第24話 アオ
王都近郊まで戻ってきた俺たちは、王都からの先触れにより足止めを食うことになった。また凱旋パレードをやるというのだ。しかも《陽光の泉》として参加しろといわれた。えっ、やだ――と即答したが、ハルに掴まってこっそり帰るのは阻止された。
なんでも、これちゃんとやんないと民からの理解が得られないんだと。あと、お祭りの一環で国費も出るからみんな楽しみにしているそうだ。というわけで、《陽光の泉》だけであの豪華な馬車をひとつ使わせてもらうことになった。
美人揃いのうちのパーティは目立つことだろう。そして俺は地味なヒモなので御者席にでも座っておきたいと言ったら、アリアに逃げられないよう腕を組まれてしまった。まあいいや。アリアが楽しそうだから。
◇◇◇◇◇
城まで戻ってきてハイさよならとは行かなかった。王様から労いの言葉を頂いたうえ、魔王領の問題解決の鍵を手に入れたということで、俺たち《陽光の泉》が評価されたようなのだ。おそらく、大賢者様の差し金だろう。前線での活躍もすでに伝えられていると聞くし、今後、悪い扱いはされないだろう。
城で歓迎されたことにはもうひとつ利点があった。アオだ。俺たちは部屋を用意され、しばらく城で過ごしてもいいことになったが、アオに会ういい機会だった。
◇◇◇◇◇
ハルに案内されて、俺とアリア、それからぜひお会いしたいとルシャ、お邪魔じゃないならとキリカがついてきた。リーメだけは城の蔵書を見てみたいと言って来ていない。
「アオー、ただいま。帰ったよー?」
返事がないのでハルが部屋に入る。中はしっかりしたテーブルがあってお茶のワゴンが置いてある。装飾のある調度品、壁には織物、俺たちの部屋とあまり変わらないが、ここで生活するのは肩が凝りそうだよなあ。
「アオー? ユーキ……篠原連れてきたよ」
ハルは隣の扉をノックする。
『篠原くん? こっちきたの?』
扉の向こうから声がする。
「そう。ちょっといろいろ大変だったけど、合流できたよ。六年差だって」
『えっ、そんな若いの? ちょっと待ってもらって』
「待っててもらってもいい?」
ハルが言うので、お茶でもしていようということになる。お湯は貴族の館では魔法のポットで熱湯が出せる。電気も要らないから便利だよな。
「あ、俺、鑑定があるからお茶淹れるの得意だよ。茶葉に合わせてタイマー出るんだぜ」
ちょっと自慢だった。
「ほんとに? おれたちも鑑定はあるけどタイマーなんて出ないな。あ、座って座って」
ハルはさっと椅子を持ってきてワゴンからカップと茶菓子をてきぱきと用意する。
「ハルは気が付くし、所作がきれいだからクラスでも女の子に人気なんだよな」
「本当。彼ならこちらでも十分、貴族としてやっていけそうだわ」
キリカが言う。こっちみてニヤついてるなこいつ。『こうやっていじめて欲しいんでしょ』みたいな顔してるが違うぞ。
「ハハっ、やめてくれよ。もういいかげん街の方で暮らしたいくらいなんだ」
「俺なんてタレントがしょぼいってすぐ街に放り出されたけど、酷かったぜ。最初は兵士に騙されて娼館に入っちゃったし、その後の宿だってボロくて――」
アリアが笑ってる。そういえばその辺の話が通じるのアリアだけだな。二人で笑った。タイマーが終わってお茶を注いでいく。
「そういやハル、お前さ、魅了の魔眼持ってるんだって?」
ブッっと吹き出すハル。
「大賢者様に聞いた? 女の子の前で言うなよ……。神様が最近の流行りだとかで勇者のタレントに勝手につけられて困ってるんだよ」
「まあ、お前ならそんなもの無くても余裕で魅了できるわ」
「やめろよほんと。あとお前さ、自分の周り見て言えよ」
返す言葉もないわ。そして後ろでドアが開く。
「篠原くん、久しぶり――あー! ハル!? あんた結局、貴族の女あてがわれたの!?」
「ちが、違う! ほら、前に言ってた聖騎士さんと剣聖さんと聖女さんで……」
「まさにそうじゃない! 結婚相手にどうだって言われてたでしょ!」
えぇ……。そんな話だったのか。
「いやそうじゃなくて、彼女らみんな篠原の婚約者で――」
「や、違うぞ。婚約者はルシャで、アリアは恋人だ。キリカは――」
「愛人」
キリカがニヤつきながら言う。
「「「「愛人!?」」」」
キリカとルシャ以外が驚く。
「あら? ルシャに誘われたわよ?」
「聞いてねえ。どういうことだよルシャ」
「ユーキ様? キリカさんにもぜひお慰みをお与えください。あとできればリーメにも」
当たり前のようにルシャが言う。これで聖女様なんだよなあ。
「ちょ、ちょちょちょっと待って。篠原くん、あなたこの子になんか変なことしてない? あなたちょっとこっち来て」
アオがルシャを連れて部屋に戻っていく。しばらく皆、無言で部屋の閉じた扉を見ていると、頭を抱えたアオがルシャを連れて戻ってきた。
「この子、普段からこうなの? 篠原くんを信仰してるみたいにみえる」
「まあ、だいたい……」
「状態異常は自分で解除できますよ?」
ルシャの言葉にアオが何をしていたかわかったわ。
「すごく感謝されたのはいいけど、孤児院に預けたのをちょっと後悔してる……」
「川瀬さんもありがとう。ルシャを助けてくれて。俺は彼女に助けられたから」
「そ、そう? それならいい……のかなあ? あと、アオでいいから。こっちではもうアオだし」
「俺もユーキで」
「アオ。ユーキ達がね、ヒメの居場所、見つけてくれたんだって。生きてるって」
「無事なの!?」
「大人のエルフたちが保護してるって聞いた。俺たちもエルフに会って名前を付けたんだ」
「そっかぁ。そっか。よかったぁ」
「もし王様に無茶を言われてさ、俺たちの仲を裂こうとするならエルフのとこに逃げようって相談したんだ。だからもし辛いときはハルと川瀬さ……アオも一緒に行こう」
ハルとアオは顔を見合わせて頷いた。そして――実を言うと――そういって話してくれたのだが、アオがエルフの子供のことで騎士団長を嫌悪していたところにハルに結婚相手を充てがわれて、二人の仲が非常に気まずくなっていたのだそうだ。今回の遠征も拒否したアオだったが、仲直りできて本当に良かったと言っていた。
◇◇◇◇◇
「あ、あの、もし時間がよかったら、アオさんにお聞きしたことがあるんですがっ」
なに? ――アオがアリアに返す。
「ユーキのことについてちょっと……」
「いいよ」
「いや、アオ……さんは俺のことなんか知らないだろ」
「知ってるわよ。何で今更さん付けなのよ」
「だって話したことないし」
「遥のカレシなんだから知ってるわよ。彼女とは仲良かったし」
「スミマセン……。あと麻枝とは別れたので……」
「別れたの? だからあの時変だったんだ……。でもなんで? 付き合い長かったんでしょ?」
「ア、振られたんで……」
一瞬、ハルと目が合ってしまったが、話してないなら理由は言わない方がいいな。
まあいいわ。わたしの部屋でどう? ――そうアオは言って、ついでにあとの二人も誘って部屋にさっさと行ってしまった。俺はハルと顔を見合わせる。
「部屋の方が寛げるからこっちも行こう」
◇◇◇◇◇
ハルは反対側の自分の部屋に案内した。ドアを開けてすぐの場所で靴を脱ぐよう言われて、厚手の織物が一面に敷かれた部屋に導かれた。
「ごろごろしていいから。やっぱ靴脱いだ方が楽だよね」
「こっちじゃ靴脱ぐのはベッドくらいだもんな。気軽に脱ぐとルシャとかに、はしたないって言われるよ」
ルシャは結構その辺うるさい。夜のアレが何なのっていうくらい。
「アリアさんなら受け入れてくれるんじゃないの?」
「そうだな。うちも今度買ってみようかな」
「結構高いんだよこういうの。手作りなのと、あまりこっちの人はやらないから」
なるほど、機械が作るわけじゃないもんな。
「そうだ。麻枝はどうだった? 何か言ってた?」
「転生するとは言ってたけど、あとは神様と内緒話してたから」
「会えてないんだよね?」
「何年か先に転生してるとは思うけど会えては居ないなあ。少なくとも王都では見かけたことがない。転生者って鑑定でわかる?」
「どうかな。俺の鑑定って大賢者様より上らしいけど、転生者って書いてあるのは見たことないな」
「鑑定は文字が名前と数くらいしか読めないんだよなあ、おれ」
「いや、俺全部読めるよ」
「まじかよ、意味とか全部?」
「まあ全部。どうせ城を追い出されるからって、大賢者様のところでずっと勉強してたから」
「英語得意だっけ?」
「ぜーんぜん。でも楽しくてシーアさんにずっと教わってた」
「あの人も美人だよな。透き通る感じの」
「冷たい感じの……」
目線がとは言わなかった。
今までどうしてたとかしばらく話していたら、アオから声をかけられた。
「内緒話は終わったから、二人ともこっち来たら?」
◇◇◇◇◇
「お、お邪魔します……」
アオの部屋はまた変わったいい香りがした。そしてルシャが靴を脱いでて足を隠してる。
「何で急に緊張してるのよ」
「や、女の子の部屋とか……そんな入ったことないし……」
私の部屋は? ――ってアリアが言うけど、宿の部屋入らせてもらったことないよな。
「そうだっけ? ユーキの部屋しか行ったことなかったかな?」
「遥の部屋は?」
「麻枝の部屋は小学校までしか行ったことなくて、その後は部屋には入らせてくれなかった。麻枝が俺の部屋来てたし」
「いつから苗字呼びになったわけ?」
「振られてから……かな」
あれ? どうだっけ?
「そういうとこ変に律儀だよな」
「ユーキ様は女性関係はしっかりされてます。キリカさんが誘ってもついて行きませんし、パーティの女の子も距離を置いて接してますし」
「えっ、まだ女の子居るの?」
「あと三人いるわね」
「えっ、前はまだ一途そうだったから好感持てたのにハーレムとかちょっと引く」
「大丈夫よ。私が見る限り、ユーキは避けてるし。私としてはどっちでもいいんだけど」
「キリカさんは二人に慕われてますからよく知ってますよね。ただ、リーメは陥落したようなものです」
「やめてくれ……」
「彼女を取っかえ引っかえしてた連中、笑えないじゃない」
「ユーキ様はそんなことしません。ちゃんと責任を持って面倒を見てくださいます」
「フォローしながらトドメ差すのやめてくれ」
ハルとアオが笑う。
「ま、いいや。向こうとは価値観違うんだし、それを言ったらわたしたちだって。聞いたんでしょ?」
「ああ、うん、まあ」
ハルと目を合わせてお互い苦笑い。
「その辺も併せて向こうで住むかはともかく、国王がどう対応するかだな。ここに居る義理は無いんだろ?」
「う~ん、住まわせてもらってるからね。結構いい暮らしで」
「城はともかく、街の方の暮らしは捨てがたいかもしれないな。ほどほどに便利だし」
アリアとの何気ない日常が楽しいからな。
「一度、そのエルフの町にも行きましょ。ヒメにも会いたいし」
状況が落ち着いたらエルフの町に皆で行くことになった。
ミシカの部屋なら入ったことあります
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