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かみさまなんてことを  作者: あんぜ
第三部

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第12話 無茶ばかり

 今朝も朝のお務めと言って、町の困ってる人たちに癒しを施していたハルカは今、ニッコニコで馬車に揺られている。隣にはヘイゼルを座らせて頬ずりしている。


「私ー、姉妹いなかったじゃない? こっちでも売られたから、姉妹居なくてー。かわいい妹ができたみたい」


「あのわたくし、妹なんですか?」


「前世と合わせて30年くらい生きてるから十分お姉ちゃんっです!」


「お姉ちゃんというよりは、マセた妹って感じだよなあ」


「うっさい包帯男。黙って邪眼でも疼かせてろ」


「うわ辛辣……」


 従者さんは既に説得を諦めたのか、言葉遣いに注意もせず、外の景色を眺めている。


 昼食も、外で食べるの楽しいよねと、やはりヘイゼルを離さないでいた。そういえばハルカは昼食の準備をしなかったな。従者さんが主にやって、ヘイゼルが手伝っていた。上位の鑑定ならレシピも出るだろ――と言ったのだが、――興味ないかな――とだけ返された。あれこそ最高の利用方法だと思うのだが。



 徐々に日も傾いてくるが、今は夏至に近いためかなり日が長い。十分日が高いうちに次の宿場町に辿り着ける――はずだった。


「来ましたな。馬車を止めてくれ」


 何が? ――そう問いかける前に、彼の視線の先を見て理解した。少し開けた場所の先の森に屋根付きの馬車が止まっている。こちらが止まると、そのもう少し手前の茂みから人影が現れる。


「何か見覚えのある馬車だな、あれ」

「あの時、止まっていた馬車です」


「御者の方、我々と代わって馬車の中にお入りなさい。危険ですから出てきてはいけませんよ」


 ハルカの指示で四人が外に出る。


「いいのか?」


「馬車を走らせていると危険だ」


「俺はまともに戦えないぞ?」


「へぇ? 女の子に戦わせちゃうんだ?」


「それはもう今更かなあ」


 自嘲するが今は俺も戦うしかないだろう。


「やつら、弓を使うぞ。あとたぶん毒も使ってくる」


「ヘイゼルは馬を見てあげててね」


「えっ?」


「ヘイゼルはかなり腕が立つぞ」


「それでも一人じゃ危険だよ?」


 どういう意味だ? ハルカは何を考えているか相変わらずわからないな。

 バンという耳慣れた衝撃音と共に光の壁ができる。いつもの地母神様の模様じゃないなこれ。同時に、何本もの矢が弾かれる。


「従者さんが聖騎士なら、なおさらヘイゼルに戦ってもらわないと無理じゃないこれ?」


 敵の数は六人で全員が弓を構えている。何らかの能力を使って矢を放ってきてはいるが、《砦》の前では一様に防がれている。


「いつまでも《砦》が持たないでしょ? どうすんの?」


「突っ立ったまま一晩中見張りしててもケロっとしてる《寝ずの番(ヴィジランティ)》がこのくらいでヘコたれるわけないじゃない」


「まじかよ……」


「護ると誓いました故」


 やっぱりこの世界の誓いは半端ないな。まあ、守ってる聖女様は誓いを破ったんだが。向こうの六人は矢が通らないとみて話をしている様子。無理なんだからさっさと引き上げてくれればいいのに。


「六人だけならなんとかなるかな」


「その右手にも一人居るよ。厨二風に言うなら一時の方向ね」


「いやそれ厨二じゃねぇし。鑑定? 鑑定何度も使えば暗闇でも見通せるよ」


「そうなの?」


「鑑定鑑定鑑定~♪ って鑑定ソングを頭の中でぐるぐるしとけば」


「あ、ほんと。すごい。一時に七人いる」


「えぇ……」


「ちょっと名前書く。書くものない?」


 どうぞ! ――ヘイゼルがすぐさま便箋とペンを渡す。



「なんかこっち来るぞ」


 話を終えたらしい六人が近づいてくる。交渉しになんて来ないよな。そして壺みたいなものを構えている。ああ、嫌な予感がするわ。


 連中は壺を投げつけてくる。《砦》にぶつかった壺は割れるが、同時に炎が広がる。炎は地面に広がって足元を焼く。リーメの《火球》と違って魔法の炎ではないのだろう。消えることなく燃え続けている。


 炎や煙は《砦》の中に影響を及ぼすことはなかったが、馬車を引く二頭の馬が落ち着かなくなる。


「お、落ち着いてっ。ど、どうしましょう?」


「どうする? 馬車だけ逃がすか?」


 ハルカは何かの祈りを捧げ始めた。やがてヘイゼルが抑えていた馬は落ち着いてくる。


 様子を見ていた六人も手をこまねいていた。リーダーらしき男が指示を出し、二人ずつに分かれ、三方から矢を放つがこれも《砦》に防がれる。《砦》は《盾》とは違って全周囲に有効だからだ。


「やつら、分散してるからヘイゼルに速攻してもらえば行けるぞ」


「だめよ。私のヘイゼルが危険でしょ。自分で行けばいいじゃない」


 ……仕方がない。俺が行くか。


 俺は盾代わりになるもの――馬車のドアを引っぺがして構えた。すんません、あとで弁償します。――聖女様が。


「あっ、ちょ、本気で行くの?」


「お前が行けって言ったよね……」


 話してても仕方がないので俺は左手の一団に向かって走り出した。本当は右に行きたかったが伏兵も考えると左かな。右手にドアを構え、左手で剣を持った。騎士団長も本来の能力は高いはずなので、殴り合いになれば分も悪くないだろう。


 四人からの矢が飛んでくる。簡易の盾もあるし何とかなるかと思っていたが、甘かった。あれだ。ルシャのよく使っていた曲射。あれで左に回り込むように飛ぶ矢を織り交ぜてくる。


「ぐっ――ぐぁ――がっ」


 続けざまに三本の矢に射貫かれるが、さすが騎士団長。倒れることも無く敵二人の元へ辿り着き、力任せに斬りつけて弓ごと腕を切り飛ばした。この世界の剣はどれも重量は手元寄りで先端の身は細いが刃は鋭利。よく斬れ、鋭く突ける。


 もう一人は素早く後退りつつ、新たな矢を放ってくる。武器は抜かない。弓の祝福に頼るようだ。追うことも考えるが腕を切られてうずくまっていた男が剣を抜いて切りかかってくる。剣の腕はそれほどではないが、こちらも鎧は無い。鋭利な切っ先が掠めるだけで大きく切り裂かれるだろう。刃物は怖いよな。


 そしてここの弓士は味方が居ようと平気で矢を放ってくる。これはルシャも同じだったが、曲射は射手の意識に合わせて誘導されているような気がする。予測にしてはあり得ない場所に射てくるからだ。


 俺は強引に懐に入って男を持ち上げ気味に盾にする。肉の盾で上手く矢を躱すと、投げ捨ててもう一人の元へと走る。近距離で放った矢を受けてしまったが、矢がブレたのか上手く突き刺さらず、身を裂いただけで済んだ。もう一人を突く。


 今度は一撃が上手く入り、相手は動きを止める。俺はドアを捨ててそいつの首根っこと腰のベルトを掴み上げると、再び盾にして前に進む。さすがに密着していれば躊躇するだろうと思いきや、今度は貫通力を上げた直線的な矢を射ってきやがった。


「おいおいおい」


 そいつ越しに俺に刺さる矢。下手をするとこのまま縫い留められかねない。しかもさっきより距離を取られている。俺たちの馬車の方を見ると、叫びながらこちらに駆けだそうとしているヘイゼルを従者さんが取り押さえている。


「詰んだわ俺」


 再び俺に向かって斉射が放たれる。俺は少しでも矢を躱そうと膝をついて屈みこむ。


 突然、目の前を覆う大きな黒い影。そして衝撃音。黒い影は嘶きと共に目の前から去っていく。去った影のあとに現れたのは赤髪の少女。目にいっぱいの涙を溜め、こちらに膝をついてくる。


「どうして! そんな無茶ばかりするのよ!」


 彼女は俺に抱きついてくる。


「ストーップ! ストップ! ダメ! この体じゃ嫌! キスとかもっとダメ!」


 俺は彼女を強引に押し留めた。セルフ寝取られとか一生トラウマになるわ。


 実に半月ぶりの赤髪の少女の優し気な笑顔に何もかもが報われる思いだった。


感想たいへんありがたいです。

完結したので設定予想・展開予想は自由に書いてくださって構いません。

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