あまり睨まれたくはない相手だろう。
さて、どう出るか……
「よ、用事を思い出したので失礼するっ!?」
「あ、待てよっ!」
と、二人して逃げ去った。
バタバタと走り去る足音が響き、
「あ、連中食ったの片付けねぇで行きやがった!」
という誰かの声がして、またもや生徒達の笑い声が沸いた。
さて、さっさと食べよう。変な連中に絡まれたせいで、ゆっくりできる時間が減ってしまった。
「おー、ハウウェルこっちこっちー」
ひらりと手を振って手招きするのはテッド。呼ばれたテーブルに着くと、
「あれは、本気なのか? ハウウェル」
ぼそりと低い声が尋ねる。
「あれって?」
「だから、あの、どちら様ですかと言ったやつだ」
苛立ったような顔で言い募るリール。
「? 本気というか、そもそも始めっから連中の顔なんて覚えてないし。多分、今もあと少ししたら忘れると思う」
きっぱりと言うと、マジかコイツ! という視線を向けられた。なぜだろうか?
「? あんなの一々気にしてられないでしょ」
「うむ。ハウウェルくらいに絡まれ捲っていると、あの程度の連中は覚える価値も無いだろうな」
同意して頷くレザン。
「というか、わたしは君があの先輩達の顔を覚えていたことの方が驚きだよ。レザン」
わたしだってすっかり忘れていたのに。
「うん? 俺は別に、あの連中の顔を覚えていたワケではないぞ?」
「え? そうなの? じゃあ、どうして……?」
「顔じゃなくて、ハウウェルにあしらわれた二人組の先輩男子生徒達のことを覚えていただけだ」
「成る程」
「ぅわ、全く覚えてもらえてないとか、ある意味不憫な先輩達ー。ってか、ハウウェルのおにーさんが挨拶したいっつったら、即行逃げたけど、なに? やっぱハウウェルのおにーさんて怖い人なん?」
「やだな。そんなことないよ? 兄上は生徒達に顔が広いみたいで、わたしに対して優しくて、ちょっと心配性なだけだよ」
そして、次期侯爵なだけだ。
「いや、ハウウェルにだけ優しくて心配性っつーか、ありゃ明確なブラコンだろ。ちょっと暴走しそうな……って、ハウウェルもおにーさん大好きっ子なブラコンだったな?」
「まぁ、その言い方は兎も角、わたしとセディーの仲が良いことは否定しないよ」
「珍しいくらいに仲の良さそうな兄弟ではあったな」
「そりゃどうも」
「おにーさんのあの猫っ可愛がりっ振りに、ハウウェルがめっちゃ懐いたと見た!」
どうだ? とばかりの視線を向けるテッド。
「ぁ~……まぁ、ざっくり言うとそんな感じ?」
確かに、わたしはセディーに可愛がられている。猫っ可愛がりとまでは言えないだろうけど。
「おお、正解か」
「……詳しくは?」
ぼそりと聞くリール。
「なにげにぐいぐい来るよね? 君は。ま、別にいいんだけどさ」
「ハウウェルの兄君は、いずれ侯爵を継ぐ身だそうだからな。できれば、あまり睨まれたくはない相手だろう。まぁ、彼らはもう遅いと思うが……」
「「へ?」」
レザンの言葉に、ぽかんとした顔でわたしを見やるテッドとリール。
「・・・ぇ~と? ハウウェルは、子爵令息じゃなかったのか? 確か、自分でそう言ってたよな? 話違くね?」
「ああ、父は子爵だからね。わたしが子爵令息なのは、間違ってないよ?」
「じゃ、じゃあ、なんでおにーさんがこーしゃくになるんだよ?」
「お祖父様が侯爵だからね」
「と、言うことは・・・ハウウェルん家って、かなり偉かったり?」
「いやいや。偉いのは父なんかじゃなくて、あくまでも、お祖父様の方だからね。父は偉くないよ?」
うん。そこを間違っちゃいけないよねぇ?
なにせお祖父様は、父に侯爵位を継がせるつもりは微塵も無いからなぁ。
「一応言っとくけど、実は王族や公爵、侯爵の孫やひ孫、親類縁者って下位貴族は、それなりにいるんだよ? 自分でそうは名乗らないだけ……っていうか、家同士の確執や事情で名乗れなかったりする人も割と多いしさ。だから、そんな驚いた顔しないでよ」
「マジでっ!?」
「ホントホント」
「肯定、軽っ」
「うむ。とっくに没落しているのに、何代も前に王族が降嫁したと、未だに誇る家もあるくらいだ」
「何代も前って……一体何年前のことだよ?」
「多分、百年以上は経っているのではないか?」
「百年以上前のことを未だに自慢・・・」
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