第12話 吊るそう
俺たちは六日の行程を経て目的の峡谷そばの町に着いた。今日は本来ならアリアたちが帰ってきていたはずの新月の日だった。
宿を取ってから勇者一行の情報を求め、町をうろつく。滞在場所自体はすぐにわかった。町の西側の丘に居を構えるお貴族様の城に滞在しているらしい。この辺りの魔王領に近い辺境一帯を治める有力な貴族らしく、称号は西洋風に言い換えれば侯爵様ってところか。
また、討伐目標の情報も得られた。勇者一行は街への到着後に一度、その後もう一度、退治に向かったようだがいずれも返り討ちにあって引き揚げてきたらしい。死者は出なかったという話だが、その相手というのがなんと黒峡谷のものと同じ竜だった。番かどうかまではわからないが、少なくとも得られた情報の限りではよく似ていた。
情報を得た俺たちは侯爵様の城へと向かう。
無骨な外観の城――というよりは砦――に登っていく坂への入口は物々しい警備が敷かれていた。城に出入りする荷馬車は荷の中まで調べられている。そして兵士の中に見覚えのある鎧装束と顔を見つけた。相手もこちらに気が付く。
「そろそろ湧いてくる頃合いとは思っていた」
騎士団長だ。わざわざ一行の隊長様がこんなところで警備しているのか。
「どういう挨拶だよそれ」
「聖女様から捨てられたのは知っているのだろう? 虫がまた付かぬよう、見張っていたのだ」
こいつ、うちのパーティ解散に一枚噛んでるな。
「おい、あいつが聖女様に付きまとう不逞の輩だ。顔を覚えて絶対に通すな。町でも警戒しろ」
俺は拳を震わせながら城門をあとにした。
◇◇◇◇◇
「これは徹底的に三人と連絡を取れなくしている可能性が高いな。手紙もギルドを介した伝文も無かったし。何とかして三人の状況だけでも知りたいが」
食事をとりながらリーメと相談する。
「キリカが暴れればどうにでもなるのに」
「そんな無茶苦茶できるかよ。そうならないように今回の嘆願も受けたんだろ」
「なぜそんなに難しく考える」
「そんなに単純じゃないんだよ」
「単純だろ。好きか、そうでないか」
確かにお前はそうだよ――リーメのように自由にやれればどれだけ楽か。けれどその言葉は口に出せなかった。羨ましかったからだ。お前のように生きたかったよ。
「全部捨ててどこかで静かに暮らせばいいんだ」
返事はしなかった。
◇◇◇◇◇
リーメがともかく動こうというので、何をすればいいか問うと、――お前、鑑定しかできないだろぎゃぁ――とブチ切れられたわ。そうだな。鑑定するしかない。
俺たちは装備を整え、まずは討伐対象の竜の様子を調べに行った。返り討ちにあったんだ。計画に無理があるはずだと聞いて回ったら、なんと到着の翌々日には出発していた。計画もクソもねえ! どうせ中日も宴に興じてたんだろ!
地形を鑑定しつつ、峡谷を進む。竜の情報自体は前回かなり詳しく調べたので、地形の方が重要だろう。谷は深く、とても進めるような道ではなかった。前回は谷はほとんどが暗渠だったくらいには水が無く、谷自体も浅く視界も開けていた。
こちらの峡谷は足場の悪い崖を進む形だったため、とてもここを進んだとは思えなかった。早々に引き返したが、戻りの道中は足跡の鑑定に集中した。すると途中で小さな水路に沿って進む足跡を発見した。足跡は人工的な階段状の道に向かっていて、洞窟へと続いていた。
洞窟の入口には、はっきり残った大勢の人間の足跡があった。足跡には女性の足跡も鑑定された。洞窟の中はさらに上へと進み、尾根の上に突き出た形の祠に行きついた。
「これは……」
尾根の上は焼き尽くされた木々しかなく、大きく開けていた。
「リーメ、インビジれる?」
「れる」
《透明化》の魔法で透明化する。互いの位置が見えなくなるのが欠点だが、《隠蔽》と違って別行動も可能だし何もない開けた場所では隠蔽の効果は薄い。離れないよう、手を繋いで先に進む。
炭になった木々の他、人骨や獣の骨が転がっていた。右手に谷を望むルートを進むと、足跡は切り立った崖の足元に突き出た岩場を進んでいっているようだった。その行く手には、木々の間から突き出た巨大な岩の足場が見え、その上で竜が休んでいるのが見えた。さながら谷を見下ろす玉座のような位置取りにその岩はあった。
「あの竜、なんか小さくない?」
「小さい……たぶん」
「似てるけど番じゃないな。子供かな。あれにあの三人が負けると思う?」
「ない……たぶん」
鑑定した限り、致命的な傷を受けている様子はない。何より、まず攻めたであろうはずの翼へのダメージが全くない。なんで? ルシャなら余裕だろうに。たとえ尾根が開けていて空襲されようと、落とすのは簡単ではなくとも、リーメの補助なしでできないことはないはずだ。
◇◇◇◇◇
一旦、町へと引き換えしてきた俺たちだが、宿の主人が泊められないと言い始めた。理由は聞くまでもないが、一応聞いてやると侯爵様のとこの兵士からのお達しだそうだ。
「はぁぁあ、やってくれるわほんと」
「むかつく」
「野営の装備一式と食料はあるが、いつまでもベッド無しはつらいなあ」
「あいつ、町の入口に吊るしてやりたい」
などと酒場で飯を食いながら愚痴っていると、そのあいつがやってきた。
「おやおやおや、これは誰かと思ったら、聖女様に付きまとう不逞の輩ではないか!」
俺たちのテーブルに真っすぐ向かってきた騎士団長様は仰々しく宣った。さらには、俺がどのような嫌がらせを聖女様にしてきたか、さらには勝手に婚約者を名乗っていることなど、配下の騎士と共に酒場の客を煽るように捲し立てた。
酒場の客も暴言を投げかけ始める。俺が立ちあがると騎士団長が目の前に立ち塞がる。そして俺だけに聞こえるくらいの声で話しかけてくる。
「逃げるかね?」
「煽っても無駄だ」
「そうかそうか、煽っても無駄か」
「アリアたちに会わせろ」
「あってくれるだろうかね。勇者殿は魅了の魔眼をお持ちなのだぞ」
俺の心臓が跳ねた。息が苦しくなる。居ても立ってもいられなくなり、逃げるようにテーブルを後にする。酒場の外まで追ってきた騎士団長は、孤児院へ逃げ帰ってろ――と。俺は嗚咽を漏らしそうな声でなんとか言葉を紡ぐ。
「この国の精鋭がこんなだと国もそう長くないな」
負け惜しみのような言葉を吐き、逃げるように歩いていると、リーメが冷たい瞳のまま横に並んできて言う。
吊るそう――と。
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