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爆炎が上がり粉塵や肉の焦げる悪臭が漂う。
見渡す限りの屍。
その中にはこれまで共に歩んできた仲間、いや親友とも呼べる顔もある。
煤に汚れた顔。目を閉じ、自らの状況を知らず未だ戦っているかもしれない。
「ひかる…」
長い戦いではなかった。
常に先頭に立ち皆を導く存在。
今回もそうだった。
どんなに苦戦をしても必ずこの男たちが勝利に導いてくれると思っていた。
「でんか…」
呼び掛けても。
これまでなら「うるさい」と言わんばかりのしかめ面や、「なんだい?」と穏やかな笑みが返ってきた。
なのにこれは何だ?
自分は今何を見ている?
こんな風に横たわる姿なんか知らない。
こんな事があってはいけない。
これは夢だ。
ぴくりとも動かない身体に、かぶりを振り。
あり得ないことだと、早く目を覚まさねばと。
正気を取り戻そうとするも、先ほどまで確かにあったはずの右腕があった場所。
この状況が夢ではないと、軽くなったその痛みで知る。
「ふっか…」
「っ、しょうた!」
呼ばれた声に我に返る。
生きている。
慌てて駆け寄ろうとするが思うように動かない自分の身体。
起き上がることすら出来ず横たわったまま。
びちゃりと跳ねる、泥なのか煤なのかも分からない地面を這わせるように、残っている左腕を伸ばす。
「ふっか」
「すぐに応援が来るっ、だからそれまで頑張れ!」
「もう、ムリだ」
「っ!」
手が届かない。
精一杯伸ばしているはずなのに。
諦めたような表情を殴ってやりたいのに。
負ける相手じゃないだろうと怒鳴り付けてやりたいのに。
「そんなこと、言うなよ…」
口から出たのは弱々しい声。
一緒に戦ってきた仲間たちが横たわる姿を目にしてしまえばそうなるのも無理はない。
もう駄目なのだろうか。
何がいけなかったのだろか。
自分たちにミスはなかった。
なかったはすだ。
では、何が。
予想外のことが起きている。
この目で見ても信じられない惨状。
「ふっか」
帝国一の炎の能力者。
同等の力を持つ氷を使う次期皇帝。
自分だって、他の仲間だって決して弱くはないはずだ。
現に幾度となく繰り返された国同士の戦いで負けたことはない。
信じられない現状を受け入れられない自分に語りかける男。
「次は、守ってくれ」
「…つぎ?」
「俺の弟を、っ、弟の力を、」
「お、とうと?」
「渡さないでくれ…っ」
「しょうた!」
喋ることすら限界に近いんだろうフルフルと小刻みに震える身体。
目から溢れる涙ごと抱き締めようとしても届かない腕。
「頼んだぞ」
ぎしりと音が鳴りそうなほどゆっくりと。
一瞬力が宿り動いた視線を追えば、その先にいるのはつい先刻まで勝てると思っていた敵国の王。
その隣。
「っ、」
生気のない瞳。
王を隣に立たせ、肘をつき足を組み。
王の椅子に座る男。
あれは…。
今さら気づく見覚えのない顔。
あんな男、いただろうか。
金色に光る髪。真っ黒な瞳。
羽織るマントまで真っ黒で。
全てを闇に包む男。
読めない表情。
まるで感情すらないような。
「」
目が合ったような気がした瞬間、背中を走り抜けた寒気。
顔を伏せ身を守ったのは本能だろう。
あんなやつ知らない。
隣国に跡継ぎができた話も耳にしたことがない。
ならば奴は誰だ。
なぜ王よりも高い場所にいる。
なぜこちらを見ている。
こっちに、何が…
「まさか…」
そして悟る。
この戦いの敗因を。
全ては。
あの男だ。