさ、」

「はい」

「俺とお前の力って似てるのに全然色違うだろ?何でだろ」


俺と目黒の色は全く違う。

目黒は銀に近い灰色に変わるが、俺は茶色だ。

記録を見るまではそれほど気にしたことがなかった髪の色の変化だったが、自分の力はそれほど強くないことを知り少し落ち込んだのは秘密。


「茶色?あなたはご自分の色をそう思っているのですか?」


そんな俺に目黒が目を見開く。


「違うのか?」

「違います」

「じゃあ何だよ」

「僕も色の種類について詳しくはないので分かりやすい色でしか言えませんが、深澤さんの色は銅に近いのではないでしょうか」

「どう?」

「はい」


どう…銅…、茶色とどう違うのか分からない。


「それから僕と能力が似ていると言いますが、それも違います」

「そうか?同じようなもんだろ。そりゃ俺はお前みたいに回復させてやれないけど」

「それを言わせてもらえば、僕は命を吹き込むことはできません」

「与えるのは一緒だろ」

「…」


呆れたような大きなため息。一瞬向けられた死んだような目。

まさか自分にそんな目を向けられるとは。



俺の能力は命。

生命あるものの成長を促す目黒に対し、無機物、つまり命のないものにそれを吹き込む事ができる。

子供の頃は制御ができず、車のおもちゃがどこか行って帰ってこなかったり、家のレンガで作ったゴーレムが庭を破壊したりとよく叱られた。

今では自分の意思通りに動かせるようになったので、その辺の石ころを鳥に変えて手紙を送ったり、同じようにゴーレムを作りラウールと遊ばせたりしている。

俺も成長した。



「あなたのような使い方が本来のものではあるのでしょうが、あまりに日常使いしすぎでは?」

「だって便利なんだよ」

「そうですか…」


心なしか目黒が俺にも冷たくなってきた気がする。


より固い物質を使えば対象物に風穴を開けられるし壁だって作れる。

壊れたら命を吹き込み直せばいい。粉々にされたら形を作り直せばいい。

無限に使えるであろう、その使い方次第では恐ろしい能力。

だけど俺はそこまでの力がない。正直な話、大きなものを動かすのは疲れる。


「話は終わったか?」


いつの間に親バカ自慢(対象は一人)が終わっていたのか、王子とひかるがこっちを見ていた。


「今日からこいつをラウールにつける」


そう王子が顎を向けたのはひかる。


「仕事はどうするんだ」

「これが優先案件だからな」

「いや、でも」


ひかるがラウールにつく?

いつの間にそんな話に?


ひかるを見るも特に異論はないらしく黙ったまま。

こいつが素直に言い付けを聞くなんてどんな話をしたんだ。

いやそれよりも。


「お前が傍にいるときにラウールに何かあったらどうするんだよ」


帝国一の能力。

それをラウールが使ってしまったら。

ひかるは不器用だがそれなりに制御できる。だけどそれが出来ないラウールが使ってしまうことを考えたら。


「バカだな、ふっか。それくらいのことは折り込み済みだ」


国の滅亡。一面の焼け野原。

あの時のような光景が脳に浮かび、ぞっとした。

ぶるりと背を震わせる俺に、ふんと鼻で笑った王子。


「認めたくはないがこいつは強い。しかもバカみたいに力に限界がない。能力が勝手に溢れ出ると言ったな?目黒」

「はい、それで意識が遠退きました」

「こいつにはそれがない。ただの脳筋だが体力は無限だ。能力は分からないが、恐らく先にラウールの力が尽きるだろう」


ちょいちょい失礼だが説得力のある言葉。


「それ以前にこいつ相手ならふっかが泣こうが喚こうが日常茶飯事。ラウールの感情は揺さぶられない」


つまり。俺もこのままラウールと一緒にいられる、と。


恐れていた事。

ラウールが俺と引き離されてしまうのではないかと思っていた。

そうならないために、気が合わない二人で解決法を話し合ってくれたのか。


「ありがとう」

「気にするな。お前が居なくなるとラウールが泣いてしまうからな」

「俺が消されんのかよ」

「それ以外に何がある」


あぁ全然俺のためじゃなかった。


「ではそれでいいな、ふっか」

「ああ」

「なら今日からここに住め」

「は?」

「当たり前だろう、こいつは城から離れられない。ならお前たちがここに来る以外にない」

「いやいや」

「荷物のことは気にするな、新しいものを用意してやる。今使ってるものはラウールの大事なもの以外あの家に置いておけ。あぁ、目黒は別に来なくていいからそのまま使えばいい。特別にあの家で暮らすことを許してやろう」


まさか、それが目的だったんじゃ。


ひかるを見ると、うんうんと静かに頷いている。

絶対そうだ、こいつそれに釣られたんだ。

自分たちがまたラウールと暮らすために。ラウールを四六時中構うために。


だけど。

俺には他の方法は思い付かない。

これまでと変わらない生活をしていても同じことを繰り返すかもしれない。

なら、この話に乗るしか今はない。


「茶でも飲むか」

「そうだな、ふっか淹れてくれ」

「分かった」


開き直りとも言えるが気を取り直し。

しばし休憩を、と執務室の廊下へ出るドアを開ける。

そこにはひかるが来た時には誰も入れないため、だが何かをお出ししなければ!の使命感のもと使用人がティーセットを用意してくれている。

今日も違わずそれはあり、ありがたく部屋の中へ持ち込む。


「僕がやります」

「いいよ、お前も疲れたろ」


部屋の隅で用意をしようとした俺に、手を出す目黒。

何故か死んだ目をしている。


「阿部さんにお出ししようと持っていた茶葉があるんです」

「そうなのか?」

「疲れた精神をリラックスさせる効果がありまして。少し味に問題があるのでどうしようかと思っていたのですが、あの二人なら問題ないでしょう」

「うん?」


何て?


「これで鼻を押さえていてください」

「お、おお」


はい、と手渡されたハンカチ。

深く考える前にそれを鼻に当てたのを確認して、目黒がポットに入れた茶葉に湯を注いだ。

途端、


「う゛っ!」


嗅いだことのない恐ろしい匂いが鼻を直撃した。


「ラウールにも、と思ったのですがやっぱり止めておいて正解でしたね」

「おまえ…」


数秒も経たずに消えた香り。

跡形もなく見た目には美味しそうなお茶だけが残った。


ふわりと笑った顔。

もうこの顔には騙されない。

目黒は怒っている。

「お前は来なくていい」と言われたことに。


「僕からでは飲んでいただけないと思うのでお願いしても構いませんか?」

「あ、あぁ分かった」


トレイを受けとる俺に満足そうな笑み。

あれだけ苦味の強いお菓子ですら平気な顔をして食べる目黒が、味に問題があると言ったお茶。

どんな味がするのか考えただけでも恐ろしい。

長い付き合いの男たちとは言え、この目黒に逆らえる勇気など俺は持ち合わせていない。


素直に二人の元へ運んだお茶。

疑うことなく口にする二人。


「ぐおっ!」

「ぐはっ!」


そんな俺と目黒は、俺の淹れた普通のお茶を飲んだ。






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