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過去の人、今の僕  作者: 稚早
3.僕の秘密を知ったのは
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26.帰り道:叶の場合

まだ生徒会の仕事が残っているという吹雪と別れ、いつもの帰り道を歩く。

忠は律儀に僕を送るつもりらしく、僕の鞄まで持ってくれていた。

「足取りはしっかりしてるな。安心した」

「よく寝たからね。昼から今までだもん」

この季節なら、まだまだ日は長い。それが朱色がかるまで寝ていたのだから、呆れられても仕方がない。

「心配させやがって……」

「ごめんごめん」

「にしても、何で倒れたんだ?貧血か?」

「あー……そうかも。急にクラッときちゃって」

原因なんて、分かり切っている。忠に今ここで全てを話すことができれば、さっき目覚めたときのような開放感を味わえるかもしれない。明日から、彼女に向き合う勇気が湧いてくるだろうか。

けれど、言えない。言うわけにはいかない。

「ちゃんと飯食ってるのか?」

「ふっ、忠、心配の仕方がお母さんだよ」

「笑い事じゃないぞ。体は大事だ」

「まぁ……そうだね」

きっと、僕らは今同じことを思い出している。

「もう、8年……」

独り言のように、隣から声が漏れた。

8年前、細くて華奢な体で懸命に生きようとしていた少女を、僕らは忘れない。いや、

「お前まで、居なくなってくれるなよ」

自嘲気味に呟く忠が痛々しくて、僕はそっと眼を逸らした。

「今年も、お墓参り行くの?」

「あぁ。進学したら、そう簡単には来られないしな。今年は家の方にもお邪魔しようと思ってる」

「そっか。忠受かったら県外だもんね」

僕は地元の大学を、忠は県外の大学を志望している。

「受かるといいね、お互い」

チャンスとばかりに、話を逸らした。まだ時間があるとはいえ、周りも受験に関する会話が増えてきているし、そこまで不自然でもないだろう。僕は問いかけるようにグラデーションのかかる空を見上げた。

「大丈夫だろ。今のところそれなりの成績出してるし」

「余裕だねぇ、忠平さんは」

わざとらしくおどけた口調で見上げると、忠は僕の頭を小突くふりをした。

「お前には言われたくないな。A判定とってるくせに」

「忠だってBじゃん。それに忠の志望校の方がレベル高いし」

僕らの成績は然程変わらない。お互いの得意教科以外はどれもどんぐりの背比べだ。

「国語が、というか古文がどうしてもなぁ」

5教科の点数をグラフにしたとしたら、僕はそれなりにバランスのいい五角形になるだろう。対して忠は圧倒的に一か所、国語のところだけが大きく凹んだものになる。この形は、小学生の時から変わっていない。

「今度教えてあげるから……」

僕が教えたところで、この凹みが治るとも思えないけれど。

珍しく受験生らしい会話をしている間に、僕の家が見えた。

「鞄ありがと。上がっていく?」

「アホか。今日倒れた人間は大人しく寝てろ」

「はは、それもそうだ」

忠に見張られながら家に入り、僕は自分の部屋へと直行した。どうせ、今家には誰もいない。糸が切れたようにベッドに倒れこんだ。忠と話している間は気が紛れて気付かなかったけれど、少し頭が痛い。目覚めはよかったけれど、それなりに疲れているらしい。

きっと、あの人の記憶だったからだ。鮮明だったのも、これだけ深く仕舞いこまれていたのも。僕と同じ悩みを持った、あの人の。

僕は眼を閉じかけて1つ、やることを思い出して鞄に手を伸ばした。彼女に、メールででもお礼を言わなければ。傷に触った時のように、頭痛が強くなった。

——品川先生からきいたけど、僕が寝てる間ついててくれたんだってね。ありがとう——

それだけ送って、僕は本格的にベッドに潜り込んだ。

明日は、ちゃんと彼女と向き合えるだろうか。今まで通り、自然に接したい。

明日の自分にそう願いながら、今日の僕は眼を閉じた。


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