第19話 祝福
俺は最悪だ。最悪の人間だ。
こんな手段を持っている以上、彼女たちと関わる以上、いずれは訪れた選択なのかもしれない。最初から逃げていればよかった。ああ、最初のとき、あのときアリアが俺の首を掻き切ってくれていれば――どんなに幸せに終われただろう。
絶望の内に俺は彼女に助けるための条件を提示した。悪魔の契約だ。とても魔女らしいじゃないか。何もかも壊してしまう。俺は何も守れない。
キッと睨みつける彼女。その瞳に映るのは失望なのか、諦めなのか。信じていたのに……そう語りかけるような瞳。彼女の体と引き換えに、望みを叶えてやる悪魔。こんな顔は見たくなかった。
屈辱に耐えるかのよう両の拳をぎゅっと握りしめ顔を隠す彼女。悲しくて悲しくて、ごめんとしか言えなかった。
◇◇◇◇◇
祝福が訪れたとき、俺たちは真っ白い空間にいた。魂だけと言っていたあの時の。
アリアは何も身に纏っていなかった。
俺は胸に大きな穴が開いたままだったが、心臓がついていた。
アリアは何か言っているが聞こえない。
やがてあの白い人影が現れた。朦朧としていたのは変わらないが、二度目でもあるためか、俺が立っているためか、それがよく見えた。ドレープの付いた衣装を身にまとっていたと思ったが、そうではなかった。これはあれだ。地母神様そのものだ。豊穣の象徴なのだなと思った。
『キミは何も言えないのはあいかわらずだね。しかも今回は聞くミミも持たない』
こちらを向いて語りかけるが、すぐにアリアに向く。つれないなあ。
『其方はいま、地母神の祝福『愛されし掌』をこの鍵の者を通して受けた』
なんだ、普通に喋れるじゃないか。体面があるんだろうか……。アリアは何か言う。
『そうだ』
またアリアは何か言う。
『そうだ。そしてこの鍵の者、達ての願いは其方たちの処女性を守ることだ。だから其方はこの鍵の者の祝福を受けてもいまだ処女のままにした』
おいおい……。
またアリアは何か言う。
『其方が愛する者を見つけ体を許すとき、『愛されし掌』は役目を終えて眠りにつく。その時にはこの鍵との経験の記憶も失われる。安心なさい』
かみさまなんてことを……。
またアリアは何か言う。
『それは我らの知るところではない』
アリアは何か言いかけたようだが、促されると去っていった。
『やっぱキモいよキミ』
うるせえよ……。
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