第8話 どうして帰っちゃうのよ
「ちょっと! どうして帰っちゃうのよ!」
息を切らして通りを駆けてきた赤髪の少女に背後から声を掛けられる。
「えー、いやー、ちょっとぉ買い忘れ……みたいな……」
「あたしの奢りって言ったでしょう! 逃げるの!?」
「あー、知らない人がたくさん居るの苦手でさぁ。ほら、あの三人も俺が居るとゆっくりできないでしょ?」
むむむ――と唸る少女は足早に距離を詰め、俺の襟首をつかむと元来た道を引き返し始める。
「変な言い訳してないで帰るよ! あんたの歓迎会も兼ねてるんだから居ないと困るでしょ!」
ですよねー。そんな気はしたけどコミュ障特有の脳内下方修正で可哀そうな境遇に浸ってる方が楽なんだよねー。構ってちゃんならまだしも、勘違い君とか揶揄われたら再起不能じゃん?
◇◇◇◇◇
座って! ――と、ホールの大きな机の一角に座らされた俺。近くには落ち着きのある壮年の女性が座って居り、にこりと微笑んでいる。
「アリアの新しいお友達? よかったわ。外でもうまくやってるのね」
何か返したいが、愛想笑いしか出てこない。友達だなんてそんな。便利な辞書みたいなもんですすいません。
「アリアの奢りから逃げたんですって? やるわね。彼女カンカンよ」
厨房からやってきたキリカが、束ねていた髪を解きながら楽しそうな表情いっぱいに言うと、ふわりと長い金髪が舞う。三人の中ではいちばん警戒されてたようだったが、採取からこっちずいぶんと和らいだ。彼女のタレントは盗賊。『迷宮を奪う者』と書く。その彼女が隣に座り、こっちを向いて何か言い淀む。
「えーっと……ごめんなさいね。ちょっと疑っちゃって」
キリカが言うには女性の薬草師が参加してくれる話があったらしい。キリカも、あとルシャも男が苦手で、叶うなら少々待っても女性でお願いしたかったようだ。アリアが推してくるからしぶしぶ了承したのだそうだが。あ、ちなみにリメメルンはそもそものところ人が苦手だそうだ。親近感が湧く。なかーま。
その後、キリカと壮年の女性――院長さんだそうだ――に自分が召喚者であることと、城から放り出されて自由になったことを説明した。
さて、食事はアリアとルシャ、それから孤児院で働く女性二人とで準備され、宴が催された。ついでに俺の歓迎会も。正直なところ反応に困るのだが、やけに距離の縮まったキリカデールさんに揶揄われつつもベタベタくっつかれて、こいつ背も高いし本当に2つとか下なのか? あと酒――薄めてないやつ――でも飲んでんじゃないかと心配になってくる。そしてアリアさんはというと、まだ微妙に機嫌が悪いのであった。
俺はご馳走の礼を言って宴の途中、下の子たちがお休みするタイミングで退席する。いくつか気にかかることもあったので大賢者様に手紙を書こうと思ったのだ。ギルドを通すことで彼女と連絡を取ることができる、唯一の手段だ。直接会うことは今となっては難しいだろう。
◇◇◇◇◇
宿に戻ると大賢者様への手紙を書く。鍵の付いたタレントのことと、少なくとも二人の関係者に遭遇したデル・アイリア、『美しき』アイリアと呼ばれる家系のことだ。
……又隣さん、今日は居ないのか。その夜、毛布に包まって俺は泣いた。
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