11.憂鬱な時の雨
あと一枠。委員会の名前が並んだ黒板にぽっかりと空いたスペースが、その沈黙を作っていた。
図書委員は、週一回カウンターの当番があるため人気がない。
その上、立候補するほど積極的な人間は、既に他の委員会に名を連ねている。
じりじりと迫る指名への緊張感、最初に音を上げたのが、運のつきだった。
——オレ、やります——
こうして、渡部時雨は現在図書室へと歩いている。
「ったく、何でオレが・・・」
下校、部活、委員会。生徒たちがそれぞれの放課後へ向かう廊下で、喧騒に紛れる程度に1人ごちた。生憎、今日は少々機嫌が悪い。
3年生らしい男子に、迷っているところを助けられた。
それには感謝はしている。けれど、恥ずかしさが先だって怒鳴るように逃げてきた。
素直になれない自分への自己嫌悪も相まって、どうにも気分が上がらない。
図書室へと入る足取りは、たたきつけるように音を立てていた。
図書委員を担当する司書教諭に促され、適当な席に腰を下ろす。
「……あ。お前、今朝の」
筆箱の支度をしていた頭に、不意に向かいの席から言葉が飛んできた。
緩慢に、視線だけを上げる。
「ちゃんと化学室行けたか?」
小声だったのは、時雨への配慮か、ここが図書室だからか。
正面に座っていた声の主には、見覚えがあった。
「……あーーっ!!あんた、あいつの後ろにいた!」
件の3年生の後ろに立っていたその顔は記憶に新しい。
全ての配慮をぶち壊す、大音量が口から飛び出した。周りの暇を持て余した好奇の視線が鬱陶しい。元凶となった相手は、あーぁ、とでも言いたげに苦笑していた。
「今日は悪かったな。3年にいきなり声をかけられて驚いたろ」
「別に……気にしてねぇよ」
気にしているのは丸わかりだろうが、文句(八つ当たり)は山程ある。
それを飲み込んだだけでも、良しとしてほしい。
「そうか。ならいいけどな」
相手はぶっきらぼうな時雨の態度をとがめることもなく鷹揚に笑った。
「俺は三木忠平。3年4組だ。1学期の間、よろしくな」
「……渡部時雨。1年2組」
筆箱からペンを取り出し、意味もなくノックを繰り返す。
徐々に周りに人が集まり、司書教諭も忙しそうにプリントを数えていた。
そろそろ時間になるのだろう。
始まる前から、時雨の肩は重く垂れ下がっていた。




