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過去の人、今の僕  作者: 稚早
1.最後の1年、その始まり
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3.それぞれの放課後

「で?どうだった、初日は」

忠はそう言って吹雪に向かって少し身を乗り出した。

ちなみにここは僕の部屋で僕はベッド、二人はカーペットの上で小さな机を挟んで向かい合っている。式の後午前中で学校が終わった僕らは、忠によって(昼食後、若松家に集合)と招集がかけられていた。

もう一度説明しよう。ここは僕の部屋である。

「別に普通だったわよ。というか、毎回毎回よく飽きないわね」

吹雪はいい加減呆れたようにため息をつきながら答えた。答えないと、忠がややこしいことになることを分かっているからだろう。この過保護な招集はクラスが変わる度に行われる恒例行事だ。

「飽きるようなものじゃないだろ。変な奴とかいなかったか?」

「はいはい、大丈夫よ。2年なんだから、大体の人は分かるわ」

つい先ほど、同級生の名前が出てこなかった僕に、吹雪の言葉がチクリと刺さる。忠がチラリと僕を見て少しだけ笑った。同じことを思い出したらしい。

「?どうかした?」

「いや、何でも?なぁ?」

「うん、何でも。それにしても、忠本当に過保護だよねぇ。今日だってクラス表で吹雪のクラスチェックしてたし」

余計なことを言われる前に、と僕は先に忠を生贄に差し出すことにした。笑ってくれたお礼だ。

「ばっ!おま・・・」

案の定、忠は渋い顔をして目を泳がせた。

「ちょっと、何してるのよ!?私のこといくつだと思ってるの?」

詰め寄る吹雪とたじろぐ忠の図は、思春期の娘を持つ過保護な父親そのものだ。

「あぁもう、あんまり暴れないでよ……」

2人の前に置かれたお茶が、今にもこぼれそうなくらい波打っていた。どうして毎回僕の部屋でやるのだろう。吹雪が中学に上がったころから始まったこの召集は、なぜか毎回僕の部屋なのである。

「それで?お前の方はどうだったんだ。江藤と、あと確か神谷も同じクラスだったろ」

「まぁ、ね……」

付き合いだけは長いから、忠の考えは手に取るように分かった。悪い顔をしているからきっと、さっき生贄に出した仕返しだ。だって。

「え?叶、会長と同じクラスなの?」

吹雪が食いつくのが、分かっていたから。そして、この後頼まれるであろうことも。

「うん、そうだよ」

「お願いっ!用事がある時は連絡するから会長を捕まえておいてくれない?あの人すぐ逃げるのよ!」

案の定、吹雪は僕に向かって拝むように両手を合わせた。

「あー……うん、分かった。できるだけやってみるよ」

可愛がっている幼馴染に頼まれて、断れるはずがない。去年神谷さんと同じクラスだった忠が同じように頼まれていたことを、僕は知っている。それが、一筋縄ではいかないということも。忠に憐れむような視線を送られているのは、気のせいだと思いたい。

新学期早々大変な任務を仰せつかりながら、僕の高校最後の1年が始まろうとしていた。



「夏奈って、若松と知り合いだっけ?」

「?ううん。今日初めて話したよ。どうかした?」

HRが終わった後、夏奈は

「式で気力使い果たした!何か食べて帰ろ」

という千歳の誘いにのって、ファミレスで食後のドリンクバーを楽しんでいた。

「そうよね?でも、今日体育館に一緒に来てなかった?」

「よく見てるねぇ。クラス表の前で忠君と一緒だったところ声かけたら同じクラスだったからそのまま流れで一緒になったの」

「成程ね……ん?忠君?」

誰のことだとでも言いたげに、千歳が首を傾げる。

「三木君だよ。千歳よく喋ってるじゃん」

「喋ってるってか絡まれてるんだけどね。そう言えば(忠平)だっけ名前。でも、夏奈(忠君)なんて呼んでたっけ?」

昨年は3人で同じクラスだった。千歳を捕まえに来る忠平とは比較的よく話すほうだったし、お互いの呼び名くらいは覚えている。

「今日若松君が(忠)って呼んでてね。あたしも呼んでいいかってきいたら好きにしろって」

「あの2人と吹雪、小学校から一緒らしいしね。吹雪が過保護だってぼやいてたわよ」

コーヒーをすすりながら、千歳は小馬鹿にするように目を細めた。

「いいよねぇ、長い付き合い」

「よかないわよ。おかげでさぼり難いったらありゃしない」

「それは千歳が悪いんでしょー」

忠平が千歳を捕まえるためにどれだけ苦労していたか、夏奈はよく知っている。言って素直に聞く千歳ではないことも。

「息抜きも大事ってことよ。ただでさえ今年はアイツがクラスにいるんだから、適度に遊ばなきゃやってられないわよ全く」

そう言った千歳の顔が渋いのは、相手を思い出してか、はたまた口に運んだコーヒーが苦かったからか。

「あぁ、臼井のこと?千歳相性最悪だもんね」

「言わないでよ、コーヒーが不味くなんでしょ」

夏奈の学年で、臼井を知らない人間はいない。地毛というのは少々厳しい茶髪が目立つ、喧嘩やカツアゲの常習犯だ。教師陣も、臼井とその取り巻き達には手を焼いている。

「よりによって何でアイツと一緒なのよ……」

「受験もあるし、千歳に見張っててほしいんだったりして」

「ゲッ、そういうことぉ!?勘弁してよぉ」

「まぁまぁ、たった1年じゃん。我慢我慢」

泣いても笑っても、高校生活は残り1年なのだ。どうせなら、楽しいことを考えて過ごしたい。

夏奈がなだめると、千歳は不満げに唸りながらフライドポテトを口に放り込んだ。

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