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かみさまなんてことを  作者: あんぜ
第三部

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第6話 無責任で失礼

 この世界に来て初めて熱にうなされた。起きるとヘイゼルが背中に包帯を巻いてくれていた。いや、包帯じゃない。彼女の服だろう。彼女に申し訳ないと礼を言うと、にこりとして、――本当に変わられましたね――そう言った。


 俺は昨日書いた手紙を彼女に渡す。生きて帰ったら、大賢者様か《陽光の泉》のアリアに渡して欲しいと告げる。ただしリーダーの男には絶対に渡さないようにと。


 これからどうするか。追っ手が二人なら森の奥へ入れば何とかなるだろう。ただ、食料の問題がある。ギルドの依頼をやっていた時でさえ携帯食なしで森に入ったことは無い。水さえ持っていない。しかもこの辺りの地理も生態も知らなさすぎる。


 街道に出るのはどうか。奴らに遭遇せずに上手く行商人に遭遇できれば何とかなるだろう。ただ、馬車はもう一台あった。あれに誰が乗っているかに依る。



 ◇◇◇◇◇



「街道へ出ましょう」


「奴らと出会ったらお仕舞だぞ」


「それでもこのままではエイリュース様のお体がもちません」


「……わかった。だが慎重に行こう」


 雨は止んでいた。俺たちは元来た道を引き返すことにした。ただ、道が正確かがわからない。()()()()だ。おそらく引き返せている。これまでが鑑定に頼り過ぎた。もう少し森歩きに慣れた方がいい。今更思った。


 ヘイゼルが足を止め、こちらに止まれの合図を出す。人が居る。あの二人じゃない。俺たちは慌てて引き返す。


「もう一台の馬車のやつらか。この辺りの地理に詳しいのが居たら厳しいな。迂闊に食料も探せない」


 チート級の鑑定が使えないのが痛い。


「あとは大きく迂回して街道に戻るかだが、正直、迷う自信しかないわ」


 素人が森の中を歩いたって迷う未来しか見えない。そもそも魔法の道具的なものを持っていたらアウトだな。俺はアオや貴族連中と違って詳しくないし。


 ヘイゼルは俺を気遣いながら先導し、たびたび俺を休ませて追っ手を確認したりしながら森を進んでいった。


「ある程度はまっすぐ進めていると思います。起伏があるので確実ではありませんが、そろそろ一度向きを変えましょう」


「森は詳しいのか?」


「そういうわけではありませんが」


 ヘイゼルは後ろを指さすと、二本の太い木の()()()()に不自然に葉の付いた枝が留められていた。なるほど、俺を気遣って振り向いていたのではなく、木の位置を確認していたんだ。追っ手も確認していたのかもしれないが、細工をしていたんだな。


「ヘイゼルは賢いな」


「方角が正確ではないので……当てにはならないです」


「同じ場所をぐるぐるするよりはいい」


 日が暮れてきたため、近くで夜露をしのげる場所を探し、身を寄せ合って寝た。



 ◇◇◇◇◇



 体調は悪化していた。今まで生きてきてここまで食事をとらなかったことは無かった。中学や高校の頃はなんだかんだ食事を抜いても、一日以内に十分すぎる食事をとっていたし。


「俺が倒れたらヘイゼルだけでも生き残れよ」


「馬鹿なことを言わないでください」


「俺は足手まといだ。君一人の方がまだ助かる」


「わかりました。でも、エイリュース様がいらっしゃらないと真っすぐ進む目標が無くなりますので」


「……そうか」


 俺は笑った。彼女がここまでしてきたのは何のためか、もっと楽な道もあったはずなのに。もちろんまっすぐ進むための目印でもあるだろう。でも、俺は嬉しくて笑った。



 ◇◇◇◇◇



 一日歩いたが街道には辿り着けなかった。追っ手にも追いつかれていないが、これは街道から大きく離れた可能性が高いな。幸い、大型の怪物とは出会っていない。遭遇してもヘイゼルがなんとかできる相手だったが、森の深いところに行くとそうはいくまい。そして俺よりも彼女に疲れが見えてきた。華奢な体なのに歩く距離は俺よりもずっと長いのだ。



 ◇◇◇◇◇



 さらに一日を進むが、そこでヘイゼルは限界を迎えた。


「申し訳ありません。わたくしがしっかりしないといけないのに」


 彼女を夜露を凌げる場所に横たえる。なんだかんだ言って騎士団長の体はでかいなりに丈夫だった。背中の傷は痛むし、体中が熱っぽいが、動けないわけではない。


「食べていないんだ。仕方がない――」



「――その、こんな時になんだが、抱かせてはくれないかな?」


 かみさまよ、どうあっても俺を弄ぶ気なんだな。確かに以前の俺だったら恋人を裏切るくらいなら誇りある死を選んだ方がいいとも思っていただろう。でも、死にたくない。せめてもう一度会ってから死にたい。心残りだらけなんだ。


「いいですよ。でも、諦めるつもりなら許しません」


「諦めないよ。あと、髪の毛を一本貰えるかな」


 ヘイゼルの髪の毛を一本貰うと、森の中で摘んだ草の実――確か毒は無いはず――と共に、呪い(まじない)をかけた。淡く輝く草の実を彼女に飲むよう促す。俺は上着でベッドを作ってやり彼女を横たえる。こういう時はキルト地の鎧下は便利だよななんて思いながら。


「あと、生き残れたら()()()以外の男と幸せになって欲しい」


 彼女は俺の言葉に顔をしかめる。まあ当然だろう。こいつとはもちろん俺、エイリュースのことだ。ときどきそう呼ぶので彼女もわかっているはず。


「今から抱こうという女性に対して失礼です。それに無責任とは思いませんか」


「無責任で失礼だね――」



「――でも、こいつはダメだ。危険すぎる」


 彼女は何とも言えない顔をしていた。疑いなのか何なのかは俺には読めないが、自分でもおかしなことを言っている自覚はあるので苦笑いを返すしかないな。



 十六夜の月の光が明るく森を照らしている。


 俺は魔女の祝詞を唱え、ヘイゼルを抱いた。


 ルシャとは違う。背中の傷に触れる――痛々しい。


 祝福の順番が違う――まずは《不屈》だ。


感想たいへんありがたいです。

完結したので設定予想・展開予想は自由に書いてくださって構いません。

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