色々と教えてくださり、ありがとうございました。
「あの方は高等部三年生の、裕福な平民の方なのですが・・・」
セルビア嬢の口が重いですね。
「貴族の嫡男の方々に、よく声を掛けている方です。どうも彼女は婚約者がいないらしく、学園で良い縁を探している、とのことですね」
「それはまた・・・」
なんとも言えないな。
貴族に嫁入りしようと奮闘している、と取れなくもない。非常に好意的な見方をすれば、だけど。身も蓋も無い言い方をすれば、節操無しと言ったところだろうか? おそらく、まともに相手する貴族子息は少ないだろうなぁ。
う~ん……財政の厳しい貴族家なら、嫁入りを考えるくらいでしょうか? でも、あの不躾な態度と、嫡男であれば婚約者がいようがいまいが、それこそ誰彼構わず声を掛けているというのなら、それも厳しいかもしれませんね。
とりあえず、わたし的にはアレは無しですけど。どこぞの物好きなら、ワンチャンあるんじゃないですかね? 顔はそれなりでしたし。
まぁ、スピカの方が数百倍は可愛いけどねっ!
「それと、これはあくまで噂なのですが……」
と、声を潜めたセルビア嬢が、彼女について話してくれたことは――――
アレだな。
話を聞かせてもらった結論から言うと・・・
あの女は、わたしの敵だっ!
いや、個人的な敵、というわけではないけど。
どうやら彼女は、少々長男に問題のありそうな家の次男三男にも、粉を掛けて回っているらしい。「お兄様に問題があるなら、あなたが家を継いでは如何ですか? あなたの方が相応しいのではありませんか?」という風な感じで、色気を使ったり誉めたりしつつ、唆すのだとか。
上級生の貴族子息達には、あんまり相手にされてないそうだけど。というか、 女子達にも相手にされていないらしい。
一人で様々な男子生徒(学年を越えて)に突撃する姿を、よく目撃されているのだとか。
それでわたしに声を掛けたということか。
全く・・・巫山戯ンなよっ!!!!
うちは、確かに幼少期にはセディーの身体が弱かった。でも、今は大丈夫だとちゃんと医者のお墨付きを貰っている。
父が問題なだけで、セディー自体にはなんの問題も無い。
むしろ、父よりもセディーの方が優秀な筈だ。だからきっと、侯爵として立派にやって行けると思う。
それに、わたしとセディーの仲は悪くないし、悪くなる兆しも無いからねっ!! ということだ。
「色々と教えてくださり、ありがとうございました。とても助かりましたよ。セルビア嬢」
にっこりと微笑んでお礼をすると、
「……いえ、その、ハウウェル様のお役に立てたのなら恐縮です」
何故でしょうか? セルビア嬢にそっと視線を外されました。
そっぽを向いて、押さえた口から小さく洩れる呟き。やはり、声が小さくて聞き取れません。
「セルビア嬢?」
セルビア嬢はキリっとした態度の方ですが、偶に独り言が多いですね。
あ・・・今、ふと思い出したんですが、入学式が終わった後、わたしをじっと見詰めていたのもセルビア嬢だと思うんですよね。あのときも、セルビア嬢はなにか呟いていたような気がします。なにを言っていたかは、わかりませんけど。
まぁ、よくわたしを助けてくれるいい方ではありますが……なぜかこう、悔しげな表情でわたしを見ることがあるんですよねぇ。謎な。
「いえ、なんでもありません。それより、彼女はもう行ってしまったようですので。わたしはこれで」
「ありがとうございました」
「困っている部員を助けるのは当然のことですので。お気になさらず」
と、セルビア嬢と別れて厩舎へ向かう。
セルビア嬢は……わたしを見て偶に悔しげな顔をするのに、困っていると颯爽と助けてくれて、なのに見返りを求めようとしない。そして、必要以上に馴れ馴れしくしないところにも好感が持てますね。
セルビア嬢には色々と教えて頂いたことですし。
・・・さて、あの名乗りもしない上、余所様の家に不和を齎そうとしているあの女がもう一度接触して来たら、どうしましょうかねぇ?
あんまり使いたくはないけど、おばあ様から教わったあの手を使ってみる……か。
アレは・・・なんかこう、わたしの好感度が著しく下がるような気がするんですよねぇ・・・
なんというか、好感度とは別の、精神的なダメージも食らう気がしますし。まぁ、その代わりに、効果は絶大・・・らしいですけど。
悩みどころですねぇ。
それにしても、不思議なのは……彼女は婚約者がいる相手でも、誰彼構わず声を掛けているという割には、放って置かれていることでしょうか?
家が凄く裕福なのか、高位貴族と繋りがあるのか。
はたまた、貴族子息の誰にも相手にされていないから、問題になっていないだけなのか。
それとも、試金石にする為に放置されているという可能性もありますね。
まぁ、調べてみればわかるかな?
読んでくださり、ありがとうございました。




