第13話 砂時計
目が覚めるとアリアはもちろん居なかったが、気分はずいぶんと良くなった。食堂で彼女と合流すると、午後はシーツ買いに行きましょ! ――と早速提案される。アリアさん朝からこんな場所で大胆!
ギルドに立ち寄ってから孤児院に行き、三人と合流してから昨日のゴブリンの巣穴へと向かう。鑑定によると入り口付近のゴブリンの足跡は増えていないが、動物の足跡を見つける。足跡を追跡すると、入り口傍の脇道の奥でアナグマを見つけ仕留める。うまいのかこれ? ……うまいっぽいな。
念のため注意しながら洞窟を回るも、ゴブリンの影は無く、討伐完了となりギルドへ報告する。アナグマは持ち帰り、孤児院で振舞った。賢者様が。
「賢者様すごーい」
と、下の子たちの声に混ざっておれも言う。いや、自慢じゃなくてタレントがすごいのよ。俺は大したことなくてな。そんな話をすると皆、意外な顔をして笑う。
ついでに大きい人たちには座っていてもらってお茶なんかも淹れてまわるとアリアが言う。
「この前もそうだったけどユーキはお茶入れるの上手だよね。いつもギルドで淹れてるお茶って苦くて」
それきっと話し込んでて忘れてるんじゃないの……。そして他の人も納得してるが、なぁに、賢者様に淹れてもらってるのさ。俺は大したことなくてな! そういう話をするとまた笑われる。
◇◇◇◇◇
ティータイムを終えると一度ギルドに寄ってから買い物に出る。アリアも見張りとして付いてくる。えぇ、シーツ結構高いじゃん。ひと財産になっちゃう――などと貧乏性を発揮していたら、安い布を見つけたのでそれにしようとすると、そっちは質の悪い綿だから絶対やめろと言われ、綿がいいならこっちと結構お高い品を指さす彼女。結局、普通のリネンのシーツを2枚買って帰った。世話焼きだよなあ。
◇◇◇◇◇
さて、他にも先日の閉じられる照明を買いに行ったり、欲しいものは無いが珍しいものばかりなのでアリアに教わりながら売り物を眺めたりしてあちこち立ち寄った。その後は特に予定もないので茶菓子を買って再びギルドへ。
「はいこれあげる」
お茶を買ってテーブルに戻った俺は、お茶のセットの横に紐で縛った端切れの包みを置く。
「あたしに?」
頷く俺に、アリアは首をかしげながら包みを解くと、中からは小さな砂時計。
「お湯を注いで――はい、ひっくり返して。――ここのお茶の葉にちょうどいい時間のを見かけたから。付き合ってくれたお礼」
「……ありがと」
突然のプレゼントを貰って反応に困る彼女を眺めるのは楽しい。いや、このちょうどいい砂時計を見つけた時からこの時を期待してにやにやが止まらなかった。
「ずっと変な顔してると思った」
そういうが、彼女もにやにやが止まらなく嬉しそうだ。砂時計が落ち切るのを今かと待ち構え、砂が落ち切ると彼女は保温用のカバーを跳ね上げ、ポットを手に取り、ふたつのカップに注いだ。
「うん、おいしい」
満足げに頷く彼女。俺も満足。
◇◇◇◇◇
さて、アリアとのんびり過ごす時間は楽しい。楽しいがひとつ気がかりなことがある。アリアとはギルドくらいしか立ち寄る場所がないのだが、彼女は不自然なほどに他の冒険者と距離がある。
彼女のあの距離感。あれが俺だけだとするなら嬉しい限りなのだが、それを考えても異常なくらい距離がある。市場や商店ではごく普通の距離感だったと思う。となると、避けてるのは他の冒険者だろうか。受付嬢も人によっては距離がある。受付の爺さん連中も不愛想だが、あれは他の冒険者でも変わらない。
冒険者同士が仲が悪いかというとそうでもない。連中は他のパーティでも普通に絡んでいくし、なんなら単独の冒険者にも声をかける。それが女相手だったら言わずもがな。なのにだ。なのに、この眉目りりしい彼女には誰も声をかけないどころか避けている。そして彼女と共にいる俺にも、睨みこそしないが値踏みするような目を向けてくる。
えっなに、これイジメ? 冒険者ってガキなの? ――しかし全員が行動を共にする閉鎖環境でもないのに、そこまで鬱憤が溜まるだろうか。
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