VS 爆笑オムライス博士
まだ秋だけど、雪だるまも小躍りしそうな寒気のする夜。いつもの大曽根のクラブへ早歩きで向かっている。入口へ到着すると、オムさんがタバコを吸って待っていた。
安易な質問をする。
「オムさんってタバコ吸うんですね」
「うんまあ、特別なときだけね。今夜は大勝負になるけれど大丈夫?」
「もう押韻して大丈夫ですか?」
「はははっ、強気な上から目線は素敵だね」
「そんな褒められることではないです」
「フツーはそうかもね。あ、でも予言しておくけど、今日の勝負、僕が負けると思うよ」
「僕だって負ける可能性もあるので」
「うん、まあ、あるだろうけど、きっとブナ君を倒すのは」
「倒すのは?」
「ツヒ君だろうね」
「そういうこともあるかもしれないですね」
ツヒに一度も負けたことはないが、まあ、そういう日もくるのかもしれない。
先攻がオムさんになり、トラックを僕が選んだ。
アイコの応援が聞こえる。
「私のブナくん!がんばって!!」
「いちいち一字一句、響くリリック 日々、樹木 希林、ビビるほど染みるギミック
天才女優の演技の元気 千回、虚空を転じと前進
ゼロから一気に無量大数、潰す べそかな、みっちり苦労、倍生む
アブストラクトのアクションアクト 言霊の質量に爆笑ダウト!」
「ほくほくと熱々のオムライスほおばる そんな意味のわからないディスがどうなる?
なーにが元気で爆笑だ その言霊ども、戦死で祭ろうか?
何があったって絶対に負けない 泣きながらって滅多にやれない
そのチャンスと資格与えてやるよ 負けたってよくがんばったねって称えてやるよ」
「おいおいブナあんまり絡むな 時々、裏かいたり叩くさ
ぞぞぞっとそう、ゾーンへ超えてく吠えて ここぞっとドープ、折れてく心へ
攻撃性は不安の裏返し こう覿面なプランと鞍替えに
アドリブ・信念・フローが最強 あとラップ終身刑よ今日が最後」
「テメェこそ今日でラップやめろ 抵抗ほど無駄、まあ砕けろ
攻撃こそ最大の暴挙 強敵こそ兄弟と抱擁
まあそんな未来もありだろうが ただその怪奇ライムと旅立とうや
もう帰ってこなくて大丈夫 全観客同意の大ショック」
「ついに君との勝負はここまできて夜が明け涙は枯れたが心は晴れだ
僕らは常に新しさを求められ儚く蹴るがそれは本当に運命か
韻もフローも内容もリズムもあらゆるラップの要素がサイコーだとして
一体何が心に響いてそれを理解しろって言われてもまあなかなかね」
「アンタはやっぱり強かったよわかってたし改めて伝えるのもアレだけど
このなんかよくわからないフローだって強がってやってるけどまあまあわりと難しいもん
唯一無二ぃくらいは譲ってもいいくらいのフローとすげぇオリジナリティだわ
それでも俺の領域展開 お互いにさあ、もうじき限界っしょ」