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「すみません、片付けまで手伝っていただいて」

「迷惑をかけたのはこっちだからな」



初めての能力発現に疲れてしまったのかそのまま眠ってしまったラウール。

連れて帰ることも出来ず、無事だった寝室を借りることになった。


その間、ラウールが目覚めるまで片付けを手伝わせてくれと申し出た。

もちろん断られた。そんな事はさせられないと。

だけどそれじゃ俺の気がすまない。

広くはないが物の多い目黒の家。

数日かけても元に戻るのか分からない片付け。

迷惑をかけてしまったのに、何もかも一人でさせるわけにはいかない。





「彼は一体、何者ですか?」


ある程度まで片付いた家の中。

少し休憩しませんか?と言われ、その言葉を受け入れることにした。

テーブルも椅子ももう使い物にはならないだろう。

もちろんいつもお茶を淹れてくれていた台所も。

ただの板切れと化した家具だった物。破片となった食器やガラス。危険なものは全て外に出し、使えそうなものは部屋の隅に寄せた。

壁には穴が空き、床に落ちた葉がひらりと風に舞った。

目黒と二人、床に直接座り再度詫びると「そんな事よりも」と。


「あの力は何なんですか?」

「コピー、らしい」

「コピー?」

「あぁ、しょうたがそう言ってた。俺も見るのは初めてだ」

「コピー…」

「どうした?」

「あぁ、いえ」


唇に手をあて考えこむ目黒。


「渡辺さんが、そう言ったんですか?」

「ああ。だから守ってくれと前のときに」

「そうですか…」


能力のコピー。

それがラウールの力だとしょうたが言っていた。

どんな力でも自分のものにしてしまえるんだと。

だから守らなければならない、奪われてはいけない。

ラウールを、敵になるかもしれない他国に渡してはいけないと。


「何か気になるのか?」

「いえ、何でもありません」


それっきり何も言わなくなった目黒。

与えるものだと思っていた自分の能力にも十分な殺傷力があることを知り、戸惑っているのだろうか。


あれは、目黒の力だった。

成長した木。枝が伸び、縦横無尽に家の中を駆け巡る。

首を絞められ宙に浮いた感覚。あれはきっと、俺を目黒から離そうとしていたのだと思う。

問題は、制御できなかったこと。

いきすぎた防御が、攻撃となるほどに。


「ご存知なのですか?あの方は」

「コピーだと言うことは知ってる」

「発現は?」

「今日が初めてだから、まだ」

「なら、言わないでもらえませんか?」

「どうして?」


信じられないんだろう、王子のことが。

ラウールの力を利用するんじゃないかと、疑っている。


「せめて、彼自身で制御できるまで。お願いします」

「けどな」


目黒は知らないだろう、俺に見張りがついている事を。

側近になった時からつけられたそれは、王子本人の口から告げられた。

もちろん信用されていないからじゃない、俺に何かが起こった時にすぐに把握できるようにと。

最初はうっとうしかった。何度か撒いた。

だけどその度に城に戻ると青い顔をしたあいつが居て。

「無事ならいい」とため息を吐かれ。

不安なのは自分だけじゃないんだと、それでこいつが安心するのならとそのままにするようになった。


「いえ、この事はあなたと僕以外は知りません」

「え?」

「ここにはあなた以外、誰も辿り着けないんです」


あぁそうか。森への侵入者を知る術を持つこいつが知らないわけがないのか。


森の奥深くにある小さな家。

主の思うがままに道を作る木々たち。

俺が無事にここに来れるように。到着するまでにケガのないように。

自分の力で見つけたと思っていたものは、目黒の導きによって作られたものだった。


「は、ははっ」

「すみません」

「いや、違うんだ」


ふいに笑いをこぼした俺に、目黒が申し訳なさそうな顔をする。

欺いたことを責められると思ったんだろう。

けど違う、お前がそんな顔をする必要はない。


「嬉しくて」


与えられていた導き。

目黒はちゃんと俺を受け入れてくれていた。

そうだといいと思っていたものに、明確に出された答え。


「ありがとう、目黒」

「はあ」


寂しかったからでも良い。

誰でもいいから話をしたかったからでも良い。

俺を選んでくれた。

その事が何よりも嬉しかった。





******





「めめは、俺が、…きらい?」


そっと摘まんだ裾。

同じような高さから向けられたすがるような視線。

目黒はそれを切って捨てられるような人間ではなかった。





ラウールはあの後全く目覚める気配がなかった。

強引に起こして連れて帰ろうとしたのだが起きず。

根元までしっかりと金に変わっていた髪を思い出し、あれだけの力を使えば疲れてしまっても仕方がない、と言ってくれた目黒に甘えることにした。


ただまぁほぼ壊滅状態の家の中、三人も休める場所なんかあるはずもなく。

夜通し目黒と話をして朝を待った。



そして朝が来て。

ラウールが目を擦りながら起き上がる。

今どこにいるのか分からないんだろうキョロキョロと見渡し、自分の部屋じゃないことに顔色を変えた。

今にも泣き出しそうな表情。

俺を探すため慌ててベッドから飛び降りようとする前に


「ラウール」


声をかけた。


「ふっかさん」

「おはよ」

「お、おはよ、ふっかさん!」


結局飛び降りてしまったが。


「いたいとこない?大丈夫?起きててへいき?」

「ないよ、元気」

「ほんと?」

「おー」


ぎゅっとしがみつく大きな身体。

ペタペタと腕やら背中やら触り、どこかまだケガが残っていないかと確認する。


「お前は?」

「俺はけがないよ」

「じゃなくて、疲れてないか?」

「うん」

「そか」


それなら良かった。

頭を撫でてやると気持ち良さそうに目を閉じる。

昨日の出来事が夢だったかのようにラウールは何も変わらない。


と、思っていた。

何も変わらず、来たときと同じように二人で山を降りるのだと。

目黒とは昨日が初対面だ。しかもお互いにあまり良い印象ではなかったろう。

だから、少しずつ慣れてくれればいいと。いつか目黒の優しさが伝わればいいと。

その程度にしか思っていなかった。


「おはようございます」


まるで猿のように俺の身体に長い腕を回すラウールに、笑みを浮かべた目黒が声をかける。

それに、ぎゅっと込めていた力が抜けた。


「お、はよ」


ラウールが。

挨拶を返した、だと?


「調子はどう?どこか痛んだりつらい場所は?」

「…だい、じょーぶ」

「うん」


ふわりとした笑み。

どこか、違和感。

何だ?


「朝食はどうしましょうか、深澤さん」

「ふっかさん」

「え?」

「ふかざわさん、じゃなくてふっかさんだよ」

「あ、あぁそうだね」

「俺はラウール」

「うん、知ってるよ」

「ラウールだよ」

「うん」

「ラウール」

「うん?」

「ラウール」

「…」

「…」

「?」


あぁ、なるほどな。


「呼んでやってくれないか?」


呼ばれたいんだな、自分の名前。

あと俺がふっか以外で呼ばれてんのめちゃくちゃ違和感だったんだろうな。


「ごめん、気づかなくて」

「大丈夫」

「ラウール」

「うん」


名前を呼ばれ。

俺の背中に回った腕にきゅっと力が入る。

ふふ、とこぼれた声が嬉しくてたまらないと言ってる。


「僕はめめだよ」

「めめ?」

「子供の頃そう呼ばれてたんです。そう呼ぶ人はもういませんが」

「そうか」


「めめ…?」


「そうだよ、ラウール」


恐る恐る声にした名前。

肯定され、更に力が入った腕にラウールの髪が頬に触れた。


あぁそうか。


違和感の正体を理解する。

ラウールが、俺を抱き締めてるんだ。

出会ってから数ヶ月一度もなかったラウールからの接触。

ぎゅっと回された腕は、ずっとそうして欲しかったものだ。


「めめ、だって。ふっかさん」

「そうだな、教えてもらって良かったな」

「ふっかさんは?」

「俺は…まぁいつかな。呼び慣れない」

「ふーん」


きっとこれはラウールだけのもの。

ラウールだから、子供の頃の、恐らく大切な呼び名を許したんだろう。


昨日の出来事はラウールにとってこれまでの自分を大きく変えた。

死にかけた俺は失いたくない特別な存在となり、それを助けた目黒はラウールの絶対的なものとなった。

どこにも行かないように、消えてしまわないように。

触れていないと心配でたまらない。


だから。


「めめも、一緒?」

「僕はここに居ないと」

「どうして?」

「このまま置いていけないだろ?」

「めめも一緒がいい」

「…」


そろそろ帰ろうかと告げた俺に、ラウールが目黒も連れて帰ると言い始め。


「めめは、俺が、…きらい?」


ボロボロになった家の修復を言い訳に断ろうとする目黒が折れるまで、そう時間はかからなかった。






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