サンタクロースの真実
先に謝っておきます。すみません。
「みなさん、今日はクリスマスということもあって『サンタクロース』を描いてもらいます。」
エミリーは、サンタを信じていない。それなのに、イベントに影響されやすいであろうこの小学校教師は、サンタを描けといった。エミリーは溜息をひとつ、わざとついてみると、立ち上がって先生の元へと向かった。
「先生。私、サンタさんなんて見たことがないから描けません。」
先生はそれを聞くと、少し困った顔をした。そして、うーんと唸ると、こう続けた。
「Ms.エミリー。でも、毎年あなたはサンタクロースからプレゼントを貰うじゃない。それに、サンタパレードだってやっているわ。それを、一度も見たことがないと言うの?」
最後に、嘲笑された気がして腹が立った。プレゼントは確かに貰うけど、あれはきっとママかパパからのものよ。だって、サンタ本人は見たことがないわ。サンタパレードなんて、行くわけないじゃない。だって、サンタがあんなに大っぴらにみんなの前に現れるとは思えないもの。どの道、私はサンタなんて信じてないわ!!
エミリーは心のうち反駁しただけで、実際には何故かそう口にするのを躊躇い、ただ唇をかみしめた。
「友達に聞いてみたら?きっと、みんな知っているわよ。」
皮肉をこめて言われ、また苛立ちを覚えた。
先生の元をさり、クラスメイトにサンタのことについて事情聴取することにした。
「サンタはね、赤い服に赤い帽子をかぶってるよ!靴はきっと、ブーツだよ!」
「サンタ?白い髭がいっぱいの人だよ。あご髭がいっぱいで、もふもふしてるんだ。」
「赤い服着た、白いお髭のおじいさんだよ!」
「エミリーちゃん、そんなことも知らなかったの?」
みんなに、口を揃えてこう言われた。何よ、悪い?これも、心のうちの言葉。エミリーは、ムカムカしたままみんなの情報を元にして描いた。その周りからの評価は、知らなかったくせに、凄い!というのが多数だった。知らなかったくせにという言葉が、皮肉に聞こえてならなかった。
図工の絵画の授業が終わった後、エミリーは残りの一時間ある授業をほったらかして学校を飛び出した。校門を出ると、伏せていた顔を空へと向けた。息を吐くと、白いもやが視界を霞めた。
(もう、クリスマスの季節か…。)
プレゼントが貰えるという印象しかないクリスマス。そもそも、クリスマスとはどんな行事なのか。エミリーは知らなかった。そして、何故か知りたくなった。なんの気の迷いか、自分でも分からなかった。ただ、無意識に。足の向かう先は教会だった。
教会には、クリスマスのパンフレットがあった。とりあえず、それを開けてみる。エミリーは、それを見ながら再び帰路を歩いた。
「イエス・キリストの誕生日…?神様…。それとサンタって、どんな関係があるのかしら。」
エミリーはそこまで追及すると、教会のパンフレットを近くのごみ箱に投げ込んだ。
「サンタなんて、やっぱりいないのよ。」
そう思いながらも、今日はサンタが来るまで起きていようと思った。
◇
「おやすみ、ママ」
「おやすみエミリー。いい夢を」
ママの頬にキスすると、エミリーは自分の部屋にいき、布団をかぶって寝た「フリ」をした。絶対に、サンタが来るまで起きててやるんだ。
「寝たフリしてやる!!」
そう誓った。
◇
来ない。
いつまでたっても、サンタは来なかった。きっともう少しで朝だわ。そう思い、エミリーは時計を見た。すると、まだ0時も回っていなかった。
(ああ、眠たいわ。寝たいわ。来ないかしら…やっぱり、嘘だったのね。)
すると、部屋の扉がキィ、と開く音。寝たふりをしながら覗いてみると、なんとそこにはエミリーの母の姿があった。手には、綺麗に包装したもの。きっと、クリスマスプレゼントだ。
(なんで!?サンタの正体はママだったの!?)
驚きを隠せないエミリーに気付くことなく、母は枕元にプレゼントを置いて部屋を後にした。
「なんだ…そういうことか…」
きっと、これが真実。でもエミリーはサンタが来るまで待つと言った。そう、あのみんなが口々に言う赤い服着た真っ白なお髭のおじいさん。中々エミリーは辛抱強い子供らしかった。
暫くすると、窓が開いた。冷たい風が頬を撫で上げ、眠りに落ちかけていたエミリーを起こした。冷たい風に驚き、窓に目を向けた。そして、エミリーは驚くことになる。
「メリークリスマス、エミリー。」
そう、目の前にいたのは、みんなのいうようなおじいさんなんかじゃない。若くてかっこいい、赤い服を着た男の人だ。
「……誰?ママとパパを呼ぶわよ」
エミリーは彼に警戒していた。けれど、彼はそんなエミリーの言葉に大爆笑した。
「何!?」
「…いや。エミリー、君は愉快だ。僕の格好をみてサンタクロースだと分からないかい?」
「サンタはおじいさんよ!!」
そう言い張るエミリーに、自称サンタと名乗る彼は優しく言った。
「エミリー。これがサンタクロースの真実さ。君はサンタ自体を信じていなかったようだから、特別に姿を見せにきたよ。どうだい、生で見た感想は」
エミリーは暫くの間絶句していたが、彼を見直してこう言った。
「サンタクロースって、女の子の下着を持ち歩くものなのね。」
「えっ?いや、これはその…プレゼント★」
「いらない。あと、警察に通報されたくなければ早く部屋から出て行って。
『私の部屋に、下着ドロボーがいる』…ってね。」
「それだけはやめてくれよ!じゃあなっ!」
…ほら、やっぱりサンタなんていないじゃない。
けど、面白いものが見れたわ。本当に下着ドロボーなんているのね。