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花嫁は白亜城の生贄  作者: 久世 真緒
9/17

乗馬と最初の違和感

「伯爵ったらあんまりだわ!ミッシェルの気持ちを考えていないのかしら」


「アン、私は大丈夫よ。心配しないで」

 

 ぷりぷりと怒った私に対し、本来は傷ついているはずのミッシェルが優しくなだめてくれていた。

 あれから、二人で城の近くを馬に乗りながら散歩していた。ミッシェルは火傷をした痛々しい素顔を露わにしてからも落ち着いた態度をとっており、凛々しく見えた。


「アン。私はね、あまり結婚したいとは思ってないの」


「そうなの?」


「もともと、養父から伯爵と結婚するように言われて来ただけなの。でも、私の考えをねじ曲げても素顔を見せてほしいと言われることになるとは思ってなかったわ。」


 ミッシェルは笑っていたが、無理をしているように感じられた。火傷があっても、容姿端麗なのだ。これで火傷がなければ、嫁入り先など引く手数多だったろう。


「私は容姿にこだわらない人と結婚したかったの。そうでないなら、花嫁候補がだれになるのかを見届けるだけにするわ」


 そう言いながら、ミッシェルは透き通るような瞳でじっと私を見つめた。


「アン。私はあなたを応援するわ。ここに来なければ、あなたに出会えなかった。これからも仲良くしてね」


「ミッシェル…ええ、もちろんよ」


 私も結婚目的で来たわけではないが、その理由を話していいものだろうか。それとも、話すと逆に危険にさらされてしまうのではないか。ミッシェルの優しい微笑みに対して嘘をついている気がして、私は気まずかった。




 馬小屋に戻ると、ブリジットが厩番の老人ともめているのが見えた。残りの鹿毛の馬は伯爵が乗るようで、ブリジットは黒馬に乗ろうとしていたが、ブリジットは黒馬をうまく扱えないようだった。

 ブリジットが無理に手綱をひっぱり、馬小屋から連れ出そうとしていたため、黒毛の馬が嫌がっていた。


「この黒い馬、どうにかならないの!?」


「こちらの鹿毛は旦那様にしか懐きませんし、比較的乗りやすいかと思いますが…」


 怒って興奮しているブリジットに対し、厩番はほとほとに困り果てていた。

 驚いたのは、ギャレット伯爵の様子だ。ブリジットに手を貸すわけでもなく、静観していた。あのままでは、ブリジットは馬に乗れないのではないかと思うほどだった。

 剣呑な雰囲気になってきたため、私とミッシェルは急いで馬から降り、ブリジットに近寄ったが、既に事態は悪くなっていた。


「もういいわ!何としてもこの馬に乗ってやる!」


 ブリジットが馬の手綱を力強く引っ張ると、ついに黒馬は暴れ、前足を宙に浮かせ、ブリジットに襲いかかった!


「危ない、ブリジット!」


 私がそう叫びながら近づくよりも早く、ミッシェルがその前に立ちはだかった。

 ミッシェルがかばってくれているけれど、このままでは、ブリジットだけでなくミッシェルも危ない、そう思った時だった。

 

「どう、どう」


 ミッシェルはすばやく黒馬の横に駆け寄り、手綱を取ると馬をなだめた。

 暴れる黒馬が勝つか、ミッシェルがなだめることができるのか、見届けるのも怖かったが、想像以上に早く黒馬は落ち着いてきた。


「もう大丈夫よ、ブリジット。ただ、気難しい子だから、今日は乗馬をやめた方がいいかも」


「ええ、そうさせてもらうわ。こんな馬、願い下げよ!」


 ブリジットは憤りながら、城に戻った。私がほっとしてミッシェルに近寄った時に、伯爵はブリジットを見つめながらぼそっと呟いた。あまりに小さくて聞き間違いかと思ったが、確かにこう呟いていた。 


「あれは違うな…」

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。もしよろしければ、励みになりますので感想やブックマークをお願いします。

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