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かみさまなんてことを  作者: あんぜ
第一部
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第4話 いつまで待たせるんにゃ

 祐樹の異世界冒険譚、終了のお知らせ。短い冒険者人生だったなあ。や、まだ町からも出ていない。なんなら冒険者としてギルドとやらに登録さえされてない。首筋へ突き付けられたナイフにそんなことなど思いながら、眉目りりしい赤髪の女の子の顔が目の前、吐息のかかる距離にあることに、最後にいい思い出ができたななんて考えていた。



 ◇◇◇◇◇



 俺は大賢者様の元で2週間ほど学んだ。新しい文字に接するのは思ったより楽しく、いくらでも吸収できた。飯もうまく、召喚者の知識を取り入れた料理なんかも楽しめた。やがて別れの時、大賢者様は俺の学びの成果である羊皮紙の束を鍵のかかる装丁の一冊の本にして渡してくれた。これだけ優秀な生徒は初めてと言われたが、この二人の元で学んで優秀じゃないはずが無いと応えると、二人とも優しい笑顔を向けてくれた。これが今日の昼過ぎの話。



 初めて屋敷の外に出る。城の一角のようだが、都市そのものも城塞都市らしい。貴族の屋敷のある区画と平民の暮らす街とを隔てる門に辿り着くまでは、きょろきょろと辺りを見渡しながら案内人の後を遅れないよう歩いて行った。門のところで案内人と別れると、詰めている兵士が道を教えてくれる。俺は礼を言って歩き始めるのだが、後ろで兵士たちがほくそ笑んでることには気が付かなかった。



 ◇◇◇◇◇



 どこに住むかはまだわからない。とりあえずは宿を探して歩く。通りはお世辞にも綺麗とは言えないが、大賢者様の屋敷のようにはいかないだろう。やがて宿屋街らしき広場にやってくる。冒険者ギルドとやらも宿屋街にあると聞いている。広場の中央には彫像が立ち、背後には神殿のようにも見える石造りの建造物がそびえる。


 しかしなあ、この彫像。大賢者様のところで聞いた話からすると地母神様の彫像のようなのだが、ビジュアルがなあ……。広場のど真ん中に堂々と立っているから今更誰も気にしないのだろうけど、胸焼けするようなえぐさだ。この奇乳、いったい何個付いてるんだ……。



 宿のひとつを覗いて入る。木造で一階は小さな酒場か食堂のようになっているが、今は飲んだくれが居るだけのようだ。カウンターの男に声をかけ、いちばん安い部屋を頼む。身支度と当分の間、生活できるだけの金は貰っているが、思ったより高い。いや高いよ。早いとこ稼ぐ手段を見つけないと公務員行きだ。もっと安い部屋は無いのかと聞くと、部屋で少し待ってろと言い、男は下男をよびつけ案内させる。


 案内された奥まったところにある部屋は香料の匂いが満ちてるが……なんかこう……臭う。床は染みだらけ。ベッドは広めかもしれないが部屋自体が狭い。慣れない街ということもあったし、本来コミュ障気味でもある俺はずっと気のせいかと考えていたが、男の言葉やこの部屋の雰囲気から察してしまった。やべ、これ娼館だわ。


 俺は何も考えず、早いとこココから立ち去ればよかったのに……やってしまった。床の染みに付随する文字。『血痕』。閉じられて施錠された窓にはご丁寧に格子まではめこまれている。ただの娼館じゃない。いや、妙に奥まった一階の部屋に案内されたんだ。まともな目的の部屋じゃないかもしれない。


 待て待て、今のところただの客だ。まだ慌てるような状況じゃない……。アワアワやってると、いつの間に人が入ってきていたのだろう。いきなり背後から突き飛ばされ、つんのめってベッドに倒れ込む。首筋に冷たいものを当てられ、『動くなよ』と女の声がする。彼女は跨ったまま俺を仰向けにし、力任せにシャツの前を開く! 俺のな!


 ヤダ、強引! なんて馬鹿を言ってる暇も無く、肩を露わにさせられた俺を、彼女はナイフを構えたまま抱いて、シーツを巻き込みながら上下を入れ替える。ナイフが刺さっちゃうんじゃないかという心配も無用なほど、安心感のある体術でした。ありがとうございました。ここで冒頭のような状況。


 最後に最高にいい思い出ができた。せめてお名前だけでもと頭の上に視線をやると長い名前が。


「抱いてるフリをして。……あ! 動くな!」


 広がってしまった赤い髪を撫でつけ、こっちは体を起こして陰になるように隠す。もちろん扉からね。案の定、背後で扉が押し開けられ、男に声を掛けられる。高い金払ってるんだ、邪魔するな――とねめつけたいところだが、コミュ障が発揮されてセリフが極まらない。残念男の恨みがましい視線にたじろいだ男――あ、なんか名前出てるな――は扉を閉めて廊下を左に歩いて行った。


 左に……んんっ? 名前が移動していってる……。これなんかゲームで見たことあるわ。スポットされたまま? ずるくない? なんて対人ゲームだったら言ってただろう。


「逃げたいんでしょ? 手を貸すよ」


 別に刺されてもいいやって思ってたら意外とリラックスできた。彼女はシーツを切り裂くと頭に巻いた。白いシーツに隠される鮮やかな赤い髪は絵になるななどと見惚れていたら、逃げたいのかと逆に問われる。


「ま、逃げたくもあるね」


 いろいろと――思いながら扉を開ける。そうして今度は鑑定の言葉を繰り返しながら廊下を覗き見る。暗闇で一瞬見えた影に名前が付く――だけでなく、聞こえた声の出どころだろうか。壁の向こうにも名前の『タグ』が浮かぶ。タグは廊下を移動し、一部は裏口を通ったのだろうか、この部屋のすぐ外の方にも向かう。タグの移動のタイミングを見計らって廊下に出て、表口に向かう。カウンターの男と飲んだくれしか居ないことを確認すると、彼女を物陰に隠し、男に声をかける。


「なぁ! い、いつまで待たせるんにゃ……」


 ダメだ! 人を騙すような演技は全然ダメだ! そしてなぜかブッと吹き出すような声が聞こえた。いやあんた隠れてるんでしょ。わろてる場合か!?


「あ、あとですね、床の染みが顔に見えて怖いんですけどあの部屋」


 再び残念な男を見る視線にさらされる。そのままキモ男のフリをしつつ。いや実際キモ男そのものなのかもしれないが、もっといい部屋にしてくれと多めの金を手渡し、怯えながら男の手を引いて案内を頼む。



 ◇◇◇◇◇



 案内された二階の部屋はずっと広くて暖かく、大賢者様宅のベッドとはまた別のいい香りに満ちていた。中には菫色の髪の品のある女性が居た。男が耳打ちすると彼女は微笑みながら頷き、俺を手招きする。シーアさんにも通じる雰囲気の女性。貴族だろうかと名を見るがそれほど長くはない。開いたスクリーンには『聖秘術に長けた者』と記されていた。


 そうそう。()()は無事逃げられたようだ。階下を動き回るタグは建物周辺をうろつくだけで彼女を追うような素振りは見せていない。


「あら、他の女のことでも考えてるのかしら?」


「え……」


 なんでわかるの? えっ、こわ。魔女こわっ。


「図星だったの? ふふっ。アイリスよ。よろしくね」


 手を差し伸べた彼女の言葉に少し()()してしまう。


「ほら、こっちへ。服を脱いで。体を拭いてあげましょう」


「ふ、服はいいですよ。ちょっとお話したいのでそっちでもいいですか?」


 そっちってどっちだよ。いやあっちの方は処女厨なので遠慮したいですとか言えない。


「あら、綺麗な手をしているのね。汚れてもいないし。お話ってことは男娼希望?」


「えぇ……」


 アイリスと名乗った彼女にこの店のことを教えてもらう。男娼の件はちゃんと否定して。で、話を聞いていくとやはり魔女の話も出てくる。というか魔女は娼館の主体になっているらしく、地母神の神殿から派遣されて店と契約している魔女が多いそうだ。人気のある魔女は高給取りになるらしい。他にも宿屋街や冒険者ギルドの場所なんかも教わった。


「本当にいいの? 時間はもうあまりないけど、祝福を与えられる自信はあるわよ?」


 砂時計を見ながらいう彼女。なんの自信なんだ、そしてどうやったら祝福を授かってしまうのか分かってしまう己が憎い。なんなら2,3回くらい余裕で授かっちゃうくらいのちょろさが憎い。それくらい彼女は魅力的だった。あれ俺、惚れっぽすぎない? この世界、美人ばかりなのが悪いと思うんだ、うん。


 また遭いに来て――後ろ髪を引かれる思いで彼女の言葉を振り切る。いえたぶん二度目はありません。だっていいお買い物でしたもの。それこそここで高給取りにならなければ無理ですしませんけど。


お金とかの世界設定はわりと大雑把で、あとで固めてることが多いです


【ご注意】作者が自分で読みたいので書いてます。なので、感想欄に設定予想・展開予想を書く場合は必ず作者が読み飛ばせるよう、閲覧注意の文字を書くように何卒お願いいたしします。

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