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台所は使えない、蓄えていた食料も恐らく。

のんびり過ごしていたはずの居間も、壁に穴が空き腰かける椅子さえなく、残っているのは寝室のみ。

とてもじゃないが生活する場ではなくなった目黒の家。

これまで自給自足で暮らしてきたんだ、本人はそれほど困った様子は見られなかったが。


「とりあえずうちに来ないか?」


仕事の合間で申し訳ないが、片付けるくらいの時間なら開けられる。

ラウールのした事は自分の責任。

手伝わせてほしいと懇願する俺に、初め少し折れかけた目黒。

ラウールが嬉しそうにその周りをちょろちょろし始めた。


しかし。


「おしろに行けば寂しくないよ。王子もひかるもいるよ」


ラウールのこの言葉に、


「行きません」


あぁやっぱり。


「どうして?」

「どうしても」


まさか“嫌いだから”とは言えず。


「何で?」

「何でも」


“その二人に会いたくないからだ”とも言えず。

曖昧な言葉で断り続ける目黒に、ラウールの目が潤み始めた。


「めめは、俺が、…きらい?」

「なっ、」


しょんぼりと、くっついていた目黒から離れ距離を取ろうとするラウール。

嫌われてしまった、きっとしつこくしたからだ。

俯いた顔に、そんな心の声が聞こえる。


「ごめんなさい…」


震えた声。

床にぽとりと落ちた涙に。


「ハァッ」


目黒がでかいため息を吐いた。





******





「久しぶりだね、目黒」

「…ご無沙汰しております、殿下」

「元気だった?」

「ご存知なのでは?」

「そうだね、いつも見ていたよ。途中で毎回撒かれていたけどね」

「もう少し使える人間を見張りに使うことをお勧めします」


何故俺の周りはこうも好戦的なやつが多いんだろう。


「そうか。ならこれからはうちで一番の能力者をつけよう。おい、護衛」

「断る」

「光栄だろう?」

「見張りは俺の仕事じゃない」

「ならもっと役に立つ護衛をつけろ」

「昨日のことを言ってるのか?あれはうちの責任じゃない、ふっかの逃げ足の速さを舐めてたお前の責任だ」


いやまぁそれは俺も悪かったけども。いや違う、目黒のせいだった。


「と言うかお前は誰だ」

「目黒と申します、護衛団長様」

「何故お前がラウールといる」

「あなたに言わなくてはいけない理由がありません」

「離れろ」

「見えませんか?手を繋いでいるのはラウールの方からです」


三つ巴?三つ巴なのか?


顔を合わせるなりバチバチと出る火花。

一人ずつ会わせるべきだっただろうか。いや、どんな会わせ方をしても同じだろう。



昨日から新しい出来事が多過ぎて少しついていけない。


ラウールに能力が発現し、俺は死にかけた。

そのラウールは俺への依存が激しくなり、目黒には懐き。

そんな穏やかだと思っていた目黒は、焦ったり怒鳴ったりと初めて見るほど表情をころころと変え、そして死んだような目をして思わぬ毒を吐くことを知った。


「目黒、お前は傍に誰も置かない男じゃなかったのか」

「そんなつもりはありません」

「いつもボッチだっただろう、ほら城の入り口で」

「よく見ておられますね、暇なんですか?」

「何の話をしている。とりあえずラウールから離れろ」

「だから何度も言わせないでいただけますか?ラウールが、僕から、離れないんです」

「こっちにおいで、ラウール。そんな男の傍にいたら性格の悪さが移ってしまうよ」

「お前が言うな」

「あなたにだけは言われたくありません」



ラウールの涙に流され「行く」と言ってしまったはいいが、嫌々すぎるのが足取りに表れた目黒に合わせていたら、いつもの倍以上の時間がかかった下山。

枝が伸び草が伸び、こんな道あったか?と思えるほど邪魔をされた。

ラウールが、目に見えるほどに成長をする自然に目を輝かせていたから良しとするけども。


それから城に到着し。しばらく住まわせてもらうためには一言いるだろうと王子への謁見の申請。

一応連絡は入れていたが、昨日から行方不明扱いとなっていた俺とラウールの帰還に、心配してくれていたひかるまでが王子の執務室にやってきた。

いや、いらなかった。正直ひかるは今いらなかった。

そりゃいつか会わせなきゃいけない事は分かっているが、今日は疲れてるから勘弁してほしかった。


いつもの自席に座る王子。その前に立つ俺たち。入り口のドアにもたれるひかる。


二人が嫌いな目黒。

それを知っている王子。

何のことやら分からないが、恐らく二人の空気にただならぬものを感じているひかる。


「あぁそうだ、部屋が必要なんだったな。用意してやろう、お前の好きな入り口近くに」

「別に入り口が好きなわけではありません」

「何だ、ここに泊まるのか。なら宿舎に来い、ついでにそのヒョロヒョロな身体を鍛えてやる」

「お断りします、あなたのような筋肉は僕には不要なので」

「遠慮するな」

「してません」


あー空気が重い。

佐久間が恋しい。あいつがいればこんな空気にならないのに。すぐに変えてくれるのに。

どこにいるんだ佐久間。何で今日に限って来ないんだ。

あぁそうか、目黒がいるからか。

知らないやついたら来ないもんな、あいつ。


思わずついたため息。

口を開くやつをずっと追っていたラウールの目がそろそろ回りそうだ。

昨日から歩きすぎているのもあって若干足元がふらついている。


「めめ」

「どうした?ラウール」


そんなラウールに繋いでいる手を引かれ、目黒がふわりとした笑顔を向ける。

あぁその笑顔、懐かしい。


「めめ、だと?」

「それは愛称か」

「呼ばないでくださいね」


いやもう目黒にはずっとラウールとだけ話しててほしい。

お前ら二人は黙っててほしい。


「けんか、してるの?」


王子の氷のように冷たい視線。ひかるの炎のように燃える視線。

それを見てきたラウールにとって、目黒の死んだような視線は特に怖がるものじゃない。

だけどこの空気には普通ではない事を感じとり、尚更自分がムリに連れてきた目黒を中心に起こっている事だと思えば。


「俺の、せい?俺のせいでけんか」


「「「「してない」」」」


四人一斉。


「けんかなんかしてないよ」

「するわけがないだろ、こんな小物と」


うっかり涙ぐんだラウールに訂正を入れる王子とひかる。

こいつらは何よりもラウールの涙に弱い。


「大丈夫だよ、ラウール」

「みんな仲良いから心配するな」


対して目黒と俺の心配は別のもの。

今、興奮させるわけにいかない。

目黒がいじめられてると思わせてはいけない。

ここで能力を使わせてはいけない。


「そうだ、ラウール。腹減らねえか?何かもらいに行こう」

「うん…」

「ほら、目黒も行くだろ?お前も何も食ってねえし」

「そうですね」

「めめも?」

「一緒に行くよ」

「うん!」


あぁ良かった。機嫌治った。


二人を先に出し、その後ついて出る前に振り返り


「お前ら、後で説教だからな」


いつもいつもラウールの前で言い合いしやがって。

順に指差しながら伝えると、二人とも片眉を上げ微妙な表情をした。

やっぱりそっくりだよ、お前ら。






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