人の顔を覚えるのが苦手だったりする?
「・・・ぇ~と、ネイト? それ本気で言ってる、の? 冗談じゃなくて?」
呆気にとられたようにぱちぱちと瞬くブラウン。
「うん。至極本気だけど? なんて言うかわたし、ああいう連中を認識するのが苦手みたいで・・・あと、四、五回くらい同じ連中に絡まれれば、個人として認識できるようになるかも? 多分だけど」
なんていうか、ほら? 無駄に絡んで来るような連中って、大体どれも雰囲気が似通ってるし。チンピラその一、その二的な認識になるようで、個人として認識し難いんだよねー……なんて、絡まれ慣れているようなことはセディーには言えないよね。
とりあえず、セディーのこと悪く言われたことはムカついたけど、あの場でキッチリ仕返しはしたし。連中がどこの誰とか、そんなことはマジで興味無い。また絡まれたとして、その都度仕返しをすればいいことだ。
むしろ、顔を覚えてやらないことも、相手には嫌がらせになるようだし。
「ネイトって……実は、人の顔を覚えるのが苦手だったりする?」
なんだか、残念な子を見るような目で見られているような気がする。
まぁ、記憶力のいいセディーからしてみれば、何度顔を合わせても人の認識ができないというのは、残念という評価になるのかもしれないけど・・・
「う~ん・・・そうかもしれない」
さすがに、剣や武器を持って襲われたりしたら、その連中の顔は覚えるけどね。口だけじゃあ、大した脅威にならないし。
「ぁ~・・・ネイト。うちに帰ったら、貴族家の勉強をしようか?」
「そんなことより、わたしはセディーと楽しく遊びたい」
学園内で起きた余計なあれこれを詮索されるよりはもう、開き直って遊びたいと言っておこう。
「ぅ……僕もネイトと遊びたいけど、でもこれはさすがになぁ……」
小さく呟いたセディーが、珍しく渋い顔でわたしを見詰める。
「?」
「どこの家の誰々とか、貴族間の人間関係を知っておくのは大事なことなんだよ。苦手でも、一生懸命やればきっと覚えられるから。ね? 頑張ろう?」
あれ? なんか、勉強のできない子を見るような顔をされている気がする。
まぁ、セディーに比べれば確かにわたしは、あんまり勉強できない方ではあるけど。
「あと、おばあ様にお願いして、今度からお茶会に行く機会も増やそうね。大丈夫だよ? 僕も一緒に付いててあげるし。ちょっとくらい失敗しても怒らない人達に紹介してあげるからね、ネイト」
「え~と?」
・・・これってもしかして、わたしセディーに、対人スキルが低い子だと思われている?
まぁ、対人スキルはそんなに高い方でもないかもしれないけど。売られた喧嘩を買ったり、余計に煽ったりするのはそこそこ得意だと思うんだけどなぁ・・・って、そんなんばっかり上手くなっても駄目か。
我慢とか忍耐も、やっぱり必要だよねぇ。一応、自分でも喧嘩っ早いという自覚はある。思えば・・・騎士学校時代は、舐められないようにと常に必死だった。なんかこう、殺伐としていた。
でも、今通ってる学園は別にあんな殺伐としてないし。身を守る為に必死にならなくてもよさそうなんだよねぇ。
わたしも、もう少し丸くなるべきかなぁ・・・
なんて考えていたら、
「帰るまでは、遊ぼうか」
とセディーがトランプを取り出して、カードを切り始めた。ちなみに、ボードゲームは駒を失くしそうだから持って来ていないという。
渋滞でのろのろとなかなか進まない馬車の中、セディーとカードゲームをして。飽きたらお喋り。
小腹が空いて来たと思ったら、準備よく用意されていた軽食を食べて。
赤く染まる夕日に、暮れる空。馬車の中も暗くなって来て、段々とうとうとして・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
コンコンとノックの音と、「到着しましたよ」という声とで目を覚ます。
揺れる感覚がない。
どうやら家に着いたらしい。
外はもう暗い。何時だろうか?
右側に寄り掛かっている温かい重み。
「セディー、起きて。着いたんだって」
二人して寝ていたようだ。
「ぅ……ん?」
揺さぶると、返るのは寝惚けたような声。
「寝るなら家に入ってから寝よう」
「んー……」
返事らしき声は出しながらも、わたしに寄り掛かったまま動く気配のないセディー。
「まぁ、わたしが言うのもなんだけど、相変わらずの寝起きだよねぇ。セディー? 起きないなら、もうこのまま運んじゃうよ?」
多分、セディーが目を覚ますのを待つよりも、わたしがセディーを家の中に運んだ方が早い気がする。セディーのプライドとかを考慮しなければ、なんだけど。
「セディーってば、起きて」
「む~・・・」
と、セディーを起こして家に入って、出迎えてくれたおばあ様に苦笑されたり、バタバタと帰って来たお祖父様に挨拶をして、夕食を食べて・・・思っていたよりも和やかに過ごした。
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