表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かみさまなんてことを  作者: あんぜ
第三部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/92

第13話 アリア 1

 ユーキがおかしい。



 ある朝、ユーキを城へと送り出した。仕立てた服を着せるのだけど、彼はこの服を窮屈だと言って嫌がる。少しは慣れなさい――彼が買ってくれたドレスを着て隣に立ちたいのだから――そう言って無理やり着せているところ。


 今日は宴ではない。なので新しい女の子を引っかけてくることが無い点では安心できるけれど、彼の周りではおかしなことにそういう機会が多い。本人にその気がなくても()()()()()()になりかねないことも多いので、お呪い(まじない)に襟に隠れる場所にキスマークをつけておく。


 彼は驚いて――どうしたの?――と聞いてくる。あたしから離れないように――そう答える。彼は――心配しなくても離さないよ――口づけを返してくれる。ルシャはこういうことはしない。あたしばかり嫉妬しているみたいで腹が立つこともある。


 逆に、彼に嫉妬させてしまったかも――とあたしが慌てるときは、彼はたいてい微笑みを返してくる。なんだか見透かされているみたいで悔しいが、心が通じてるようで嬉しくもある。



 ◇◇◇◇◇



 城では騎士団や軍の再編の会議に出席するそうだ。しかし、そんなことのために彼が呼ばれたりはしない。実際にはあの騎士団長への追及が行われるという話だ。


 大賢者様によると、今回の問題は大臣や公爵がそもそもの原因のはず。しかし素行の問題もあり、騎士団長が生贄になったのだろう。彼は勇者パーティや軍の指揮での失態と、あたしたち《陽光の泉(ひだまり)》の三人に対する扱いの点を追及されるという。


 あたしとしては、弱みを握って部屋に誘ってきたことで罰を下して欲しかった。だけど他人に詳しく話せる内容でもないので涙を呑むしかなかった。



 ◇◇◇◇◇



 その日、彼は帰ってこなかった。いや、城からは帰ってきたのだけれど、馬車で孤児院へ送り届けられた彼は気分が悪いと、そのまま孤児院の空き室に泊ったようなのだ。そしてずっと寝ているらしい。昼に一度戻ってきたルシャから聞いた。


 仕方がないので昼食後に迎えに行くと、今度は孤児院を追い出されていた。ヨウカが怒っていた。ユーキが、昼食を届けに来たミシカに手を出そうとしたというのだ。


 噓でしょ!? 驚くあたしに、ヨウカが真面目な顔で――嘘じゃないです。ユーキぶっ殺してください――そう言うのだ。ミシカの様子を見に行くと、涙目で落ち込んでいた。本人は――強引だったからちょっと驚いただけです。殺さなくていいです――なんて言う。どうやらヨウカの冗談ではなく本当らしい。


「何やってるのよユーキは!」


 ミシカたちの手前、口に出して怒ってはみたが、彼がそんなことをするだろうか。あたしの知ってるユーキは絶対にそんなことはしないと思う。彼女たちの命に係わる場合ならするかもしれない。いや、たぶんしてしまうのだろう……。だけど嫌がることは彼はしないはずだ。



 そして結局、行方が分からないまま、その日の夜も次の日の夜も帰ってこなかった。 



 ◇◇◇◇◇



 ユーキが居なくなってから二日目の早朝、ギルドに顔を出したところ、詰所からの連絡を伝えられた。ユーキが娼館で二晩も遊んだうえ、飲んだくれて帰らないので、詰所で引き取ったということだ。


 たぶん、その時のあたしは頭に血が上って、他人には見せられない顔をしていただろう。彼に酔っぱらった顔で――これは聖騎士殿――なんて冗談を言われたあたしは、思わず平手打ちを入れてしまっていた。


 あたしはこのろくでなしを引き取って肩を貸し、下宿へと帰っていった。リビングの床に放り捨てると、驚いているキリカに事情を説明した。――床に放っておいていいから――そう言ってあたしは部屋に篭った。 



 ◇◇◇◇◇



 ルシャが話を聞いたのか、早い時間に朝のお勤めから戻ってきた。彼女は《癒しの祈り》でユーキの酒を抜いた。放っておけばいいのに……。気分がよくなったユーキは、聖女様――なんて言っている。腹が立つので会話には加わらないでいた。


 やがて彼は慌てた様子で鏡を見たいと言い始めた。ルシャが鏡を渡すと、大げさに驚いて――なんて不細工な顔だ――と叫んでいた。彼は少々卑屈なところはあるけど、ここまで酷いのは始めてだ。ルシャも応対に困るほどの発言は見たことがない。キリカも顔をしかめるほどだ。



 とりあえずお茶でも飲んで、四人で市場へでも買い物に行こうという話になった。あたしはあまり気分が乗らなかったけれど、ユーキの様子が気になってついていくことにした。


 そしていつもなら率先してお茶を入れるユーキが動こうとしない。しかたなくルシャが準備する。――時間を見てくださいね――ルシャが言うが、ユーキは首をかしげている。――鑑定でみられるんですよね――続けて聞くが、ユーキは要領を得ない様子。


 ――鑑定?――彼がそうつぶやくと、何故か目を見張っていた。彼はルシャの頭の上に目をやっている。あれは、鑑定の結果を見ている仕草だ。


 おかしい――彼は最近、あの仕草をしなくなった。女の子の情報を見るのは失礼だからと、意識して見ないようにしている。彼はルシャを見終えると、隣にいるキリカの頭の上を眺める、そしてこちらも。あたしは何故か辱められているような気がして部屋に逃げ込んだ。



 ◇◇◇◇◇



 お茶のあと、四人で市場へと向かう。いつもなら冗談を言い合いながら楽しく買い物をする時間なのに、ちょっと雰囲気がおかしい。原因は、先ほどまでのこともあるが、なによりもユーキの態度だ。


 今日のユーキは何故かルシャを聖女様と呼んで妙に気遣う。おまけに、普段ならあたしと手を繋いで歩くことが多い街中を、あろうことかルシャをエスコートして歩き始めたのだ。ルシャもちょっと困った様子だが、ユーキが積極的なため断れないでいる。


 そこはあたしの場所なのに――普段ならそう思っただろう。しかし何故かその想いが搔き消えていた。何かはわからない。ユーキに気持ち悪さを感じていた。



 ◇◇◇◇◇



 朝と言うには少し遅めの時間の市場は、主婦よりも冒険者や旅人、不定期な生活時間の利用者が増えてくる。市場へと向かう大通りを歩いていると、近くを走る馬車の方から声をかけられる。何か惹かれる印象があったのに、振り返るとそこに居たのはあの騎士団長だった。


 奴の声に何かを期待してしまった自分が恥ずかしく、恨めしかった。


 あたしが睨みつけている間もなく奴は馬車から転がり落ちた。奴は落ちたことさえ気にしないかのように、あたしの名を呼んでいた。思わず手を差し伸べかけてしまったけれど、すぐにユーキが遮って奴の前に立った。少し自己嫌悪。


 奴はユーキと口論を始めた。けれど何か違和感がある。ユーキのルシャの扱いもおかしい。やがて激昂した騎士団長はユーキに掴みかかろうとするも、殴り倒され、圧し掛かられる。ユーキはそのまま騎士団長を殴り始めた。何をやってるの――ユーキらしからぬ行動。しかし相手はあの騎士団長だ。


 あたしは感情を押し殺してユーキを強めの言葉で止めた。


 騎士団長はあたしにルシャを守ってと懇願している。……なぜ?


 ユーキはさらに彼を蹴り上げた。やりすぎで見ていられない。


 あたしたちはその場を後にした。


 背後で騎士団長の名を必死に呼ぶ声にちらりと見返ると、彼を抱きかかえる少女が居た。なぜだろう。その姿が目に焼き付いて、いつまでも頭から離れなかった。


感想たいへんありがたいです。

完結したので設定予想・展開予想は自由に書いてくださって構いません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ