決着
二人の間にビリビリとした余韻が残っている。
全力をぶつけた――僕としては負けたつもりはない、が、ここは彼女のホームだ。しょうがないが、間違いなく劣勢だろう。
爆笑オムライス博士がマイクを渡すよう手を出したので、渡した。
「では、爆笑オムライス博士です。審判役します。会場の拍手が大きい方の勝ちで参りましょう」
会場を見渡すと、奥の方にあいつらいるじゃないか。
ツヒ、デヨ、エヤ、負けたらごめん。
「じゃあ先攻、アイコさんがよかった人!」
大歓声だった。ダメだこりゃ。
「それじゃあ後攻、ブナくんがよかった人!」
歓声は大きいが、負けている。
「ブナさんの勝ちに決まってんだろ!!」
ここまでツヒの悪態が聞こえる。
「いやいや本当に互角でしょー」
と言い切るデヨと
「まあまあ、しょうがないこともあるよ」
二人をなだめているエヤの声が、聞こえてきた気がした。
ふ、とアイコさんの方へ視線を戻すと、俯いて表情がうかがえなかった。
勝っても喜んでない、そんなところか。
「オム、マイク貸して」
「あれ、どうしたのアイちゃん」
「いいから貸せ」
「はい」
「ブナ君!!」
さっきまでのバトル並みの声量で呼ばれた。
「はい!」
まあ大きめの返事をした。
「わ、わわわ私!! ブナ君のこと好きになっちゃったっ!!
もう訳わかんないけど私の負け!!それで!
ダメ!ブナ君かっこいい!!付き合って!」
そう言って彼女は律儀にマイクを爆笑オムライス博士に渡して、僕の左腕に抱き着いた。
――!?
『えええええええええ』
これが阿鼻叫喚ってやつなんだろうか。いや、僕も声出たけど。
少しだけ時間が経過してクラブも落ち着いた。
結局、試合に負けて勝負に勝つ、と似ているけどなんか違う感じだろうか。
「ブナ君って本当に素敵! キスして!」
「アイコさん待って、ちょっと落ち着いて」
「おい!アイコさん!俺らのブナさんっすよ」
「まあまあ、ツヒ君も落ち着いて」
エヤもなだめてくれている。みんなと合流して座っているが、もう何がなんだか。
「でもブナはいつ彼女できるのかって思ってた」
「ああ、デヨ言ってたよね」
「そうなんだよ、エヤ。ラップ以外のことにあんまり興味示さないけど」
「モテモテだもんね、ブナ学校で」
「いや、エヤが言わないでくれよー、俺とツヒの立場さ」
「ははは、デヨ君とツヒ君はモテないのかい? 二人ともいい男だと思うよ」
あ、爆笑オムライス博士、長いんだよな。
「爆笑オムライス博士、オムさんって呼んでいいですか?」
僕が尋ねると
「あー、好きに呼んでくれていいよ」
快諾してくれた。
「アイちゃんとブナ君はほぼ互角だったね、僕はそう思ったよ」
アイコさんが怒る。
「もう!オム!私の負けなの!」
「……うん、まあそれでいいけど、ブナ君」
「はい」
「君は多分きっと、ただ誰よりも強くなろうとしている」
「はい」
「今度は僕とバトろう、お互いにいい刺激になる」