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清楚系美人な幼馴染に夏祭りで告白したんだけど、断られてしまった件

作者: 久野真一
掲載日:2021/08/02

夏らしい短編ということで、書いてみました。お楽しみください。

「さすがに昔からのお祭りだよね」


 祭り囃子の音が周囲から聞こえてくる。

 今日は昔から開催されている有名な夏祭りの日だ。

 隣に居るのは紺色の浴衣を着ている一年後輩の近衛霞(このえかすみ)

 スレンダーで小柄な体型と、控え目な彼女の雰囲気によく似合っている。


「前に一緒に来たのは小学生の頃でしたよね」


 懐かしそうに目を細める姿も様になっていて美人だと思える。

 そっと手を繋ぐと、クスっと笑って応じてくれた。


「何か変だった?」


 笑われるような事があっただろうかと首をひねる。


「いえ。ちょっと恥ずかしかっただけです」


 はにかみながらそう言われると。


「う」


 僕としては何も言えない。

 いい雰囲気だけどその台詞は男殺しだ。


 僕、荒木義輝(あらきよしてる)と隣の霞は幼稚園からの付き合い。

 いわゆる幼馴染という奴で、家同士も付き合いがある。

 僕も霞も内気な者同士、昔から仲良くして来た。


 お互いの家で遊んだり、一緒に勉強をしたり。

 そんな日々がずっと続いていくように感じていたけど、世の中は甘くない。

 彼女が僕の居る高校に入学して来た頃からだろうか。

 落ち着いた雰囲気に優しい笑顔。

 均整の取れた体型に物腰柔らかな態度もあってノックアウトされる男子が続出。

 知っているだけでも十回以上は告白されている。

 

 このままだと霞と一緒に居られないかもしれない。

 そう危惧を抱いた僕はきちんと彼女にアプローチを始める事にした。

 拙い初めての喫茶店デートから始まって、十回はデートをした。


 そうして、今日の夏祭りに至るというわけだ。

 「霞。二週間後の夏祭り。一緒に回らない?」

 かなり勇気が必要だったけど、なんとか切り出した僕に。

 「ありがとうございます。じゃあ、浴衣着ていきますね」

 笑顔で返してくれたので後で密かにガッツポーズをしていたものだ。


「霞は何か食べる?お好み焼きとか焼きそばとか」


 あんまり美味しくない屋台の食べ物だって彼女がいれば別格だ。


「じゃあ、定番ですけど焼きそばお願いします」


 懐からお金を出そうとする彼女だけど。


「いやいや今日は僕に奢らせてよ」


 ここは男の矜持を見せたい。


「でも、屋台の焼きそばは安くないですし……」

「たまにはいいでしょ?それに、僕が奢りたいだけ」


 些か気障だっただろうか?


「僕が奢りたいだけ、ですか」

「なんかおかしかった?」

「いえ。小学校の頃に回ったときも同じこと言われたなって」

「そういえば、カッコつけたこともあったかも」


 一歳年上としての貫禄を見せつけたかった。ただそれだけ。


「でも、それじゃあありがたく奢られますね」


 うう。やっぱりこの笑顔が素敵だ。


「じゃあ、行ってくる!」


 心が躍るのを感じながら屋台で焼きそば二つを買ってくる。


「やっぱり霞が作るのに比べたらイマイチだな」

「もう、義輝(よしてる)先輩。お世辞が過ぎますって」

「いやいや、比べるまでもなく明らかだって」


 時々、霞の手料理をごちそうになることがある。

 彼女がとりわけ得意なのは焼きそばやお好み焼きといったもので。

 ソースの味とか火加減とかが絶妙なのだ。


「綿あめもいいですね」

「よし、じゃあ買おうか。もちろん僕の奢りで」


 少しやり過ぎだろうか。そう思ったけど。


「じゃあ、今日はお言葉に甘えちゃいますね」


 少し可笑しそうに言う霞を見て、

 「見栄を張りたいのを悟られたかな」

 なんて思った。彼女は基本的には遠慮する方だ。

 でも、僕が見栄を張ってると思った時は別。

 それでいて財布に困っている時は固辞するのだから、よく見ている。


 その後もチョコバナナやベビーカステラと言ったお菓子を食べたり。

 あるいは、定番のビンゴ大会(ちなみに子どもが多かった)に混じったり。

 射的で当てたぬいぐるみを霞にプレゼントしたりもした。


「たーまやー」

「かーぎやー」


 屋台を一通り回った後は人気のない場所で花火見物。

 地元民的に人が来ないスポットは知っているので、シートを敷いてゆったりだ。


 地面に置かれた手はやっぱり繋がれていて、これはいい雰囲気だ。

 

「そういえば。私が中学になってから、なんで一緒に来てくれなかったんですか?」


 ひゅるるると打ち上がる花火を見ながら、ぽつりと溢した一言。

 その言葉に答えるのは少し勇気が要るけど、今なら。


「なんかさ。恥ずかしかったんだよ」

「恥ずかしい?」

「そ。だって、霞はどんどん女の子って感じになっていくしさ」

「周囲の目が、っていうことですか?」

「情けないけどその通り。あと、どうしても意識しちゃって」


 もう半分くらい気持ちを吐き出しているようなものだ。

 霞はどう思っているんだろうか。


「良かったです。私も、ずっと意識しちゃってましたから」

 

 ちらりとこちらを見ての一言。

 これは……これは、つまり、男としてずっと見ていたってことだよね。


「でも、足踏みも今日で終わり。大事な話があるんだけど聞いてくれる?」

「……はい」


 雰囲気が変わったのを感じたのだろう。

 霞も少し緊張気味に背を伸ばしている。


「前から霞の事が好きだった。付き合って欲しい」


 一息に思いを告げた。

 うまく行くと思うけど、もし断られたら。

 そんな葛藤で心臓がバクバクしっぱなしだ。


「……返事、いいですか?」


 いよいよ来る。僕が彼女とこの先も一緒に居られるかどうか。


「……うん」

「まず、誤解はしないで欲しいんですが」


 と一端区切って、


「義輝先輩の事は大好きです。いつからかわかりませんけど」


 でも、そういう彼女の顔は憂いを帯びていて。

 しかも、「誤解はしないで欲しいんですが」って。


「そうか。ありがとう」


 ともあれ、想いを返してもらえたのだから頷くしかない。

 

「でも、義輝先輩。私はお付き合いだけなのは無理です」


 少し目を伏せて幾分重い言葉で意に反する返事が返ってきたのだった。

 普通ならここで、「なんで?」と慌てふためくところなんだろう。

 ただ、僕には彼女の抱える事情に心当たりがあった。


「ひょっとしてお父さんとか家のこと?」


 彼女の実家は江戸期より前から続く旧家だ。

 しかも、一人娘と来ている。

 彼女のお父さんも霞を可愛がりつつも、家の当主を意識しているなと思うことがよくあった。


「はい。なんだかんだ、長く続いた家ですから。お父様も跡継ぎにはよく悩んでいます。ただ、私には「跡継ぎとかは考えなくていいからな。自由な恋愛をしなさい」と言ってくれていますが」


 彼女のお父さんならそう言うだろうな。古いしきたりにとらわれる人でもない。


「お父さんとしても、周りからのプレッシャーに悩んで、ということかな」

「はい。親戚筋は当然のように私が婿養子を取るものだと思っていますし」

「古いお家はそういうのめんどくさいよね」


 たとえ家族が良くても周囲が反対する。

 もう令和の世なんだから本人の自由にさせて欲しいものだ。


「それで、先程の話に戻るわけです。私も先輩とお付き合いしたいですけど、私達まだ高校生ですし。それで、婿養子前提にお付き合いしてくださいというのは、厚かましいですし、結婚するまでの期限付きなんて言うのももっと失礼ですし」


 ため息をつきながら語った事情は真剣なもので。

 周囲の意思を無視して、二人だけで幸せになろうと言える雰囲気じゃなかった。

 

「でも、霞は少し勘違いしてるよ」


 僕だって彼女の家が抱えている事情を知らないわけでもない。


「勘違い、ですか?」

「そう。僕は婿養子前提でも全然大丈夫ってこと」


 ここはきっぱり言ってしまおう。

 家のしがらみとか下らないけど、それは彼女が望んで抱えたものじゃない。


「でも、今、そこまで先輩に覚悟を強いるわけにも……」

「そう言ってるけど少し期待してたでしょ?霞」


 彼女は真摯で真面目な性格だ。

 こういう場に応じておいて、

 家の事情があります。付き合えませんなんて言う子じゃない。


「それは……はい。婿養子覚悟でお付き合いしてくれたらいいな、と」


 なんだか顔が凄く真っ赤になっているのも可愛い。


「ならさ。もうちょっと信用してよ。長い付き合いでしょ?」


 霞の気持ちはもちろんわかる。

 婿養子前提でお付き合いして欲しいとか普通はかなり重い話だ。

 でも、お互いのお家事情だって知っているんだし。

 僕は元々その覚悟だった。


「そう、ですね。すいません。それと、ありがとう、ございます……」


 そう言って霞はポロポロと泣き出してしまった。


「ああもう。昔から泣き虫なんだから……」


 慌てて取り出したハンカチで彼女の目元を拭う。

 しばらくして落ち着いたのか。

 

「あの、確認なんですけど」

「うん」

「け、結婚を前提にお付き合いしてもらえるんですよね?」

「その通り。ずっと一緒に居たいと思ってる」

「私、実はすっごく重いですよ。きっと、先輩が知らないくらい」

「お、重いって。どれくらい?」

「先輩に恋したのは小学校の時でした」

 

 確かにそれは重い。

 僕はやっぱり中学になってからだったしなあ。


「まあ、それくらいならセーフ、セーフ」

「毎日一緒に登下校したいです」

「こっちこそ、むしろお願いしたいくらい」


 重いなんて言いつつ可愛いもんだ。


「お昼は毎日、お弁当を作って来ますから」

「え、ええと。無理はしないでね?」


 体調を崩しても、やってきそうな予感がある。


「あとはその……大学生になったら、同棲したいです」

「ちょっと気が早いけど……わかった」

 

 頬だけじゃなくて耳まで真っ赤で何を妄想しているんだか。


「それと……浮気されたら自決しますから」

「しないけど……自決はやめて!」

「だって、浮気されるということは私に魅力がないからなわけで」

「ま、まあとにかく。浮気なんて絶対しないから」


 仲のいい女友達と二人きりでも危険そうなパターンだ。


「と、半分くらいは冗談ですが。それくらい大好きだってことです」

「うん。僕もそれに応えられるくらいもっと好きになりたい」

「じゃ、じゃあ。キス、しません?」


 言うや否や目をつぶって顔を近づけてくる。

 もう、気が早いなこの子!


 ええい、ままよ。

 そんな気分で唇にちゅっと短く触れる。


「キス、しちゃいましたね」


 頬が凄く上気している。


「ああ、うん」


 僕は何が何やらだったけど。


「もう一度、したいです」

「……うん」


 今度はお互いにもう少しゆっくりと唇を重ねる。


「もう一度」

「……うん」


 結局、彼女の求めに応じて、何度も何度もキスしてしまった。


「ここまでされたら、僕も離れるわけにはいかないね」

「私も離れたくないです」


 清楚で美人な幼馴染は結構愛が重い女の子だった。


「きっと、僕はずっと君の尻に敷かれるんだろうなあ」

「ええ?私はそんなことしないです。むしろ尽くします!」

「それはわかってるんだけど。別の意味でね」

「どういう意味ですか?」

「うん。わからないならそれでいいよ」

「誤魔化さないでくださいよー」


 自覚がないみたいだけど、それはそれでいいか。


(あ)

 

 気がついたら花火はとっくに終わっていた。

 でも、僕はこの日のことをきっとずっと覚えているんだろうなあ。

 なんて思いながら、目の前の愛しい人を見つめたのだった。


「どうかしましたか?」

「いや、霞のことやっぱり好きだなあって。それだけ」

「私も大好きです、義輝先輩!一生尽くします!」


 いや、一生って。やっぱり彼女は愛が重い。

ちょっと重いお家事情を抱えた故か(?)愛が重い彼女なのでした。

この後、ガンガンに迫ってきそうな彼女とたじたじな彼になりそうです。


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― 新着の感想 ―
[一言] こちらだと、よほどでない限り旧家といってもたかが知れているから。向こうだと、面倒くささの度合いは違うんだろうな。 しかし、同棲って今は結婚へのただの一つのプロセス、になってしまっているよう…
[良い点] 愛が重い子良いですよね。 面白かったです!
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