表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過去の人、今の僕  作者: 稚早
2.生意気な後輩
19/28

19.あんた、おかしいよ

運ばれる被害者を見送って、警察に事情を説明し終えた頃には1時間以上経過していた。

高校生が通報しても、と思ったけれど、運転手はかなり動揺していたし大通りを往く大人たちは忙しい。結局、僕が救急と警察に連絡したのだった。

事故があった場所では、まだ警察の人達が慌ただしく動いている。

ようやく解放されて帰ろうとしたとき、一歩退いた場所にたたずむ影に気が付いた。

「渡部君!まだ居たの?」

「……あんたを待ってた。コレ、落としてたから」

渡部君の手の中で、記憶に新しい電気屋の袋が揺れる。

「あっ、落としてたんだ……気付かなかった。ありがとう。ごめんね、長かったでしょ」

袋を受け取った後も、渡部君は硬い表情で僕を見上げたままだった。

「……なぁ、あんた、何者なんだよ」

道往く人々は皆、事故現場の方を一瞥して足早に通り過ぎていく。

渡部君の震える声は、僕にだけ届いていた。

「何者って、僕は別に……」

「あんた、おかしいだろ。何で、あんな場面見て顔色一つ変えないんだよ!」

「えっ……」

一瞬、(記憶)のことを言われたのかと背筋が凍った。けれど、彼が知っているハズがない。先程の事故のことだと、すぐに理解した。

「それは……」

「あの人、あんなに血が出てたのに、何で淡々と通報とかできんだよ」

この子は、きっと事故に遭遇してかなりショックを受けている。だからこそ、隣にいた知り合いである僕が一緒に居るべきだったのだ。僕が彼を放っておいたせいで、彼はまだ未だにあの血だまりを自分の中で消化できずにいる。僕が、フォローをしていれば。

「……ごめん」

「何、謝ってるんだよ。別にアンタ悪くねぇじゃん。正しいことしただけなんだし」

でも、とようやく僕を見上げた渡部君の眼は冷たく、警戒と嫌悪が満ちていた。

この眼を、僕は知っている。得体の知れない、気持ち悪いものを見るときの眼だ。

「あんた、おかしいよ。落ち着いてる、なんてもんじゃない。まるで、目の前で人が死んでも平気なんじゃねぇかって思えるくらい……異様だった」

「……渡部君には、分からないだろうね」

やめてくれ。その眼は(僕の)トラウマなんだ。何も知らないくせに、という反発も相まって、僕は渡部君の眼を見ることができなかった。

「僕だって、見たくなかったよ。あんなもの」

事故と同時に脳内で再生された、血の海の記憶。

見なくて済むのなら、どれだけよかっただろう。(人が死んでも平気)なくらいに心を枯らしていないと、気が狂いそうなんだ。

「……事故見たりして疲れたでしょ。早めに帰って休んだ方がいいよ。送ろうか?」

これ以上話を続けても無駄だよ。そんな牽制も込めて、言葉を被せる。渡部君の口は何か言いたげに動き、けれど結局小さな舌打ちだけを吐き出した。

「いい。1人で帰れる」

「そう。気を付けてね」

これ以上追及されることがないという安堵に、こっそりと胸を撫で下ろす。

そんな気持ちを見透かしたように僕を睨んで、渡部君はあっという間に人ごみへと消えていった。手の中にあるイヤホンが、やけに重たく感じる。もしかしたら、警察に事情を話していた時よりも疲れたかもしれない。

僕は逃げるように帰路を歩いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ