名前名乗る勇気あるの?
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月曜日。昼休み。
空席を求めてうろついていたら、なにやらクスクスと潜めた笑い声のする一帯があった。
なんだろうと思い、潜めた笑い声のする中心へ顔を向けると――――
「ああっ、お前っ!?」
「どうしてくれるんだっ!?」
見知らぬ男子生徒……多分先輩と思しき二人組に指を差された。
「?」
見覚えがないので、わたしの後ろにいる人物を指しているのだろうと通り過ぎようとしたら、
「お前だお前っ!?」
「なに通り過ぎようとしているんだっ!? ハウウェルめっ!?」
名指しされてしまった。きょろきょろと辺りを見回す。他のハウウェルさんがいる可能性は……
「お前だっ!? 女顔で弟の方のハウウェルっ!?」
う~ん・・・もしかしなくても、わたしのことだろうか? 失礼というか、不躾な先輩達だな。
わたし以外に女性的な顔立ちのハウウェルさんが・・・残念ながら、いなかったみたいだ。
チッ……変なのに絡まれてしまった。
「お前のせいで俺達は笑い者にされたじゃないかっ!? どうしてくれるっ!!」
確かに。なぜかよくわからないけど、この先輩達はクスクスと周囲の生徒達から笑われているようだ。でも、なぜそれがわたしのせいなのか・・・
「? その、失礼ですが、どちら様でしょうか?」
「はあっ!?」
「お前本気で言ってるのかっ!!」
いきなり激昂する先輩二人。
なにこの人達。引くわー。
「ええと?」
「なんだ、この間の先輩方ではありませんか!」
割って入ったのは、いやに闊達な声。
「それで、先輩方は週末はどう過ごされましたか? 家の方に、友人を増やしていいのかとお伺いを立てられたのでしょうか? 友人が増えるのはいいことですよ!」
ドっと沸いた笑い声に、真っ赤になる先輩達。
ああ、思い出した。こないだの、セディーのことを悪く言ったから恥を掻かせてやった先輩達か。
・・・この野郎共のせいで、わたしはセディーにアホの子認定をされてしまったんだった。
面倒な暗記をさせられることになった原因共だ。そう思ったら、なんだかムカついて来たな。
「次男三男で爵位も継げない身分のクセにっ!?」
「俺達にこんなことしていいと思っているのか!!」
なにやら爵位がどうとか喚いてますねぇ・・・
面倒だなぁと思いながら、横から口出しして来たレザンを見やる。
「? ふっ……」
よくわからないけど、自信ありげに頷かれた。でもあれ、きっとなにも考えてないんだろうなぁ・・・コイツ、脳筋だし。まぁ、仕方ないか。
「へぇ……先輩方は、その言い方だと、爵位を継げる身分のようですねぇ? 嫡男でしょうか? それはそれは、大変結構なことで」
「ハッ、今更媚びたところで遅いんだよ!」
「お前らの顔は覚えたからな! 謝っても許さないぞ!」
ふむ。一々絡んだ相手の顔を覚えているとは。どうやら、この二人は記憶力がいいらしい。そして、わざわざまた絡みに来るとは……暇なのだろうか?
それに・・・権力を持ち出して脅すというのなら、こちらも権力で対抗するとしましょう。
「そうですか。ところで、わたしも週末は帰省していたのですが、兄上が先輩方の名前を知りたがっているんですよ。偶には、親交の無かった後輩との旧交を温めるのもいいものだと、挨拶がしたいようなので。宜しければ、先輩方のお名前を教えて頂けると嬉しいのですが?」
にっこりと微笑みながら言うと、先輩達の顔がみるみる青ざめる。
要約すると、爵位を継げるのがご自慢みたいだが、侯爵予定の嫡男がお前らのこと知りたがってるけど、名前名乗る勇気あるの? と言ったところだろうか。
あとついでに、侯爵予定嫡男が付き合うに値しない、と。交流を持たなかった奴らだけど、今度は逆の意味で目を付けられたと、気付く人は気付くでしょうねぇ。
実際は、セディー本人はそんなこと言ってないけど、彼らの名前を知りたがっていたのは本当だ。ちょ~っと薄ら寒くなるような笑顔で、圧力を掛けなきゃって言ってたし。ちょっとしたアレンジだ。
セディーは侯爵家の馬車で学園に出入りしていたというから、それを知っているなら、早くとも十数年後にはセディーがハウウェル侯爵位を継ぐと思っている貴族子弟は、そこそこいるでしょうね。
まぁ、セディー本人は十数年後どころか、遅くとも数年後には侯爵位を継ぐつもりなんだけど。
これで名乗れるようなら、彼らはなかなかの家出身。または、クソ度胸の持ち主ですが。
さて、どう出るか……
読んでくださり、ありがとうございました。
面倒な先輩達リターンズ。全く覚えられてないけど……(笑)
『早くとも十数年後にはセディーがハウウェル侯爵位を継ぐと思っている~』という部分については、お祖父様の次にはおとんが侯爵位を継ぐと周囲には思われているので、【早くとも】という表現で間違っていません。
おとんをすっ飛ばしてセディーが侯爵位を継ぐという決定は、まだ内々の決定なので公表はしていないので。




