表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かみさまなんてことを  作者: あんぜ
第一部
11/92

第11話 リメメルン、ドヤァ

 朝の早い時間からアリアと宿を出る。並んで歩くと以前を思い出し、異世界とは思えない感覚に陥る。依頼は昨日のうちに受けたが、二人で掲示板を確認し、また並んで孤児院に向かう。



 途中の市場で買った果物を孤児院で降ろし、三人とも合流する。アリアは身内というわけでもないというのに結構な額をここに使っている。



 出発前にアリアは全員の装備を点検する。


 俺は中盾に鉈。鉈と言っても突き刺すこともできる少し振りの重い長包丁のような片刃の武器で、長柄を付けて使ってもいいらしい。アリアの左に立ち、広い場所では振り回し、狭い場所や防戦では突いて使うようにと教わった。



 アリアはというと、鎧下に部分的に革の防具を加え、金属製の篭手を着けていた。洞窟なので普段は被らない兜も被るそうだ。これに小盾を持ち、武器は先細りの切れ味のいい剣と手投げの短剣をいくつか腰に差している。



 キリカも若干剣が小ぶりなのと鎧が少ないくらいでほぼアリアと同じ装備。というより孤児院組三人ともほぼ同じ。キリカは弩を持っているが張りは手で引けるくらい軽く、どちらかというと素人でも狙いやすいから持っているようだ。



 ルシャは小ぶりな複合弓という弓を普段から持っている。弓を扱うためか金属製の篭手は着けておらず、胸当てをつけている。細いのに大きいように見えるから胸当ては要るよなあと思いながら眺めていたら、視線に気づかれて慌てて目を逸らす。気まずい……。



 リメメルンは魔術師だが杖みたいなものは持っていない。ああいうのは高いらしいし、別に無くても今のところ変わらないそうだ。大賢者様も持ってなかったしな。お話の魔法使いのように三角帽子を被ってるが、あれは顔を隠して独りの世界に入るためのものだろう絶対。



 鈍器とか他の武器は使わないのか聞いてみると、あれは戦争なんかで人を相手にする武器で、目的や祝福がないなら無理に使わないそうだ。何よりも三人に戦い方を教えるなら同じ得物の方が教えやすいという現実的な理由だった。えぇ、鈍器カッコいいのに……。



 ◇◇◇◇◇



 シュッと矢と太矢が同時に放たれる。矢は的の胸元を射抜き、太矢はもうひとつの的の腹に刺さる。中りと同時に飛び出した赤髪の少女は太矢で怯んだ敵の首を叩きつけるように薙ぎ下ろし、続けて洞窟の奥から顔をのぞかせてきた新たな敵の頭を跳ね上げた。彼女は奥の様子を確認したあと、矢を受けた敵にもとどめを入れる。


 ――ゴブリンと呼ばれる1mにも満たない小さな人型の生き物は三体とも絶命した。老人のような頭は大きく、キャップを被って襤褸をまとっている。木や骨や羽の飾り、ガラクタにしか見えないようなものを身に着けている。そして何より肌の色。ゲームのゴブリンが何故緑や茶色なのかよくわかったよ。少々浅黒いとはいえ、人とそう変わらない肌と赤い血を流す生き物を殺めるのは生々しすぎる。


 アリア以外の三人はすでに経験済みなのか、それとも感性が違うのかはわからないが、昨日のカエルとそう変わらない反応だった。俺としてはこれまででいちばんに異世界というものを突き付けられた瞬間だった。胃液が逆流しそうなのを口をへの字にして耐える。


 「……」


 アリアはこちらの様子に気づくと、キリカに声をかけてから無言で手を伸ばしてくる。俺の頭に手をやると、そのまま抱き寄せてしばらく動かないでいた。いてくれた。俺は震えを抑えきれない深呼吸をひとつつくと――大丈夫――と応えて離れた。



 ◇◇◇◇◇



 少し落ち着いてから自分ができることをやる。一にも二にも鑑定だ。倒れたゴブリンから情報が得られないかと鑑定すると、傍にある足跡から『ゴブリンの群れの足跡』と表示されたタグに気が付く。鑑定を進めると11体と表示される。そして2体の新しい足跡は外に向かっている。戻ってきていないとしたら最近出入りしたやつが6体は中に居る。


「まるで熟練の狩人みたいね。それで進む? 待つ?」


「隠れられるなら少し待ってみるのもいいかもしれない。死体は片付けよう」


 アリアにそう提案すると、離れた場所で身を隠す。


 なお、ルシャはあくまで弓士であって狩人ではないらしく、探索や追跡の能力はタレントにはないそうだ。ただ、弓の腕だけは間違いなく一級品だろう。先ほどもゴブリンを見事に一撃で仕留めていた。



 ◇◇◇◇◇



 外に出ていたゴブリンはすぐに戻ってきたため穴に入る前に排除する。ルシャはさすがで一体確実に仕留め、キリカの弩は当たりこそしなかったものの怯ませたゴブリンをアリアが速攻で薙ぎ倒していた。


 そのまま洞窟へと進む。鍾乳洞ではなく地下道といった感じだ。ゴブリンも穴を掘るらしいが多くはノッカーを始めとした穴掘り妖精がところかまわず掘り進めた跡らしい。妖精は鉄を嫌うが金銀や宝石を掘り当てて貯めこんでいることがあるので、運が良ければ良い稼ぎにもなるそうだ。


 灯りについては全員が複数持っている。街頭にも使われている《永続する光》という魔法のかかった石を油に漬けこんだなめし皮や角でくるんでアクセサリーのようにぶら下げている。そのままだと眩しすぎるらしい。アリアは遮蔽できるカバー付きの筒状のものを持ってる。おもしろいので俺も今度買おう。


 最初の遭遇はゴブリン一体だったが、さすがに灯りを持ってるため離れたところで騒がれ、逃げられてしまう。だが状況は悪くはない。鑑定の能力で壁の向こうまで逃げるゴブリンがわかる。皆に説明すると目を丸くしていたが、アリアは何か思い当たる節があったのかニヤリと返す。


 洞窟の奥ではゴブリンどもが大騒ぎを始める。


「10体だな。うち2体は幼体と書いてある。1体はリーダー。側面からは回ってきていないけど気を付けてて」


 長く射線が通りそうで二人並べる場所を選び、待ち伏せる。


「今っ」


 俺の掛け声とともにルシャとキリカが射撃し、すぐに二人と入れ替わる。盾を前面に押し出し、アリアと二人で並ぶ。俺は盾で相手の突進を遮り、必死で突き返す。隣のアリアはというと、外では舞うように振るっていた剣を、今度は突き出した左手の盾の縁を舐めるように滑らせている。盾で支えることで正確に相手の急所を突き、時には相手の武器を絡めて腕ごと飛ばしている。


 何度も鉈で突くことでようやく一体動かなくなる。鈍く、抵抗もある、気持ちの悪い感覚。そうしてる間にアリアは4体ほどを倒すと、ゴブリンどもは不利と見たか逃げ始める。ただ、散り散りではなく、リーダーも生きている。位置的に、最初に居た場所を目指すだろう。



 ◇◇◇◇◇



 倒れたゴブリンにとどめを刺しつつ奥を目指すと、短い通路の先、どん詰まりは開けているようだ。左右の陰にタグが並び、奥にもリーダーと幼体のタグがある。説明するとアリアが声をかける。


「リーメ、いける?」


「まかシて」


 なにすんの?――前を開けてやると、リメメルンさん、掌を突きだして魔法の詠唱を始める。初めてハッキリした詠唱を聞いたなあ、そういや呪文は翻訳されないよなあ――なんて思ってると、赤い矢? 細い槍? みたいなのが彼女の手から放たれ、着弾とともに奥の部屋を火球で包んだ!


「ふおぉぉぉ!」


 突然のことに変な声をあげてしまう。ナニコレCG? むわっと僅かに熱が伝わるも、爆風はなく炎もすぐに消えてしまう。


火球(ファイアーボール)……」


 後から言うんだ……。たぶんそこは呪文じゃないだろう、そして俺に向けるこのドヤ顔。ドヤ顔!


「魔術師すげえな……」


 普段、表情も変えない娘はひっくり返りそうなくらいふんぞり返っていた。


【ご注意】作者が自分で読みたいので書いてます。なので、感想欄に設定予想・展開予想を書く場合は必ず作者が読み飛ばせるよう、閲覧注意の文字を書くように何卒お願いいたしします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ