わたしは先を急ぐので失礼します。
中間テストが終わって――――
帰省解禁の週末です!
ということで、帰ります。
昨日の放課後にライアンさんに帰省すると挨拶をしたので、今日はレザンに絡まれないうちに急いで寮を出ます。
只今の時間は、早朝五時。
朝に弱いわたしが、こんなに早い時間から動いているとは、奴も思うまい。
入寮に当たって預けた剣を、職員から受け取ります。週末や長期休暇のときは、職員が寮の出入り口に常に待機しているそうです。
なんでも、遠方から入学して来ている生徒は、夜明け前から出発する方もいるそうで。そういう生徒に対応する為、二十四時間の三交代体制を取っているそうです。
ありがたいことですね。
学園内では基本的に、一般生徒や職員などは帯剣禁止なので、剣が布に包まれたまま渡されました。校門を出た時点で、帯剣をしてもいいそうです。
武器が無いと、道中が危険な地域もあるので、学園外での帯剣は自己責任となります。
無論、犯罪を犯せば官憲に逮捕されるので、武器は悪いことに使用してはいけませんが。
校門を出ると、道の端には早速数台の馬車が停まっていました。きっと、夜も明けぬ前から家を出たに違いありません。御者の方々、お疲れ様です。
あれって、今はまだ数台しかないけど、道沿いにずらりと馬車が大量に停まると、付近一帯が渋滞を起こして大変なんだよねぇ。
しかも、爵位やら序列やらで馬車を停める位置にも気を遣わないといけなくて、御者達は非常に神経を使うらしい。
無論、王族や上位貴族が校門に近い位置だったり、学園内部に乗り入れることもあるのは、当然のことだけど。もしかしたら、裏門の方にも渋滞が起きるかもしれないなぁ。
王族、上位貴族ズルい。や、渋滞うぜぇ……とかは、言ってはいけないのです。心で思うだけに留めておきましょう。
この、学校を出てから馬車に乗り込むまでの短い距離こそが、貴族子女達の誘拐だったり、なにかしらの犯罪に巻き込むチャンスだったりするのですから。
特に、貴族令嬢達は気を付けなくてはなりませんね。この短い距離の防犯対策を如何に確りするかで、貴族子女達の身の安全が掛かっているワケです。
疎かになんかできません。若干ピリついた雰囲気を感じるのも当然です。
なにせ、警護に当たる対象によっては馘首宣告どころか、物理的に首が飛び兼ねませんからね。具体的に言うと、王族や準王族の方々の警護は命懸けです。
騎士学校で少々習いましたね。
まぁ、わたしはこれから少し歩いて待ち合わせの場所まで向かうので、渋滞には引っ掛かったりはしませんが。
警護の方々は本当にお疲れ様です。
と、黙礼をしながら歩いていたら・・・
「ネイサン様!」
聞こえた高い声に、思わず溜め息を飲み込む。
また、来ましたか。こんなタイミングで来るとは・・・本当に、困った人ですね。
「どなたでしょうか?」
「いやですわ、ネイサン様。わたくしですわ。ネイサン様にお話があって」
いや、わたくしですとか言われても知らないし。名前で呼ぶことも許してないし。いい加減、名乗ってくれませんかね? まぁ、名乗られたところで、この人と仲良くする気はさらさら無いんだけど。
「そうですか。わたしは特にありませんので」
「え?」
きょとんとした表情の女子生徒は、例の……貴族子息に声を掛けて回っているという彼女。
「そ、そんな冷たいこと仰らないでください。実はわたくし、困っていて・・・」
如何にも困ったという表情なのは、百歩譲っていいとして。わざわざ上目使いで、わたしを見詰めなくてもいいんじゃないですかね?
「そうですか。大変ですね。頑張ってください。では、わたしは先を急ぐので失礼します」
止めていた足を動かすと、
「っ!? ま、待ってくださいっ!! その、わたくしの迎えの馬車が来ていなくて! 家に帰れなくて困っているんです! ネイサン様さえご迷惑でないのでしたら、わたくしを家の近くまで送ってくださいませんかっ!?」
驚愕っ!! という表情をした後、必死な顔でなんか訴えて来ましたが・・・
なんというか、わたしも驚きました。凄いことを要求して来ましたよ?
幾ら同じ学園の生徒であるとはいえ、一度しか話したことのない、大して知らぬ仲の後輩。それも男子に、家の近くまで送ってほしいとは・・・さすが、淑女ではない方ですねぇ。
「はあ、それは災難ですね。もしかしたら、もっと後ろの方にご実家の馬車があるのかもしれませんし、探してみては如何でしょう?」
確か、この方は裕福な平民の家の方だとセルビア嬢が言っていましたね。平民だったら、馬車はもっと後ろの方に停まっているんじゃないですかね?
知りませんし、興味もありませんが。
「一緒に探してくれませんか? その、心細くて……」
「待ち合わせの日時は確認しましたか? 間違えてはいませんか? 今日ではなくて、明日だったりしませんか? 夕方ではありませんか?」
「待ち合わせは今日ですっ! 時間だって、もう過ぎているんです!」
「そうですか。では、わたしではなく、仲の良い同級生やあなたの親族に頼っては如何ですか?」
「え?」
いやだな、なんでぽかんとした顔をするのか……
「その方があなたも安心できるのでは? 一度しか話したことのない後輩男子なんかを頼るより、その方が親御さんも安心されるのでは?」
「ね、ネイサン様しか頼れる方がいなくて・・・」
なにやら、少々引き攣ったような顔で辺りをきょろきょろと見回す彼女。
確かに。今このとき、この辺りを歩いているのは、わたしと彼女だけですね。御者や警護の方々を除いては、ですけど。
「成る程、わかりました」
読んでくださり、ありがとうございました。
絡まれました。(笑)




