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ラウールと出会って二ヶ月。

月に一度会うか会わないかだった佐久間とは毎週のように顔を合わすようになり、ひかるの部屋には糖分補給用の甘い菓子の種類が増えた。

王子は当たり前の顔してラウールに色んなものを買い与え、俺と言えば…


「何でこうなった」


新しい家が建つまでの仮住まいとして、城で暮らすことになった。


「家に帰りたい…」


城と言えば国の顔。

それを仮住まい扱いとは、育て方を間違えてましたよと王に一言もの申したい。


前に家を用意してもらう時にやつはこう言った。

「ずっと顔合わせてたら息が詰まるだろう」と。

だから城で暮らすとしても自分の時間くらいあるだろうと思っていた。

なのに王子の「息が詰まる」は俺と基準が違うのか、朝部屋のドアを開ければ「やあ、おはよう」と笑顔。食事は当然同じテーブル。

執務中は離れられると思いきや「家庭教師と二人きりにはさせられないだろ?」と王子の執務室にお引っ越し。ラウールの勉強もそこでさせるものだから、物は増え執務室の密度は高くなり家庭教師はひたすら怯えながら授業を行う。

昼食も一緒、夕食も一緒。何なら夜もラウールを自分が寝かしつけると駄々をこねる。


分かってる。やつは俺に会いたいわけじゃない。

俺と食事を摂りたいわけでも、俺と寝たいわけでもない。

やつにとって俺は単なるラウールの付属品。ラウールの世話をやこうとするともれなくついてくるおまけ。


だが残念ながら現状“もれなく”なのはラウールの方で。

いくら慣れてきたとは言え俺がいなければ外に出ないし、俺がいなければ佐久間以外のやつとは話せない。

最近たまに見せるようになったはにかんだ笑顔。それは俺が傍にいるときにしか見られないそう。

なのでラウールと遊びたい人間は必然的に俺を誘うことにならざるおえず。

俺は今、大変疲れている。





「疲れてんなー、ふっか」

「お前も原因の一つだけどな」

「つーかさ、ラウール。背ぇ伸びた?」

「お前も思う?」

「最初俺より小さかったのに抜かれてんだけどー」

「嘘つけ、最初っからそんな変わんなかっただろ」

「いやいや、んな事ねーって」


チクチク嫌みを言ったおかげか、ラウールに友達が必要だと考えたのか。

今佐久間は王子からの特命と言う名の任務を言い渡されず、暇をしてるらしく城に入り浸っている。


「やっぱ栄養足んなかったんだな」

「そうだな」

「今にひかるも抜きそー」

「怖ぇな、それ」

「ラウール、こっちおいでー。佐久間と遊ぼうぜー」

「勉強の邪魔すんなよ」

「ちぇっ」


ラウールの友達第一号だな!と笑ってたのは初めの頃だけ。

すっかり親戚のおやじと化した王子から与えられる帝国にあるだけの子供の好きそうなおもちゃ。

水の出る鉄砲だったり、喋る熊のヌイグルミだったり。

それらを二人で遊びつくし、今のラウールのお気に入りはペンと紙。

文字を教えてもらってからはずっと机に向かってる。


「お前もしてこいよ、勉強」

「いや俺はそーいうの卒業したから」

「じっと座ることも覚えろ」

「動く方が好きなんですよ、ぼく」


そう言いながらそわそわと。

ラウールに構いたい欲が抑えられない佐久間。


「今何書いてんだー?」


結局ラウールの傍に向かう。


「お、ふっかさんの名前じゃん」

「うん」

「自分の名前は?」

「もうかけるよ」

「そっかー。かしこいなー、ラウールは」


頭を撫でられ嬉しそうに目を細めるラウール。

このままで居てほしいと思うのは、自分の身勝手だと分かってる。



ラウールはまるで何も知らない子供だった。

文字はもちろん、今でも敬語は使えない。

あんな場所で暮らしていれば当然そうなるのだろう、だって覚える必要がないのだから。

これまで無垢なままでいられたのは奇跡に近い環境。

ある意味、他と関わりを持たせず押さえつけていた父親のおかげかもしれない。


ラウールの吸収力は目を見張るものがあり。

この二ヶ月で児童書レベルなら一人で読めるようになった。

今のお気に入りは魔王と戦う勇者の絵本で。

勇者の乗る馬に興味を持ち、ひかるに連れて行ってもらった厩舎では初めて子供らしい笑顔を見せた。


何でも吸収していくラウール。

これまで知らなかった、見たこともなかったものを目にして触れてどんどん成長している。

それに少し、危機感を覚えた。

世界はキレイなものばかりではない。いずれ汚いものまで吸収してしまうのではないかと。

目に見える汚さならまだ良い。自分で避ける術を覚えるのもまた成長だ。

だけど見えないものは?

人の心は目には見えない。心に潜めた悪意や敵意。それらを避ける前に気付かず近づいてしまったら?

それもまた吸収し、自分のものにしてしまったら?


思い出すだけで背筋が凍るような感覚。

感情のないうつろな瞳。

まっすぐに一点を見つめていたけれどそこには何も映っていなかった。

ただ、怖くて。目を反らすしか出来なくて。

再びあの瞳に出会ってしまったら。

俺は、「お前を守ってやる」と。

言える自信がない。


ラウールには、キレイなものだけを覚えてほしい。

正直なものだけを見ていてほしい。

嘘偽りなくそのままのラウールを愛してくれる、そんなやつらに囲まれていてほしい。


そのために。

俺は何が出来るだろうか。






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