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かみさまなんてことを  作者: あんぜ
第一部
9/92

第9話 持って帰っちゃいたい

 翌朝、早くからギルドに向かった俺は受付でこっそり手紙を出す。ハッとした受付嬢はすぐに盆を出して手紙を受け取ると、専用の羊皮紙へのサインを促す。


 実はこれ、手紙を出す習慣が貴族にしかないための反応で、手紙自体も丁重に扱われる。小さく折りたためる便箋用の紙も特別製で大賢者様から頂いている。また羊皮紙は書板のように《消去(イレース)》の魔法で文字を消せないので公文書や重要な記録に用いられるらしい。刺青を消せないのと同じ原理だそうだがよくわからん。ちなみに手紙はお代も結構かかる。


 朝の早い時間帯は待ち合わせの冒険者をテーブルで見かけるだけで、長時間掲示板とにらめっこしているのは俺くらいなものだ。文章を読むのに慣れるため、書板を眺めるのは意外と楽しい。アリアの言っていたゴブリン退治は安い仕事のようだ。ただ、巣穴を潰すのはそれなりの稼ぎになるらしいが、洞窟のような狭い場所での戦闘を考えるとリスクも大きい気がする。鎧なんかも必要かもしれない。


「そんなに面白い? 儲かりそうな仕事でもあった?」


 後ろからにゅっと顔を寄せてくる赤髪の少女に胸の鼓動が高まる。昨日から機嫌は治ったようだがこの距離感には慣れない。


「な、なぬれっ……」


「なぬれ?」


 痛恨の一撃! セルフの!


「ほ、ほらゴブリンの。巣穴って意外と儲けがいいんだなって……」


「あのさ」

「はい」


「昨日、かしこまった喋り方やめてって言ったのあなたよね?」

「そんな気もしますね」


「なんで一日経つと自信ない感じになるの? 毎朝中身が別の人に変わるの?」


「う、う~ん、なんというか……もともと女の子が苦手というか……時間を置くとこう下がった壁がせり上がってきてるみたいな」


 まあ女の子に限らないがな。


「ふぅん」


 少女はしばらくの間まじまじと俺を見つめる。


「巣穴は一人だと位置取りが難しいから行ったことはなかったの。だけど五人いればなんとかなるかな。行ってみたい?」


「興味はある……けど、この格好じゃ無理……じゃない?」


「お金はある? あたしのお古は三人に譲っちゃったから無いのよね」


 ああそんな畏れ多い! ――気軽に男にお古なんて与えないでください。この距離感、クラスの陽キャ連中ならあっというまに深い仲になれそうとか考えてたらなんか腹立ってきた。


 空いているテーブルに移動して手持ちを見せる。これは昨日の分け前で、これがお城でもらった支度金。この際、隠しても仕方ない。この手持ちでよく娼館なんて入ったね――とか言われるが、なあに誰かさんを逃がすため店員に握らせた額が大きかったのさ――などと彼女の前で言うわけにはいかない。いかないよね?


「パーティで行動するなら盾があれば鎧は要らないかな。鎧下だけあれば洞窟でも怪我は抑えられるし――」


 アリアは貨幣を分けながら装備を見積もっていく。手紙代が怪しいが、宿と食事ならなんとかなりそうだ。


 その後、装備の調達にも付き合ってくれる。新品の中型の盾、古着の鎧下とフードのついたクローク、それから鉈とナイフ。盾は安かったが中古でも鎧下は結構高かった。手持ちが増えたら篭手と兜を買うように勧められる――のだが、さっきからなんか近くない? アリアの立ち位置が微妙に近い気がする。歩く時も肩が触れんばかりの近さだし。



 ◇◇◇◇◇



 孤児院までやってくると既に三人が準備を終えて待っていた。今日は薬草摘みの予定だが慣れるためにも鎧下に着替えさせてもらう。


「あら、かっこいいじゃない。サマになってるわ」


 キリカはお世辞を言うくらいには打ち解けてくれている。昨日ほどではないが、彼女も彼女でわりと距離が近い。


 薬草摘みは昨日とは違うルートで森に入り、穴場を探していく。こういうの、冒険者の先輩から教わるもんじゃないのだろうか。情報は貴重とはいえ、アリアの距離感を考えるとそう難しいことでもないように思うのだが、やっぱりちょっと気になる。そして気になると言えば今日のアリアの距離。帰り道ではっきりしたのだが、キリカが居ないときは俺の傍に立ってる。そしてキリカがやってくるといつの間にか居なくなってる。


 ギルドで薬草を納める際、二人になったときに聞いてみる。


「お、女の子が傍に居ないとまた壁が上がるんでしょ」


 なにこのかわいいいきもの! 持って帰っちゃいたい! ニヤニヤを抑えきれないでいると。


「変な顔してないで帰るよ」


 取り分を分けると他の三人と別れる。あまり理解してないまま彼女と歩いていくと、泊ってる宿に入っていく。も、もしかして朝まで傍に居てくれるの?? なんて馬鹿なことを考えていたら、何のことはない彼女もここに泊っているのだった。しかも部屋はすぐそば。Oh、あなたが又隣さんデシタカー!


 二人で夕食を摂りながら頭の中では感謝の言葉を述べていた俺。そして遅めの時間までお喋りに付き合ってくれた彼女。やっぱりちょっと嬉しかった。




アリアがお隣さんだったらユーキはショック死してたかも!


【ご注意】作者が自分で読みたいので書いてます。なので、感想欄に設定予想・展開予想を書く場合は必ず作者が読み飛ばせるよう、閲覧注意の文字を書くように何卒お願いいたしします。

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