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ある国の姫は、国王である父親にとても愛されていた。王は、姫が自分の側からいなくなってしまう日のことを極度に恐れていた。
だが、姫はもう結婚するべき年頃だった。王妃や大臣に諫められ、王はしぶしぶ姫の夫を探すことにした。
姫の美しさと賢さの評判は諸外国に轟いており、大勢の花婿志願者が城に訪れた。しかし、彼らを待ち受けていたのは、過酷な課題と、失敗した時の重すぎる罰だった。
課題に成功する者は未だに現れない。失敗者の首が城の裏庭に積み上げられ、塔が出来た。姫は日に日にその塔が高くなっていくのが苦痛でたまらなかった。
志願者の列が途絶えたころ、ある若者が、無謀にも姫に求婚した。彼は自分の健康な体以外は何一つ財産を持っていない。王はいつも通り無茶な課題を課した。どうせ失敗するから、農村出身の若者が姫に求婚した無礼には目をつぶることにした。
ところが、若者は最初の課題を難なくこなした。どうやら、旅の途中で不思議な出会いをして、困難を乗り越える力を授かったようだ。第二の課題も成功した。その頃から王は焦り始めた。
王や家来たちの困惑とは裏腹に、姫は若者に好意を寄せ始めた。ひょっとしたら彼こそが、自分をここから連れ出してくれる人ではないかと信じたくなった。
若者は花婿候補として城の晩餐会に招かれ、そこで初めて姫と会話を交わした。身分の違いを越えて、彼らの話は弾んだ。若者は率直だったが優しく、無学と言われる割には機知に富んだ受け答えをした。姫はますます若者を好きになった。王の目を盗んで、二人きりでいろいろな話をした。若者が変に落ち着いているのも良い方に働いた。
しかし、姫も若者も、王がなんとしても若者を失敗させようと執念を燃やしていることには気づいていなかった。
姫と若者の会話を、こっそり聞いている召使いがいた。会話の中で、若者は秘密の力の源を明かした。仲良くなった妖精からもらった人形が、彼の代わりに課題をこなしてくれたのだった。