第16話 おめでとー
大賢者様からの手紙が届いた翌日の朝、俺は寝不足で憔悴していた。
――色々なことがわかった。少なくともアリアの置かれた状況はなんとかしないといけない――などと夜中まで思い悩んでいたら、お呪いを頂いた隣人が遅い時間にハッスルしていたのだ!
こいつら最近ちょっと静かだななんて思っていたら、遅い時間にヤってやがったわ。呪いかけた本人なうえ、気を使ってもらってるのでさすがに壁ドンはできなかった。できたことないけどな!
「おはよう! どうしたの?」
元気なさそう――俺と違って朝から楽しそうなアリアは聞いてくる。
「デイラとマシュが……」
「誰?」
「あ、いや、隣人が煩くて眠れなかった」
「いつごろ? 寝ちゃってわからなかったかな」
そう答えつつ、食事をとっていた彼女はなんだかそわそわとして落ち着かない様子。
「んっんー。実は後で重大な発表があります!」
「ん? どしたの、改まって」
「孤児院に行ってからのお楽しみ!」
楽しみで仕方がないらしい。
俺たちはいつものようにギルドに寄って掲示板を眺めた後、孤児院へと向かった。
◇◇◇◇◇
「「「ユーキ、パーティ正式加入おめでとー!」」」「とー……」
孤児院の入り口の前でちょっと待ってろと言われ、手招きされてやってきたら花吹雪で迎えられた。いつもの皆のほか、下の子たちも揃っていてお祝いの言葉をかけてくれる。あとそこの三角帽子! 雑に祝うのやめろ!
――突然のことに狼狽えてしまい、まともに返事もできない俺。
「もしかして嫌だった?」
アリアが問うと、下の子たちが心配そうな顔をする。
「やや、そじゃなくて、びっくりしたっていうか、そ、その、いいのかなって」
「また中身が変わってる……」
アリアの言葉にみんな大笑いする。こいつこの間の話をネタにしてバラしたな……。
「キリカは賛成だったから、ルシャもそろそろ慣れたかなって昨日、相談したの。それでオッケー貰った」
ルシャはいくらか俯いたまま、こちらに向かって両手の人差し指と親指で〇を作った。なにこのかわいいいきもの! 誰だよこんな仕草教えたの! 召喚者か! 召喚者が広めたのか! よくやった!
「リメメルンさんは」
「あー……」
「……別にいい。あとリーメ」
「ありがとリーメ」
礼を述べるとなぜかふんぞり返る三角帽子。
「じゃ、ユーキも喜んでくれたことだし、お祝いにご馳走作りましょ!」
「またかよー。ま、いいけどさ」
アリアは事あるごとに理由をつけて宴を開く。少し小遣い稼ぎができたとか、初めて何かしたとか、あるいはちょっといいことがあったとか。自腹で孤児院のみんなにご馳走をふるまっている。
「ユーキも手伝ってくれる? その方がルシャも食べるし」
アリアに厨房に引っ張って行かれる。ちょっと気になったので小声で聞く。
「ルシャはこっちではまだあまり食べないの?」
「昔から下の子たちに自分の分をあげちゃって、あまり食べなかったの。きっと優しすぎるんだ。下の子たちが十分食べられないのを見ていられないんだと思う」
「……聖女様……か」
「聖女様? うん、そうね。聖女様みたいに慕われてる」
聖女だったらこの苦境もなんとかできるだろう。だがそんな奇跡に頼る必要はない。なぜなら俺たちのパーティは順調だ。いまなら食事に困ることは少ないし、いずれ俺が居なくなったとしてもこの四人なら十分な稼ぎを得られるだろうから。
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