第7話 みんなの祝福わかるよね
アリアはパーティの仲間に紹介するといって孤児院へと俺をいざなう。孤児院は建物がひしめき合う街の中で、広い庭とホールのある大きめの石造りの建物だったのでわかりやすい。教会とかじゃないんだね――と思ったが、教えを説くような宗教でもないようなので教会は要らないのか。
「大昔の聖女様が魔王との長い戦いの後、ここを作られたのよ」
アリア様だ! ――幼い子供たちが彼女を見つけて駆け寄ってくる。アリアも腰を落として挨拶をする。
「下の子たちなの。上の子はもう三人だけ」
途中の露店で買ったお土産を配り終え、目を向けた先には少女が三人。アリアの話では俺の2つか3つ下。三人ともダイエットしすぎの中高生みたいな印象なのが痛々しい。
「みんな、手伝ってくれる賢者様を連れてきたわ。ユーキよ」
「け、賢者様だなんて……鑑定しか使えないヌーブです。よ、よろしく」
狼狽えてゲーマー用語なんて出してしまったが通じてるのだろうか。デュフフとか不器用な笑いをしてしまわなかっただけマシだったが、三人の表情からは、あまりいい印象を与えていないような気がする。
「左から、リメメルン,キリカデール,ルシャよ」
「……リーメで」
「キリカよ」
「……」
ちょっと――そう言っていちばん背の高いキリカと名乗った少女は、アリアの腕を取って離れていく。残された三人。無言が続く。リーメと名乗った少女は他所を向いて話しかけるなオーラを放っている。ルシャと呼ばれた少女は俯いたまま。コミュニケーション難度高すぎる――鑑定で時間をつぶしながらアリアを待った……。
「みんなの祝福わかるよね?」
戻ってきたアリアが鑑定の能力を見せてみろといわんばかりに告げる。
「リメメ……メルンさんが魔術師、キリカさんが盗賊、ルシャさんが弓士」
「……リーメでいい」
「呼び捨てでいい」
「……」
あ、ルシャさんがちょっと反応あった。見逃しちゃうくらいの。そして言い出しっぺのアリアはドヤ顔してる。なーぜおまえがドヤ顔。
早速行ってみようか――昼までまだ時間があるからと、アリアは三人に薬草採取の準備を促す。俺はというと、ほぼ本しか入らないショルダーバッグをひとつ持っているだけ。あと靴だけは必要になるからと大賢者様に既に準備してもらったブーツを履いている。向こうの靴はこっちでは耐久性に難があるみたい。こんな装備で大丈夫なのかと問う。
「危険が無くはないけど大丈夫。あたしも腕には自信があるから」
◇◇◇◇◇
森へと向かう道すがら、アリアは欲しい薬草について話してくれる。書板にメモを取ってあり、現在ギルドで買い取っているものとその買い取り額がわかる。
ここで俺の鑑定の能力だが、意外と欲しい情報に合わせて結果を融通してくれる。例えば不要なときに道端の草まで鑑定してこないが、草の情報が知りたいとき、あるいは探し物があるときは優先して情報を提供してくれる。すごいな賢者!
高いものから順に鑑定を行う。するとそのうちのひとつの名前に反応がある。駆け寄って――こういうやつ? ――と問う。
「えっ、これってそうなの? まだ小さいからわからない」
なるほど鑑定を進めると採取にはまだ向かないようだ。森に入ってから成長したものを探した方がいいな。
◇◇◇◇◇
森は広葉樹の種類も多く植生が豊かだ。ところどころ開けた場所は伐採の跡がある。人の手が入っている場所は比較的安全らしいが、少し奥まで行った方が希少なものが採れるそうだ。鑑定を行うと、視野の内にいくつかの薬草のコロニーが見つかるので誘導する。鑑定を進めると採取と保存の方法が判明するので教えていく。――なるほど、祝福さえあればこれは馬鹿でも賢者だわ。
昼まで採取を続けると、綺麗にまとめられた薬草の束がいくつもできあがる。
「「「「ほおぉぉぉ……!」」」」
そこそこ良い値の付く薬草を前に、四人が感嘆の声をあげる。え、そんなに? アリアは今まで何してたん? 聞くとゴブリン退治だの、害獣狩りだの、脳筋プレイ一択だったそうで儲けは少なかったらしい。しかしゴブリン居るんだ。よくいままで貞操が無事で……なんて言ってると――そっちはとらないけど命は捕りに来るよ! ――なるほどやはりエロゲの中だけらしい。どっちでも無事だったならいいや。
◇◇◇◇◇
昼食は干し肉とパンとバターと薄めて一度沸かした葡萄酒。バターはすごくおいしい。逆に干し肉は微妙。俺はアリアに断って、さっきの薬草を一束融通してもらう――自分の取り分から引いていいからと。ナイフを借りてパンを切り、間にバターを塗って小さく千切った薬草と塩をまぶし、干し肉を挟む。半分切って味見をし、アリアに食べてみと手渡す。
「あ、この味知ってる。おいしい!」
三人にも薬草を薦めると喜んでもらえた。ちょっとだけ打ち解けられた気もする。しかし食材から適当なレシピを鑑定できるとかすごくない? これだけでもうこの世界を満喫できるわ。ビバ鑑定!
◇◇◇◇◇
もう少しだけ採取を続けたあとは、日の高いうちに早めに切り上げてギルドに向かう。状態が良いので少し色を付けて買い取ってもらえ、まとまったお金が手に入った。アリアは――今日は私の奢りでご馳走ね! ――と、大量の食材を買って孤児院に帰った。
食材を孤児院の厨房まで運び込んだ後、俺はそっと抜け出し孤児院をあとにした。
リメメルンの名前をよく間違えそうになります。リーメメルンにすれば間違えなかったかもしれないけど、伸ばさない方が好きだったので。
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