無敵かつ唯一無二
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あのTOKONA-Xが育った伝説の愛知県、なんて思う人は少ないかもしれないが、僕はその少ないラッパーの一人である。名古屋近郊でHIPHOP好きの人は避けて通れないあの人の名は、常滑をもじって作られた。
彼が26歳で亡くなった2年後に生まれた僕は『無敵ライクセブンティーン』でライクと表現されているが2023年現在、十七歳の無敵だ。生まれ変わりかもしれないとも思う。いや、無敵と言ったら無敵だ、スペインの無敵艦隊はサッカーのW杯で日本に撃破されていたが、無敵かつ唯一無二、崇められてもいいんじゃねーの、くらいに思っている。
でも男友達のデヨが「ブナ!またラップバトルで負けちまった!どうすれば勝てるか教えてくれ!」とフレンドリーにうるせーから「じゃあ俺がラップで倒すわ」と返答して、クラブへ行った。
最近はチキチキと速いハイハットに、重いビートがトレンドなんだろう。そんな音源が聴こえる。トラックが重要なことはわかってるが『人間発電所』とか『大怪我』とかそういうクラシックになれるものはそうないと思う。まあラップできりゃなんでもいいと思っちまう時点でトラックメイカーとしては失格だ。両方できるPUNPEEとかはすごい。
「テメーがブナか! その顔面があぶな!
俺が公開処刑してやるよ! どんどんこの勢いで勝つぞ!
こうやって回してく最高のラップ きっとお前は次のターンでタップ
やれるもんなら敵討ちしてみろよ 目の前で打ち砕くデヨの希望」
「テメーがシンゲンだな、ただの人間、何の震源にもならない
まるで形無しの災いの俺に儚い抗い からかいがいのある裸の馬鹿だし
内容がないようくらいのださいようなラップ 甲斐性がないよう 暗いの変わりようがなく
どうあがいてもテメーが勝つのは不可能 これがダークサイド、悪のマスターよ」
「……」
デヨはこんなんに負けたらしいが、この後シンゲンは黙りこくったので僕の勝ちで終わった。
「ブナはすげーなぁ、どうやったらそんなに踏めるんだ?」
「デヨは踏もう、踏もうとしすぎて踏めないのかもな。まあでもR-指定とか聞いてるとこういうのも自然に降りると思うがなぁ」
もう一人、仲のいい男友達のエヤが来て言う。
「いや、普通はそれでもさっきのバトルみたいなのは無理だよ」
「そんなもんかなぁ? ま、また明日、高校でな」