第15話 かなりかわいい
俺たちは正門が見える屋根の上で《透明化》をかけ、一部始終を眺めていた。リーメは大笑いしていた。確かに騎士団長が現れたときのあの驚きようといったらなかった。あのイケメンが真っ赤になって叫び散らすので、うっかり俺も笑い声を漏らしてしまった。やつは聞こえたのか聞こえてないのか。周りをきょろきょろしていたのがまた可笑しくて笑った。
騎士団長が指揮を執ってあの竜を降ろそうとしていたが、リーメの《巨人の召喚》と俺の馬鹿力で巨大な掛け金に脊柱をひっかけたのだ。そうそう外れることは無いだろう。
必死に人払いをするも、兵士はビビるし住民は大騒ぎ。しかも正門だから町の出入りさえ制御しきれず、人でごった返している。腹がよじれるまでリーメは笑っていた。
騎士団長が手をこまねいている間に、兵士を引き連れた一団がやってきた。侯爵様だな。彼は状況をひと通り確認した様子だったが、やがて騎士団長に何か言うと、一緒に城へ戻っていった。ただ、残念ながらアリアたちは姿を現さなかった。
◇◇◇◇◇
余興は楽しんだが気分は晴れない俺は、リーメとしばらく町をぶらぶらして食事を取ったりした。市井の話では《陽光の泉》の評判自体はかなりよかったらしく、正門の竜とで噂は持ちきりだった。騎士団長もしばらくは嫌がらせをかける余裕もあるまいと、別の宿に泊まれないか交渉し、少し色を付けてやって泊まることができた。
部屋は一緒のツインだが、まあこいつとは今更だな。
あの日、リーメことリメメルンは憔悴しきった俺に、アリアの振りをして迫った。本人は覚える魔術が無くなったので、召喚士とやらに興味が出たのだと言っていた。事実、召喚士の魔法は他で見ないもので面白かったらしい。ただ、俺には彼女が助けてくれたという事実の方が大きいし、少なからず彼女もそれは思っていただろう。
俺たち召喚者の召喚には神々の力を通すことと、正しい供物を用意することで向こうの世界と同じものをこちらの世界に呼び出す事ができるらしい。供物は精神の依り代となり、人の体を作り出す。これが召喚術の中の《喚起》。
ただし《喚起》は条件を揃えるのが面倒なので、リーメの使ったような《召喚》で術者本人に降臨させる。その際、不足分は周囲の物質で補う。
召喚自体は異世界の存在やその辺の霊などを呼び出すことができるとか。今回のように繋がりが深い怪物を指定することもできると本人は言う。タレント『獣の瞳』と書いて召喚士と呼ばれる理由がわかる。
◇◇◇◇◇
その後一日、町の様子を見ていたが状況は変わらず。そしてさらに翌日、まだ日も登らないうちに勇者一行は出立してしまっていた……。早いよ! なんでそんな思い切りがいいの?
俺たちは勇者一行が出立したという話を聞くと慌てて厩から馬を引っ張り出し、アリアたちを追おうとしたがまず行き先が分からない。兵士に聞くわけにもいかないし、馬車や馬の跡は既に情報が混濁していて追えない。仕方が無いので朝の早い時間に外から市場に入ってきた連中から情報を聞き出し、およその向かった道を知った。
情報が確かなら、勇者一行はこの辺境の地と隣接する魔王領へ向かったということになる。
◇◇◇◇◇
目的地が次の町であればここから二日。途中に宿場は無く、野営が必須なようだ。俺たちは出発が遅れたため、できるだけの道のりを進んだが、一行に追いつくことはできなかった。
ここより東は緩衝地帯にある町が一つだけでそれより先は既に魔王領に落ちている。魔王軍とやらがどんなものか一度見て見たくはあるが、まずはアリアたちと接触したい。最悪、道中で一行を襲撃してでも彼女たちを鑑定してやりたい気分だった。
緩衝地帯と呼ばれた一帯はすぐに分かった。そこから先は植物が無いのだ。土地が乾いていて砂埃が立ちやすい。
町は辺境の地らしく壁で囲われていた。ただ、平民の出入りは少なく見える。俺たちが門を抜けようとすると呼び止められ、身分を改められた。ギルドカードを見せると問題なく通れる。
ところで――と、おれは兵士に切り出す。――勇者一行が近くまで来ているらしいが、一度見てみたい――そう話すと、元居た町の名を告げられ、そちらに行ってみるといいと言われる。
「これ、こっちには来てないってこと?」
リーメに相談するが、彼女も困っていた。
「一泊して戻るしかないかな。他の行く当てというと王都くらいしかわからない」
仕方が無いので宿を取る。少し歩いたが、この街はほとんどが駐屯地になってしまっていて、出入りできる区画が限られている。他の区画は採石か何かを取引しているように見える。
「あれは魔鉱だ」
リーメが言う。
「多分この先だと思う。魔鉱がたくさん取れる土地がある」
「魔鉱って何に使うの?」
「生活基盤に使う。下町なら水路だ。ほとんどは城や貴族の便利な生活に使う」
「魔石とは違うんだ」
「魔石は純度が高いが長く持たないので持ち運ぶような小さな魔道具に使う。魔鉱は純度は低いが物によって二十年以上持つから大きな施設で使う」
暗くなってきて宿で食事を取っていると、外が騒がしい。もしかしてと思い覗きに行くと、やはりというかなんというか勇者一行がやってきたようだ。リーメに声をかけて外に出るが、町の人間に歓迎されているのか通りがごった返していて近づけない。アリアの名を叫んでみるがそもそも遠すぎる。
「どこで追い越したんだろうなあ」
「火球でも打ち込んでみるか?」
「やめとけ」
こいつの冗談はよくわからん。仕方無く食堂に引き返す。前回、取り返せなかった町をこれでようやく取り返すことができると、戻ってきた客が言っている。
◇◇◇◇◇
「やっぱり来たわ。もっと寝てたかったんだがなあ」
「どれだけ執念深いんだ」
「煽ったからなあ」
「外にもいるぞ」
部屋のドアを少し開け、寝転んで鑑定ソングを頭の中でぐるぐるさせながら下の声を拾っていたら、騎士団長の名前のタグが浮かび上がる。
「馬は置いていくしかないか。金と書置きを残しておこう」
俺は便箋に書置きを残し、銀貨を何枚か挟んでシーツに入れた。
リーメはその間に《豹の召喚》によってしなやかな体に変化する。毛布とマット食っちゃってるけど。
「なにそれかわいい」
つい猫耳と猫尻尾に反応してしまった。
「おんぶするから首に掴まって」
「大丈夫なの? 重くない?」
「たぶん平気」
リーメは音もなく助走し、開け放した窓の縁を蹴ってジャンプする。隣の家の屋根に飛び移るとさすがに音がしたが、この距離を飛ぶとは思うまい。
「このまま走れるの? 降りようか」
「平気」
リーメは俺を背に乗せたまま屋根の上を走り、屋根から屋根へと飛び移っていく。
「さすがに駐屯地の方に潜り込むのは厳しいよな。町の外に出るか?」
「ロープあった?」
「ある」
「じゃ、降りて」
リーメは人気のない場所で通りに降りると、俺が出したロープを咥えて町の壁を勢いをつけて駆け上がり、木製の通路にしがみついて登った。ロープを括り付けて貰って俺も上へ上るが、俺すごい。ロープだけで登れるくらい筋力ある。何これ、昔だったら考えられない。
ロープを壁の反対側に垂らし、俺が先に降りてからロープを回収し、リーメがすっと飛び降りてくる。余裕だな。すごいわ。
「かわいい?」
「うん、かなりかわいい」
【ご注意】作者が自分で読みたいので書いてます。なので、感想欄に設定予想・展開予想を書く場合は必ず作者が読み飛ばせるよう、閲覧注意の文字を書くように何卒お願いいたしします。




