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かみさまなんてことを  作者: あんぜ
第一部
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第6話 にゃー

 ここのところ睡眠時間を長くとってるせいか朝早くに起きても苦にならない。外が明るくなったので朝食を摂りに食堂へ降りたが、既に結構な人で溢れていた。スープとパン、薄めた葡萄酒が朝食だが、朝から酒の類はまずかったかもしれん。屋敷では果実水を飲んでたからな。


 ちなみにここの一般的な飲み物は葡萄酒,林檎酒,蜂蜜酒,麦酒を水で割ったもの、もしくは一度沸かしたものだ。冬場は温めて飲むらしい。いずれも糖分を残したままの発酵途中のものなのでかなり甘い。前の世界で言う果糖に炭酸とアルコールを加えたようなもので、むかし台所で盗み飲んだワインのように渋くないから飲みやすくはある。どれも大賢者様のところでご相伴に預かったが、未成年に酒を薦めてるわけではない。そのままの水を飲む習慣が無いのだ。


 用もないのでギルドまで散歩しようとそのまま外に出て歩き始めると、後ろから小走りで近づいてきた人影。隣で歩調を合わせると、首をかしげながら下から顔を覗き込んできた。


「にゃー」


 はっと息をのむ。彼女とは似ても似つかない容姿。なのに俺は幼馴染の名を呼んでいた。


「ん? なに? えっ、どうして泣いてるの」


 いつの間にか涙を零していたらしい。胸が苦しい。


「や、ゴミとか。目に……」


 慌てて涙をぬぐい、取り繕う。


「昨日……ど、どうだった……」


 何がどうなのか。コミュ障特有の、少し時間を空けるだけで他人行儀が発動する。


「おかげで無事、帰ることができたよ。ありがと」

「そ、それはよかった」


 無駄に食い気味になる。


「昨日と雰囲気、違わない? もっと達観してなかった?」


「そう?」


 何か聞きたいことがあった気もするが続かない。彼女もこちらの反応が薄いからか黙ってしまう。ただ、俺としてはこうやって並んで歩くだけで懐かしさを伴う幸せを感じることができた。



「ありがとう。ちょっと故郷を思い出せて嬉しかった。じゃ、俺ここだから」


 ギルドの前で立ち止まる。幸せで少し気分が解れた。


「あたしもここだから」


 なんかちょっと笑ってしまった。冒険者だったか。



 ◇◇◇◇◇



 受付にはちゃんと女性が居た。赤髪の少女も受付を目指していたから先を譲った。彼女は一瞬、驚いた表情を見せたが、特に何も言わずにそのまま受付嬢に話しかける。


 ユーキという方ですね――ふたりの会話の中で自分の名が聞き取れた。


「呼びました?」


「えーっと、魔女のユーキさん? 男……の方です……ね。あ、書いてある」


「魔女……」


 訝しげに見つめる彼女。ジト目もかわいい。そして――あっ――小さな声とともに胸の前でポンと手を合わせる。何かを察したような表情。


「いやいま考えてること、それたぶん誤解だから」



 ◇◇◇◇◇



 カウンターでお金を払い、ティーセットを貰ってきて近くのテーブルに着く。茶葉を鑑定したところ、好みに合わせた抽出時間までわかる。さらに熱湯を注ぐとバー表示のタイマーまでポットの上に出現する。わあ便利ぃ――。


「買ってるのかと思ったら売ってたんですね」


 感慨にふけっていた俺を強めの語気でぶん殴ってくる少女。


「違うよね。いま鑑定の話をするところだよね」


「両方ですか」

「買っても売ってもいません」


 食い気味に反論しておく。あと急にかしこまるのもヤメテ。


 話が進まないので、カップにお茶を注ぎながら自分が召喚者――これは言っても良いと教わってた――で街に無案内だったため、門の兵士に騙されて宿と勘違いして娼館に入ってしまったことを説明した。途中、――あ、おいしい――なんて呟いていたのでちょっと鼻が高い俺。


「そんなだとすぐ騙されますよ。冒険者なんて特に」


「鑑定があるからいいの。俺には」


「物の名前がわかるくらいですよね??」


「えっ、そういうものなんだ」


 眉をひそめる彼女。これは疑いのまなざしだろうな。


「そうそう! 自己紹介がまだだったな。俺の名は祐樹。そして君の名は――」


「ア……」

「ストーップ! ちょっ! まって! ストップ!」


「……ファーストネームだけにして」


「アリア」

「はい」


「かしこまった喋り方もやめて」

「わかった」


 彼女が目を伏せてる間に()()()()()にざっと目を通しておく。剣士か。そして聖騎士を示す言葉と鍵の文字。れいの文字も。


 鍵付きの人は意外と少ない。街中を歩いてみてもほとんど遭遇しない。


「フルネームと祝福くらいはわかるよ」


「そうなんだ。そんなことまでわかるんだ……」


「それで? 合格?」


「え?」


「臨時?」


「あ、うん。合格。臨時だけど」


「臨時でも助かる。ほら、全然わからないから」


 笑顔を向けるとアリアも微笑み返してくれる。なんかいいな。



 ◇◇◇◇◇



 アリアのパーティについて尋ねると、他は近くの孤児院に住む子、三人で、もうすぐ独り立ちする予定なので彼女と組んでいるそうだ。三人とも祝福を既に得ているらしい。手ほどきとして、価値の高い薬草採取の知識を得るために鑑定を頼みたいそうだ。そういえば薬草師や薬師の募集と併記されてたな。そっちの方が見つけやすかったんじゃないかと問う。


「それが……ちょっといい人が居なくて」


 そんな馬鹿な。薬草の知識なんて初歩の上に必須じゃないのか? なんなら冒険者仲間にでも聞けばいい。なぜかそこで自嘲気味に笑うアリア。そんな彼女を見ると胸が痛む。娼館でのことといい、ちょっとおかしくないかい?


アルファポリス様にも投稿できたっぽいので記念に6話を追加しました。


【ご注意】作者が自分で読みたいので書いてます。なので、感想欄に設定予想・展開予想を書く場合は必ず作者が読み飛ばせるよう、閲覧注意の文字を書くように何卒お願いいたしします。

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