第12話 買いなよ
リメメルンの《火球》で焼き尽くされた後には生きているゴブリンは残っていなかった。10体近くの死骸が転がっており、幼体のゴブリンを仕留める苦痛を避けられただけマシだったかもしれない。部屋には未加工の宝石なんかも入った箱があり、ガラクタを除いて持ち帰ることにした。四人とも大喜びだ。俺はというと、もう早く帰りたい気分。
洞窟の残りも調べたため、ギルドへ報告する。明日、もう一度洞窟を調べて問題なければ討伐完了だ。宝石の品質はそこまで高くないが、小遣い稼ぎには十分すぎる金額になるそうだ。またゴブリンからは小さい魔石というものが取れた。こちらも街には必要なものなので買い取ってもらえるが、大型の怪物から取れる、より大きな魔石は極めて高額になるそうだ。
「今日もまた奢るから! ご馳走ね!」
アリアは離さんとばかりに俺の肩を掴む。
「いやぁ、今日はちょっと疲れたわ」
そう言うと珍しくアリアは引き下がってくれた。食材を買い込んで孤児院に運ぶと解放してくれたのだ。
◇◇◇◇◇
食事もとらずに部屋で横になっていると来客があった。ドアをノックされたので開けると孤児院から戻ったらしいアリアが居た。
「つらいんでしょ」
実のところそれまで横になっていたものの眠れていなかった。笑顔を作るのが精いっぱいだった。まあそんなかな――などとごまかすように答えると、彼女は押し入ってきた。
「何もないんだ」
「長居するとは思ってなくて」
「――シーツは買ってくるといいよ。洗濯してくれるとこあるし、買いなよ」
「そうだな」
「買いに行くよ。明日」
「明日かよ」
「お金ならあるでしょ。ここ、やっすいけどシーツは取り換えてくれないし」
「ありがとう」
「……」
彼女は居心地悪そうに眼を泳がす。
「ちょっと汚いけど、そこ寝なさい」
俺のベッドなんですけどね……。靴を脱いで寝転ぶ。高校に履いて行ってたローファーは既に部屋履きになっている。彼女は頭の傍に腰を下ろすと俺の頭を引き寄せ、撫でてくれた。添い寝でもしてくれるのかなとも思ったけれど、十分すぎるくらいありがたかった。座ってる女の子って下から見上げるとどうしてこんなにかわいいんだろうな。
「あたしのときは相手、人間だったの」
衝撃的だった。出自を考えると何かあったのだろうとは思ったが。
「死んだの?」
「そうだね」
「そんなの……つらいだろうな」
比べ物にならないほど……。
「いっぱい泣いちゃった」
「――でも母様がこうやって慰めてくれたの。一晩中。体面ばかり気にする人だったのに」
「院長さん?」
「わかるんだ、やっぱり」
「――聞かないの?」
「秘密にしてることなら無理に聞かない」
アリアはあの人を母とは紹介しなかった。
「そっか」
◇◇◇◇◇
とても長い間、無言が続いていた――
が、静寂をかき乱す、れいの隣人が帰ってきた。これは……。
「「また始まった……」」
アリアはおもむろに立ち上がると力任せに壁をはたく。隣の声は止まるが、今度は俺の部屋のドアが激しくノックされる。おい、兄ちゃん!――とか怒鳴る男の声がする。これ隣人に把握されてる気がする。
「あっ、おい! 待って」
アリアが出て行こうとしたので慌てて止めるも、制止を聞かずアリアはドアを開ける。
「なによ!」
外の男に怒鳴り返すアリア。
「えっ! あ! ……いやあ、お邪魔しました」
戻っていった隣人さんは、なぜかお二人で笑ってるようだが、静かにはしてくれた。これ絶対誤解されてるやつだわ……。
アリアは気にもしないで俺が寝付くまで慰めてくれた。
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