こっちでもかっ!? という気分でいっぱいだ。
「はい、わたしが?」
口の重いセルビア嬢を促すと、
「……先程の彼女達は、乗馬服姿のハウウェル様を、女子生徒だと勘違いしていたみたいです」
なんだか変なことを言われましたよ?
まぁ、もしかしたらそうなのかもしれない。けど、そうじゃないといいんだけどなぁ……とは、思っていましたが。
「ハウウェル様は男性ですが、お綺麗な顔をしていらっしゃいますし、乗馬服も……少々体型が出難いですから。それで勘違いをされたのだと……彼女達には、ハウウェル様は男性だとちゃんと言い聞かせましたので。次回から、あのようなことはもう言わないと思います。ですが……その、お気を悪くされたのでしたら、本当にすみません」
セルビア嬢が、申し訳なさそうな顔で謝ります。
「・・・いえ。セルビア嬢が謝ることではありませんので。助けて頂き、ありがとうございます・・・」
「いえ・・・」
とても気まずそうな表情。
というか・・・こっちでもかっ!? という気分でいっぱいだ。
いや、女顔だとか女男だとかいう言葉は騎士学校にいた三年間で散々聞き飽きる程に聞いていた。
というか、騎士学校のアレは女性のいない環境だったから、そういう風に言われていたんだと思っていたのに・・・っ!?
まさか、共学の学校で女子生徒にまで女だと思われるとはっ!!
まぁ? わたしはそんなに背が高い方じゃないし? 一応、百六十七センチの身長の女性も、少なくはない。
現に、セルビア嬢だって背が高めですし。
リボンが~とか言われていたけど、確かに今日はリボンで髪を括っている。でもさ、わたし以外にも長い髪をリボンで括っている男子生徒はいるよね? 腰くらいまで伸ばしている男子を見掛けたよ? わたしは肩甲骨くらいの長さだけど。
あれか? 乗馬服なのが悪かったのかっ!?
確かに、乗馬服は厚手で頑丈なので、体型はちょっと隠れるかもしれない。なら、男子の制服を着ていれば間違われなかったのか? でも、制服を汚すワケにはいかないじゃないか。
一応、新学期だし? 知らない人や見慣れない人もいて? あの人達も、見慣れないわたしに挨拶でもしようとしたとか?
「その・・・どうやらハウウェル様は・・・クロフト様の婚約者だと思われていたようです」
マジかっ!?!? よりにもよって・・・
うん。レザンの婚約者だとか不快な勘違いをされるくらいなら、乗馬服で乗馬するのをやめよう。
う~ん……わたしがちゃんと男だって判ってもらうには、薄着でもすればいいのかな?
「お気を悪くされましたか?」
「・・・ぁ~、いえ。この程度では・・・まぁ、一応は平気、です」
うん。彼女達は、すぐに引き下がってくれたし。騎士学校で絡まれたときの方が、クソめんどくさかったからなぁ。そういうことも、言われたことがないワケでもないし。クズ野郎共にしつこく絡まれるより、断然ましです。
「謝ってくれた方もいましたから。大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
それに・・・だからわたしに、『理解の無い殿方が~』どうとか言っていたワケですか。
微妙に納得しましたよ。わたしを女だと勘違いしていたから、明け透けに話し掛けたワケですね。男性への不満を零してましたし。
彼女達は――――その勘違い自体は不快だけど、レザンが自分の婚約者の令嬢(わたしは男だから全然違うけど!)に、好きなように乗馬をさせているのを羨ましいと思ったワケですか。
そして、そんな風に自由に乗馬をさせてもらっている女性に、乗馬を教わりたかった、と。
わたしは男だから、全く以てレザンの婚約者なんかじゃなんだけどねっ!!
勘違いも甚だしい彼女達ではありますが……
これは、男のわたしが言えたことではないとは思うけど――――好きなことや、やりたいと思っていることを、婚約者がいるからと言って周囲に行動の制限をされたりするのは……不平不満を表に出せないだけで、それを苦痛に感じている女性達は案外多いのかもしれませんね。
「……わたしは、別に怒ってはいませんよ」
少しの不快さと、ほんのちょっぴりのやるせなさを感じているだけだ。
「……ハウウェル様がそう言ってくださると、少し気が楽になります」
「わたし個人としては、女性が乗馬を趣味にしていても……例えば、そこらの男性顔負けの腕前だとしても、本人が好きでやっていることであれば、それは素敵なことだと思うんですけどね? 乗馬が上手いからと言って、その方本人の女性的な魅力が下がるワケでもありませんし」
クロシェン家にいたとき……わたしとロイの後ろに付いて遊んでいたスピカも、貴族令嬢としては、結構なお転婆な子だと思うし。トルナードさんも、スピカが乗馬をしたいと言ってポニーに乗ることを止めなかった。
更に言えば、それがスピカの魅力を損なうことだとは全く思えない。仮令、スピカの方がわたしよりも乗馬が上手くなっていたとして、それがなんだというのだろうか?
「むしろ、そこで自分よりも乗馬が上手い女性に嫉妬して僻んで、乗馬をやめろなんて言う奴の方が、男としてはよっぽど情けないと思いますけどね」
ハッとした顔でセルビア嬢がわたしを見詰めると、
その瞳が潤み出し、両手で口を押さえながら小さくなにかを呟いています。
「?」
声が小さくて、あんまり聞き取れませんが・・・
でもそういえば、セルビア嬢もかなり乗馬が上手かったですね。レザンが爆走したときにも、すぐに追い掛けて注意していましたし。叱る姿も、手慣れていましたね。
ああ、もしかしたら・・・セルビア嬢も以前、どこぞの僻み根性丸出しの情けない馬鹿野郎に、なにか心無いことを言われたりしたのかもしれない。
男だ女だ、年齢がどうたら……無駄にプライドの高い連中はどこにでもいるし。世のクズ野郎共と来たら、本当に心が狭いことだ。嫌になるよ。全く。
「クっ……わたしは、負けるワケにはっ!」
ぐっと拳を握り締め、どことなく悔しげに顔を歪めるセルビア嬢。
「? セルビア嬢は、誰かとなにかの勝負をしているのですか?」
なんだか気になったので質問してみると、
「っ!? いえ、なんでもありません。お気になさらず。そんなことより、そろそろ夕食のお時間ですわ。長々とお引き留めしてしまい、申し訳ありませんでした。夕食の時間が終わってしまう前に、寮へ戻りませんと夕食を食べ損ねてしまいますわね。それでは、失礼致します」
セルビア嬢は慌てたように答えて、そそくさと行ってしまいました。
セルビア嬢は偶によくわかりませんが・・・彼女がいい方なのは、間違いありませんね。
まぁ、ごはんは大事ですし。
食いっぱぐれないよう、わたしも急ぐとしよう。
読んでくださり、ありがとうございました。
勘違いされてました。(笑)




