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夜のうちにその人形は盗み出され、焼き捨てられた。翌朝人形がないことに気がついた若者は青ざめたが、次の課題は既に迫っていた。
魔法の力なしで若者は奮闘したが、期限までにはとても間に合わず、とうとう死刑を宣告された。
それを知った姫は泣きながら父王に助命を願ったが、若者自身がそれを拒んだ。だが、せめてもの情けに、一晩の猶予をほしいと王に言った。
若者は残された最後の夜を、姫と一緒に過ごすために使った。その夜、二人は最初で最後の恋人同士になった。もうすぐ夜明けが来ると泣く姫に、若者は自分の身の上話をした。
彼の父親は飲んだくれだった。母親は彼に興味がなかった。兄たちは彼を奴隷として扱った。生まれ育った村では何一つ良いことはなかったと若者は言った。
若者は姫を慰めて言った。死ぬことは怖くない。天国がどんなところであろうが、故郷よりはずっとましだ。それに、あなたに会うことができた。後悔することは何もない。
そして、姫に頼んだ。自分が死んだ後、泣き明かして暮らすよりも、この城を出てほしい。私が故郷を出てあなたに会えたように、あなたも外の世界で幸せを見つけてほしい。
若者の首が切り落とされた後、姫はすぐに、そして密かに行動した。
裏庭に運ばれた恋人の首をこっそり取り返し、絹に包んだ。きらびやかなドレスを脱ぎ捨て、豊かな髪を切り落とし、若者が着ていた粗末な服を着て、城を抜け出した。わずかな宝石と護身用の短剣、それから恋人の頭以外は何も持たずに。
姫が最初に目指す場所はもう決まっていた。恋人の故郷だ。そこで未亡人として生きるつもりはなかった。ただ、恋人を長年苦しめた家族に、彼の代わりに文句を言ってやりたかった。生きている間、彼は逃げることでしか不満を表明できなかったのだから。
長い旅の間、不思議なことに恋人の首は全く腐る気配を見せなかった。眠っているように目をつむっていた。口元に顔を近づけると、息づかいさえ感じる気がした。
ようやくたどり着いた恋人の生家では、姫は歓迎されなかった。変な女が訪ねてきたと思われたのだ。酒浸りの父親も、冷たい母親も、横暴な兄弟も皆家にいた。
姫が今まで起きた一部始終を語っても、誰にも信用されなかった。父親は姫を狂人扱いし、母親は無視した。兄弟は彼への悪口をしこたまぶちまけた。
とうとう、姫は連れてきた彼の首を皆に見せた。その時初めて、彼の家族は動揺した。
次に姫を待っていたのは、彼を死なせたことに対する非難だった。姫は罵られることに耐えた。彼の代わりに家族と対峙し、彼の恋人として全てを聞いた。そのうち彼らは拳を振り下ろし、家族の一員を失ったことを悲しんだ。母親が涙を見せた。姫が思わず側に寄り添ったとき、はねのけもせずに母親は姫を抱きしめた。
姫が連れてきた彼の首を埋葬し、家族だけでひっそりと弔うことになった。姫もその場にいる。恋人と離れがたく、首を抱いていると、村が騒がしくなった。
聞けば、国王が一大軍勢を率いてやってきたのだと言う。姫を追ってきたのだ。思わず身を隠した姫は、恋人の首に助けを求めた。
若者は目を開けた。そして、驚く姫に向かって静かに言った。
「勇気を出して、王に胸のうちを何もかも話すのです。あなたが私の代わりに、家族と向き合ってくれたように」
姫は立ち上がった。沢山の馬の蹄の音が遠くから聞こえてきた。
姫は知っていた。王が激怒したら、誰にも沈めることができないことを。姫はよく覚えていた。昔姫が無断で城の外へ抜け出した時、王自らの手でひどい罰を加えられたことを。
姫は家族に背を向けて、走り出した。城を出ることや、恋人の家に乗り込むことはできても、本当の家族と対峙することはできなかった。