第17話 ひだまり
俺はアリアとともにギルドで手続きを終え、彼女の正式なパーティメンバーになった。ギルドカードにもその旨が表示される。
「《陽光の泉》……」
「ちょ、声に出さないでよ!」
「え、いいじゃない。アリアに似合ってて」
「……そ、そう? なんかひだまりっぽいのがいいかなって」
「《陽光の泉》ね。了解」
パーティ名を付けたはいいが、後になって恥ずかしくなったんだろうか。中二病とかポエムとかの黒歴史的なあれだろうか。なんなら俺は処女厨だから恥じることはない。お前が恥じろって? その通りだ。
ギルドカードは個人と何らかの方法で繋がってる。霊的に――とか、以前の世界ならオカルトだと一笑に付したかもしれないが、この世界では間違いなく何かが繋がっていて、記録が刻まれている。以前、ギルドカードを発行してもらったときは自身の鑑定結果にギルド所属と刻まれた。ギルド名からはさらに預入額まで調べることができ、履歴まで残っていた。つまり通帳だ。
今回はどうだろう。鑑定結果にはパーティ名 《陽光の泉》が記される。さらにパーティメンバーの一覧がわかる。名前からはメンバーの状態も表示される。残りの三人は孤児院に居るのにもかかわらず――だ。
◇◇◇◇◇
さて、正式にメンバーになったからと言って何が変わるわけでもなかったりする。ただ、パーティであることはギルドで知ることができ、共有財産を持てたり、法的にも小さな家族のように振舞えるらしい。つまり、アリアの彼氏ヅラするみたいなことも対外的にはできるのだ。もちろん、――ハァ? 彼氏ヅラしてんじゃないわよ――なんて言われたら再起不能に陥るのでやんない。
そんな俺が《陽光の泉》のメンバーになった翌々日の朝、いつものようにアリアと共にギルドに顔を出すと、あのイケメンが居た。なんだっけほら――鑑定――ノエルグってやつ。
俺は別に用はないのでスルーを決め込んでると、奴の方から近づいてきた。
「アリア! お前、オレという婚約者が居ながらこれはどういうことだ」
まーだ言ってるよ。この間、言い負かされてたの覚えてないのかこいつ。
「ち、ちがっ……この男が勝手に言ってるだけよ!」
うんうん、知ってるよ。だからそんな浮気現場見られた恋人みたいな動揺を見せないで。ちょっと勘違いして何かに目覚めそうになるから。なんか裏が分かってると落ち着くなあ。――余裕の笑みをアリアに向けて肩に手をかける。
「らしくないよ。落ち着いて」
アリアは目を丸くする。アリアはかわいいな――。
「おいっ!」
突然肩を押される。あ、こいつも居たんだった。れいによって他のギルド員や受付嬢は知らん顔している。ただね、別にいつ死のうが平気だってわかってると、こういうのってコケ脅しにしか見えないよね。ベッドのアリアの方が緊迫感があったよ。
「アリアはさ、顔よりも腕っぷしが強い男が好みらしいよ」
「「は?」」
アリアも男も声をあげる。やだなあ、ハモらないでよ妬いちゃうでしょ。俺は男の頭の上のスクリーンをチラ見しながら続ける。
「そんなにボクが邪魔? いいよ、勝負しよう。負けたらパーティを抜けて街を出る」
「ダメよ!」
「大丈夫。アリアを賭けの対象になんてしないから。それとこれとは別」
俺もこっちにきて多少は筋肉はついた。だが、勉強しかしていない帰宅部の高校生なんて、少々筋肉がついたところでその辺の酒場の給仕の女の子とそう変わらない。
対してノエルグは背も高く体格もいい。鎧を常に身に着けているだけあって筋肉もすごいだろう。首筋の筋肉を見るだけでわかる。
「――で、キミもいいよね、ノエルグくん。腕相撲でいいよね? 腕っぷしの勝負だから」
アリアはそれに気づいて、一瞬、こちらの表情を確認する。
「わかった、いい」
「よおし、その勝負受けてやろう。手間が省ける」
「ただし勝ってもアリアは普通に口説けよ。婚約者とか嘘をつくのはナシ。負けたら街を出る。条件は同じ。男の約束だ」
周りの冒険者連中も騒ぎ立てこそしないものの、突然の展開に興味を持ち始めた。まあ、連中にも関係のある話だしな。俺たちはテーブルに移る。
――召喚者。彼らはわざわざ神の力を使って他の世界から招かれる。なぜならそれだけ強力な力を持っていて能力も高いからだ。元の世界の日本では平和な国のただの一般人。いいとこスポーツをしているくらいで軍事訓練や格闘技を習得している確率は低いだろう。それでも召喚され重用されるくらいには強い。
俺の場合、魔女や賢者のタレントはさておき、大賢者様に低い能力だと伝えられていた。ただ、俺の鑑定は大賢者様よりも高い。つまり――。
「ぬぁおおぉぉぉ!!!」
男は目の前で伏せられつつある腕を目を血走らせて睨み、顔を真っ赤にして叫んでいた。まあ、結果はわかってたんだけどね。戦闘でのアリアを見ていると、祝福の力で能力値が跳ね上がることもあるとは言え、単純な力勝負でならスクリーンを見る限り、この男に負けることは無い。
「街から出ていけ!」
アリアはノエルグに告げる。ノエルグは歯を食いしばって俺を睨みつけてきたものの、周りの冒険者の視線もあったためかギルドを去っていった。
「ハァー! 見たかあの顔!」
「せいせいするぜ!」
「偉そうにしやがって、貴族野郎が」
「やったなアンタ!」
「いい女にはいい男が付くもんだな!」
封を切ったように大騒ぎを始める冒険者連中に囲まれはたかれる。対峙していた敵が居なくなって、急に知らない顔に好意を向けられた俺は――あっ、どもっす。いえ、アリアさんとはその、違うっす、フツメンっす――しどろもどろになってしまう。
なんだ、いいやつらじゃないか――もみくちゃにされるなか、アリアの笑顔が目に入った瞬間、そう思った。
◇◇◇◇◇
ギルドでの騒動のあと、貴族(代理)のノエルグの姿は見かけなくなった。本当に街を出て行ってくれてれば話は早いのだが、あの後、彼のタグは街の外門とは反対方向――城や貴族の住まう門の方――に向かっていたはずだ。
念のためアリアにも伝えておくと、彼のバックにいる貴族の屋敷に向かったのだろうという。ノエルグについては同家の養子か何かかと思っていたそうだ。それよりもアリアにはノエルグたちに接触していたことを問い詰められた。そりゃあもう怒ってたし、泣き笑いもしてた。
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