さて、帰りますか。
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午後の授業終了のベルが鳴りました。
さて、帰りますか。
と、教室を出てから気が付いた。
「あ、忘れてた」
剣を、寮に預けていたことに。
荷物も鞄に入っているし、教科書を持ったままでいい。財布も持っている。だからそのまま校門を出れば……と、思っていた。けど、剣を持たないまま外へ出るのは、なんだかとても落ち着かない。
丸腰のときに、もしもなにかあったら……? どこかへ置き去りにされたら……? と思うと、凄く不安になる。
うん。やっぱり、剣と財布は出掛ける際の必需品だ。持っていないと、安心できない。
仕方ないので、一旦寮に戻って預けてある剣を取りに行くことにしよう。
ああもう、どうせ戻るなら教科書とかも置いてこうかな?
いそいそと寮へ向かい、寮のラウンジで預けた剣の受け取り手続きをする合間に部屋へ行って教科書を置く。
「え~と、なんか他に忘れ物は無いよね?」
戸締りを確認して、部屋に鍵を掛ける。
それからラウンジで剣を受け取り、寮を出た。
バタバタしながら校門へ向かうと、既に外には馬車が幾つも停まっているのが見えた。
長くなりそうな渋滞の気配に溜め息を吐いて、うちの馬車を探す。
今日は確か、いつも使っている地味な作りの馬車じゃないらしい。
「ネイトーっ!?」
と、なんだかものすっご~~く聞き覚えのある声に振り返ると、
「こっちこっち!」
にこにこと満面の笑みでわたしへ手を振る――――
「・・・セディーっ!?」
なんでここに? と思っていると、
「あのおにーさん誰? ハウウェルの知り合い? めっちゃ笑顔じゃん」
「へ?」
セディーに驚いていると、横合いからぬっと現れたのはテッド。
「ふむ。あれはハウウェルの兄君ではなかろうか?」
「げっ、レザンまで・・・」
「え? マジ? あれ、ハウウェルの兄貴? 見た目あんま似てねーのな?」
「兄の方は普通の顔なんだな。ハウウェルよりも地味というか……」
ぼそりとした声で呟いたのはリール。なにげに失礼だなコイツ。
「ちょっ、なんで君達がいるのっ!?」
「あ? なんか、いそいそと歩いてくハウウェルが見えたから追い掛けてみた」
悪びれもなく言うテッド。
「フッ、大方、早く家に帰りたくて待ちきれなかったのだろう。前からそうだからな。ハウウェルは」
うんうんとワケ知り顔のレザン。ある意味間違ってはいないけど、なんかムカつくな!
「よし、では折角だからハウウェルの兄君に挨拶を」
「はあ! しなくていいっ!? むしろお前は近付くなっ!?」
セディーの方へ歩こうとするレザンの肩を強く掴んで止める。と、
「うん? ハウウェルは恥ずかしがり屋だな。なぁに、別にハウウェルの恥ずかしい失敗やらなにやらは話すつもりはないぞ。内緒にしておいてやるから安心しろ」
にかっと爽やかな笑顔。
「そういう意味じゃねぇんだよ。セディーに近寄るなこの脳筋が」
「どしたよ、ハウウェル?」
どうしたもこうしたもない! むしろこれからどうしようだよっ!?
……コイツらを振り切って馬車まで走る、のは……テッドとリールは兎も角、一番振り切りたいレザンの野郎を引き離すのが無理だよチクショー!
「うん。どうしたの、ネイト?」
思わぬ近い距離から聞こえた声。
「っ!? ・・・セディー? な、なんでここに?」
驚いたわたしへ、
「ネイトのお迎えに来ちゃった♪」
にこっと嬉しそうな笑顔。
「それで、そっちの子達はネイトのお友達かな?」
そして、セディーがレザン達の方を向く。
「うむ。俺は」
「あ-違う違う。学園で知り合った単なる通りすがりの男子生徒A、B、Cだから」
頷いて自己紹介しようとしたレザンを遮り、
「さあ、帰ろうかセディー!」
セディーの背中を押して促す。
「え? ちょっ、ネイト? 僕、ネイトのお友達に挨拶がまだ」
「わたしは早く帰りたい!」
「まあ、待てよハウウェル」
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