第23話 ちゃんとまってたよ
キリカとハルが歩いて戻ってきていた。俺が親指を立てると二人が返してくる。
「無茶苦茶だな!」
ハルが笑っている。
「だろ? 勇者の力でいつもよりさらに強いからな」
被害を確認した俺たちだが、誰も死んでおらず、ルシャの普段より割増の《癒しの祈り》であっという間に負傷が回復したため無傷での完全勝利となった。
「町まで戻った方がいいな」
「そうだな」
ハルと俺は帰還しようと話す。
「待て、何を言う。この戦力を持って拠点を取り戻すのだ!」
騎士団長が前進を指示してくる。
「エイリュース殿、それは無茶だ。軍は潰走してるのです。一度帰るべきです」
ハルの反対意見に騎士団長は顔をしかめるが、反論はしてこない。
「トロルの討伐はエルフの助言を受けるべきだ。そうじゃないと奴らは悪意を察知して襲ってくる。今、慌ててやることじゃない。戻ろうぜ」
俺は騎士団長を無視して騎士たちに言う。彼らは納得してくれているようだ。
◇◇◇◇◇
入口まで戻ってくると、ハルたち一行に先に行っててくれ――と内輪の皆でアリアデルに会いに行く。
「きれいなところね」
「そうね。心が洗われるわ」
「気持ちいいですねー」
軍靴に踏みしめられた泥沼しか見てこなかった彼女たちは、この地の本来の美しさに魅せられたようだ。そして珍しくリーメがたくさんお喋りしていることにも驚いていた。
「またニヤニヤしてる」
「や、だってさ、皆にも見せたかったんだもん。な」
リーメも頷く。
「二人で分かったような顔してるとアリアに妬かれるわよ」
「妬いてないもん。でも、後でどんな旅だったか教えてよね」
「ああ、こっちも知りたいよ」
アリアと手を繋いで歩いた。前ではリーメがあちこち指さしながらルシャとキリカにいろいろ解説している。これはエルフの靴になるとか、こっちは手袋とか。アリアデルにいろいろ聞いてたもんなあ。
そしてそのアリアデルは自分の木でちゃんと待っていてくれた。
「ちゃんとまってたよ」
「偉いね!」
「えらい!」
リーメと会話する小さなエルフの子供をみて、アリアたちもかわいいと取り囲む。アリアデルは不思議そうにしていたが、みんな笑顔で語りかけてくるのを見て喜びはじめた。
「ところで何でアリアデルなの?」
やはり聞かれたか。
「よくわからんが、そうなってしまった。なあ」
リーメもよくわからんと話す。『すごい きれい』と二人で言ってたらそうなってしまったと。
「ふぅん」
どういう反応かわからないが、悪くは無いのだろう。楽しそうだから。アリアデルも楽しそうだ。彼女のようなエルフがもっと増えてくれる未来がやってくるといい。リーメもここに居ると楽しそうだ。ただ、置いていくわけにはいかないな。彼女にはアリアデルと違って木が無いから放置すると危険だ。
アリアたちにはこの先にある町、王国が取り戻そうとしている拠点のことは話してある。もしもの場合はそこで住むつもりだと。王国が愚かなことをこの先も続けるならトロルたちは増え続けて町に到達することは容易ではなくなるだろう。なんならハルたちにもこちらに付いてもらえばいい。
アリアデルとはここで別れた。――ユーデリールさんたちによろしく。必ずまたやってくるから――と告げて。
◇◇◇◇◇
そうして俺たちは無事、町まで帰ってこられた。軍も再編に時間がかかるだろう。勇者一行、そして再登録を行った《陽光の泉》の一行は一度、王都に戻ることになった。なぁに、今まで臨機応変に出立してきたんだ。今更、翌日出立を計画しても誰も文句話言わない。言わないよな?
あ、馬は二頭とも無事でした。よかった。
途中、侯爵様のところへ寄ったが、竜が未だあのままだったのでリーメと俺の二人で降ろしておいた。ズタズタではあるが、まだ利用価値のある部位は残ってるだろう。侯爵様に《陽光の泉》から迷惑料代わりに進呈して詫びを入れておいたが、反応は悪くなく、むしろ歓迎されてしまった。
竜を屠った上に門に吊るしてきたと、新たな伝説のように民衆に広まっているらしい。しかも妻の聖騎士を取り戻すためだとか、聖女に捧げるためだとか、尾ひれがついてまわってるとか。仕方がないので侯爵様は――仲間の危機を救うためにたった二人で竜退治をした――と『たった二人』のところを強調して公に触れておくことにするようだ。リーメがすごすぎるだけなんだけどな。
行きとは扱いがえらく違ってこっちが困惑してしまうような歓迎具合だった。特に、今更ではあるが黒峡谷の竜退治についてはとても感謝された。騎士団長からの情報はどうも齟齬があるようだ――と話していたので、侯爵様自身はわりといい人なのかもしれない。
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