要は、人それぞれということだな!
「……言うっ、じゃないか、ハウウェルっ……クッ、ハハハハハハハハハっ!?!?」
ぷるぷると震えながら、堪え切れず、とうとうテーブルをバシバシ叩きながら爆笑するテッド。
まぁ、爆笑しているのはテッドだけじゃないけど。笑い声と共に戻って来た喧騒。さっきまでのピリピリしていた空気が霧消している。
なんというか、こないだから浮かれた雰囲気の中にもどこはかとなく不穏さを孕んでギスギスした雰囲気を、図らずも変えてしまったようだ。ある意味、貴族子女達に不満を持っていた平民生徒達のガス抜きになったのかも。
きっとこれから、貴族子女が平民を馬鹿にする度、『友達も自分で決められないんだ、可哀想に……』という同情的、もしくは若干馬鹿にするような目で平民側から見られることになるだろう。そうじゃなければ、笑い飛ばされるとか?
貴族というのは兎角面子に拘る習性がありますからねぇ。そういう目で見られたくなければ、迂闊な言動をする人は自重することでしょう。愚か者については、なんとも言えませんが。
まぁ、平民、貴族、他国の王族(辛うじて王位継承権持ち)にも知り合いがいるわたしが言ってもそんなに説得力は無さそうですが、概ね事実ですし。
貴族の子達って、実は結構素直な性格の人が多いんですよねぇ。
素直だから、言われたことを頑張る。
素直だから、言い付けを守る。
素直だから、周囲の人間の言動を真に受けて悪意にも染まり易い。
素直だから、人を見下す人を見てそれに倣う。
素直だから、疑いなさいと言われたモノを疑う。
素直だから、上に従うことに対して疑問を抱かない。
本当に、染まり易いいい子達が多い。
まぁ、両親に育てられず、ほぼ使用人達に育てられて、あちこち転々とした一捻くれ者の持論ではありますけど。
とりあえず・・・彼らは在学中、クスクスと笑われるか、なまあたたかい視線を浴び続けることになるでしょう。
セディーのことを侮った馬鹿共の面子をぶっ潰してやったぜ!
わたしの勝ちだ!
「おーおー、面倒そうな先輩達を見事に撃退しちまったな。なんつーか、ハウウェルって……結構おっかねぇこと、平気な顔でしれっと言うよなぁ。マジでヒヤヒヤしたわ俺」
「フッ、それがハウウェルの持ち味で面白いところじゃないか!」
なぜかレザンが嬉しそうに胸を張る。
「いや、別にわたし面白くないし」
あと、あの野郎共がセディーのこと悪く言うから・・・ちょっと熱くなってしまった。
う~ん……要反省かな? 後悔はしてないけど。
「絡まれたから対処しただけだし」
「いーや、ハウウェルは大分面白い奴だ。で、やっぱりハウウェル様って呼んだ方がいいのか? ちなみに爵位なんかは?」
なんか、テッドの中でわたしの評価が変な奴で固定されたような気がするのは、気のせいだと思いたい。
「一応、しがない子爵令息だからね。しかも次男だし。別にこれまで通りに呼び捨てで構わないよ」
お祖父様は侯爵位で、セディーがその侯爵位を継いだら、一応は侯爵弟になる予定だけど。
「ちなみに、かなりフランクだけど、レザンも貴族だよ? な、レザン」
「うむ。我がクロフト家は、伯爵位持ちだな。言ってなかったか?」
「「え?」」
と、今度はテッドもリールと二人でぎょっとしたようにレザンへ視線を向ける。
「あれ? テッドも聞いてなかったの?」
知らなかったなら、思ったよりもクロフト家の爵位が高くて驚いてるのかな?
「聞いてねぇぞ!」
「うん? そうだったか? まぁ、実家が伯爵位でも、俺自身は気楽な三男だからな。どこぞの家に婿入りでもしない限りは、あと数年で平民確定だ。婚約者も特にいないから、気にする必要は全く無いぞ? なぁ、ハウウェル」
「そうだね。爵位を継ぐ嫡男や複数の爵位持ちの家でもなければ、貴族の次男以下なんて大概はそんなもんだからねぇ。ま、だからこそ、貴族扱いにやたら拘る人もいるんだけど。わたしは別に、どうでもいいかな?」
「うむ。俺も、そういうのは割とどうでもいいな」
「そういうもん、なのか?」
テッドが驚いたような顔で聞いた。
「う~ん、レザンとわたしはかなりフランクな方だと思うから、一概に貴族の次男以下がこうだとは言い切れないんだけどね」
「要は、人それぞれということだな!」
「そういうことだね」
「全く参考になんねぇよ」
顔を顰めるテッドに、こくこくとリールも頷いている。
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読んでくださり、ありがとうございました。
文中の、『貴族子女達に不満を持っていた~』という部分ですが、『貴族子弟』という表現では男子生徒のみを示すことになってしまうので、男子も女子も関係無くという意図で、『子女達』という表現にしています。
『子弟』は、基本男子のみを指し、『子女』は男子も女子も含みます。




