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名古屋の夜空

 ある日の夕方、僕らは大曽根ガストに集まった。

 大曽根のクラブが空くまでの時間を潰す目的だ。時間ぴったりに着くとすでに四人が座って待っていた。

「ブナくん10秒遅刻だよー、これは私にチューしないと」

 平然と笑って言う、全然人目を気にしないアイコ。

「アイコさん、そういうことは二人っきりのときにしなよ」

 優しくつっこみを入れるエヤ。

「ブナ、本当に困ると眉間にシワが寄るんだよなぁ」

 僕を見ながら笑っているデヨ。

「ブナさん、今日もかっけーっす、どうぞどうぞ」

 なんか舎弟みたいなツヒ。


 僕はこの何気ない会話で悟ったんだ。大事にしたい人たちが、こんなにいる。

 座ってから口を開く。

「――俺はもう戦えないかもしれない」

 自分でも何を言っているんだろう、と思った、けど。


「そんなことねぇっす!ブナさんは無敵です!!」

 ツヒが大声で否定した。

「はははっ、久しぶりに弱気のブナ見たなぁ」

 やっぱり笑っているデヨ。

「まあ、ブナだって、そういうときもあるよね」

 理解してくれるエヤ。

「ふふ、私は弱気なブナくんも大好きだから」


 ――ああ、そうだった。

 勝つ、ってことは、自分のためだけじゃないんだ。


「なんかごめん、いや、やっぱり俺は無敵だ。もう負ける気はしないよ」

「きゃー!もうそういうとこ大好きよ、ブナくん」

 アイコが抱き着いてくる。


 夕食をとった後、路上の大曽根サイファーへ向かった。


 名古屋の夜空はあまり星がない。

 オムさんの強さ、それは多分、すべてを受け入れるような寛容さだ。きっと僕に的確なアドバイスをして更なる高みへと連れて行ってくれる。何も惜しまない、そして負けても悔しがらない。

 それに対して、僕は勝ちたい。ただ強くなりたくて、ラップをしていた。

 悪口は得意だ。ディスらないなんてラッパーじゃない。悪くないやつなんて意味ない。

 でも、それじゃ、本当の強さって何なんだ?


 勝ったやつは確かに強い。でも、勝つことが本当の強さなのか。

 僕はアイデンティティの揺らぎを見つめながら、サイファーで回って来たマイクを握りしめた。


「ああ、ラップ道だと放つ言葉 白状して語ることが

 アックションして変わるような そんなペラペラに薄くない渇くような

 無限の欲望、勝利への渇望 不変の毒素、狂気での発露

 やってやるよ、天下取ってやる 立ちふさがる敵の心折ってやる」

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