第23話 美しいドレスまとって
「うう……」
体のあちこちが痛い。死ぬほどじゃないけれど。そして暗くて寒い部屋。冷たい石畳の上に座らされていた。腕は鎖付きの鉄の枷を嵌められ、吊り上げられていた。口には猿轡をかまされていて気持ち悪い。吐きそう。いっそのことひと思いに殺してくれ。あ、できれば赤髪の女の子に。
目を閉じていると、扉の方で何かガチャガチャを音がしているのに気が付く。なんだろうと思っていると外で声がする。アリア? キリカ? 扉が開くと、キリカが入ってくるものの、うそー――と悲鳴を上げる。ああ、すみませんねパンイチで。彼女は猿轡を外してくる。
「やっと錠前開けたのに……。もうこれは仕方がないわよね? 仕方がないからね? ユーキ、私に祝福をちょうだい」
いうが早いか脱ぎ始めるキリカ。いやいやいや。
「ちょ、ちょっと待て。アリアが話したのか? なんでここにいる? 俺に幻滅しただろ? 最低な野郎だって」
「なぁに言ってんのよ。救ってくれたんでしょ? ルシャだけじゃない、みんな救われたわ。――あら、元気じゃない」
キリカが跨ってくる。いやこれおかしくない? 俺、拘束されてるんですけど。
「や、やめろって! 馬鹿な事考えるな。キズモノにしたくない!」
「そうね。だから早く祝福をちょうだい? そのまま始めちゃうわよ。私は別にいいけど、祝福があれば守れるんでしょ? あなたの守りたいものが」
「いやそれはおかしい。あれは神様の屁理屈だ。曲解だ。あんなの俺は望んでない」
「でも、やりたいのは間違いないのよね?」
確かにその通りだ。幼馴染のときも、アリアのときも、今だって。欲求があるからこそ反発している。自分では矛盾しているのか矛盾していないのかもわからない。
「……じゃあ今はアリアを助けるためにお願い。貴族の私兵が大勢来てるの。彼女だけじゃ突破できない」
そういうのはズルいだろ……。俺は神様に悪態をついた。
「いや、俺は抱きたいからキリカを抱く。そして祝福を受けて欲しい。アリアと生き残ってほしい」
「んフッ、その方が嬉しいわ。生き残るのはあなたもよ」
◇◇◇◇◇
祝福が再び訪れるとやはりあの真っ白い空間にいた。傍らには生まれたままのキリカデール。
「話は聞いてるわ! 早く祝福をお願いします! 急いでるのです!」
すっと消えていくキリカデール。
『やれやれ、またずいぶんとせっかちな子をかどわかしたね、キミ』
人聞きの悪い……しかしあながち間違ってもいないため何も反論できない。孤児院育ちの純真な子たちをかどわかしてる自覚はある。だってみんなガリガリだったんだもん。あれ、でもキリカはなんか知識ある感じだったよなあ。
『そりゃあ豊穣の神だもの。ボクだってちゃんと教育してるよ』
うわぁボクっ娘きたー。なぜここでー。そして教育ってどこでどうやって。
『ああ! でも今回はあの恥ずかしい説明をしなくて良かったよー。イイねえ、実にイイ』
痛ぅー。しかしまた非処女を世に解き放ってしまった。幼馴染に将来を誓ったはずなのに、クズ男に成り下がりつつある。
『彼女たちは未だ処女だよ。そうキミにも教えたじゃないか』
ヤっといて処女はないだろ。無茶苦茶だよ。
『それに地母神としてはキミが全員娶ればいいと思うね。産めよ増やせよだよ』
そんな無責任なことできるかよ。
『大事な妻たちの仲を取り持つ責任ある立場だよ。ハーレムじゃみんなそうやってる。男が減りやすいんだ、ボクとしては願ったり叶ったりだ』
理解できねえ……。
『じゃあ彼女らが愛する人を見つけたとき、キミの記憶も消そうか』
そんなこと、申し訳なくてできねえよ。
『ハァ……キミは独占欲が強すぎる。つまりはイイ雄なんだから素直になりなよ、キモいよ』
◇◇◇◇◇
目が覚めると腕の枷は外れていた。鏡のような切断面で一直線に分かれていた。そして視線をあげると見下ろしていたアリアと目が合った。
「ぁ……」
何か言いかけるも、彼女は顔を逸らし、クロークを放ってよこして出ていく。こちらも声がかけられない。気まずい。キリカの脱ぎ散らかした服を拾い集め、牢を出る。
先頭には下着姿にしか見えないキリカ。両手には輝く長剣。男の集団を下がらせていく。その後をアリアと女の子が二人ついていっている。俺はその後ろをクロークにパンイチのままついていく。情けなさで泣きそう。
突然、背後から組み付かれ、ナイフを突きつけられる。部屋がいっぱいあるもんなあ。さすがに姿も音もない不意打ちは俺には無理だ。
「動くな! この男の命が惜しければ……」
キリカが一瞬、舞ったような気がした。ごろんと俺の足元に何かが落ちた。
「「ギャー!」」
血しぶきが上がり俺と後ろの男は悲鳴を上げた。俺に組み付いていた腕は床に転がっていた。キリカと俺の間に居た三人は、――えっ?――と振り向いていた。アリアは駆け寄ってくる。俺――じゃなくて男に。くやしい。
「動くな。動くとすぐ取れるぞ」
アリアは男を蹴倒し、膝でのしかかって男の両腕を拾って元の場所にくっつけていた。
「次は無いと思え」
◇◇◇◇◇
俺たちはギルドに戻ってきた。既に日は落ちていたがまだ十人以上の冒険者が残っていた。職員も出てくるが、その中に見知った顔があった。
シーアさんは深い青色の外套を纏って、大きな帽子を手にしていた。彼女は俺の酷い有様をみて顔をしかめると、何かの魔法を続けざまに使う。
ひとつ目の魔法で体の返り血は綺麗に消え、ふたつ目の魔法で俺は美しいドレスに身を包んだ! あらステキ! じゃないよ! 俺かよ!
「すみません、見るに堪えなくて。女物しかないので……」
「あら、素敵じゃない」
キリカの言葉に周りの連中はどっと笑った。いや、笑い事じゃないんですけど。まあでもアリアが笑顔を見せているからいいや。
「それにユーキは女顔だから大丈夫よ。肌だって綺麗だわ」
「やめろ……」
俺たちは仕方なくそのままで椅子に座り、軽く食事をとりながらシーアさんやギルドの人たちにあったことを話す。もちろんキリカとの情事は伏せておくが、察しのいいシーアさんには冷たい目を向けられている気がした。
貴族による平民への横暴は珍しくないが、相手が召喚者であったことは大きいかもしれないと言われる。とはいえ、闇に葬られれば手の施しようがないから、今回はアリアたちに助けられた。
また、助けた二人の少女は親に売られたそうだ。少なくとも王都では人身売買は認められておらず、娼館といえど人を買うようなことはしないらしい。何より地母神神殿の力が強いため、外聞はともかく、娼婦はひとつの仕事と受け入れられているそうだ。つまりあそこは完全な黒。自称アイリスさんをはじめ、神殿の魔女たちも引き上げることだろう。
さらにこちらには聖騎士と剣聖の証言がある。実はこれはかなり大きく、社会的な信用が段違いだそうだ。この世界の偏見に助けられたことになる。アリアとキリカはギルドカードの更新を勧められ、無事に聖騎士と剣聖となった。ついでに俺のギルドカードも再発行してもらう。
マジカル衣装チェンジ!
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