普通の家族って、こんな感じなのかな?
視点変更。
「へぇ……新生児って、こんな感じなんだ」
「おかおがまっかで、とっても小さいですね。赤ちゃん、おねつですか?」
すやすやとベビーベッドに眠る赤ちゃんの顔を、柵越しにそっと見詰めるリヒャルト君。起こさないようにと、心配そうな小さく囁く声。
「ふふっ、いいえ? この子は元気ですわ。生まれたばかりの赤ちゃんは、お顔や身体が真っ赤なものと決まっているそうですよ。全身が赤いから、『赤ちゃん』と言うらしいですわ」
クスリと笑うレイラさんの顔は、少し前に比べると少々窶れて見える。けれど、柔らかい笑顔を赤ちゃんとリヒャルト君へ向けている。
「そうなんですか? 姉さま」
「はい。そのようです。それにしても、こうしていると・・・リヒャルトが赤ちゃんの頃のことを思い出しますね」
リヒャルト君へ返事をする、ケイトさんの愛おしそうな視線。
「ぼくが赤ちゃんのころ、ですか?」
「ええ。その頃のわたしは学園寮に入っていたので、週末にしか会えませんでしたが……リヒャルトも、最初はあんな風にとっても小さかったのですよ」
「ふえ~」
ケイトさんの言葉に、自分の手と小さな赤ちゃんとを見比べるリヒャルト君。
「ぼくもおっきくなってたんですね~」
「ふふっ、リヒャルトも日々成長していますからね」
真っ赤な顔でぴすぴすと小さな寝息を立てて眠る男の子は、生まれたばかりのロイ君とレイラさんの息子だ。
赤ちゃんを出産して数日が経ち、レイラさんの容体が落ち着いたとのことでお見舞いに来たら、赤ちゃんはお昼寝中だった……というか、新生児は大体の時間を寝て過ごすそうなので、起きている時間の方が少ないらしい。
赤ちゃんはトータルでは寝ている時間が長い。とは言え、短いスパンで授乳時間が来るので、お母さんは大変なのだと聞いたけど。
僕の記憶にある、ネイトが赤ちゃんの頃に比べると・・・生まれたばかりの赤ちゃんは、顔や皮膚が赤い。そして、全てのパーツがとても小さい。
生後約三ヶ月くらいのネイトのことも、とっても小さくて繊細だと思ったものだけど、新生児はあの頃のネイトよりも、輪を掛けてちょこんとして小さい印象だ。
なんとも小さくて、脆くて、か弱そうに思う。けれど、むにゃむにゃと小さな口や細くて柔らかそうな手足が、偶にもぞもぞと動いている。その度に、リヒャルト君が目を輝かせて感嘆の声を上げる。
「では、そろそろ行きましょうか」
「ええ~、ぼく、もうちょっと赤ちゃん見てたいです」
「駄目ですよ。赤ちゃんのうちは、あまり身体が丈夫ではありませんからね。それに、レイラ様もお疲れでしょうから、負担を掛けてはいけません」
「ハッ、そうでした! レイラ姉さまも赤ちゃんも、おだいじに、です」
「ふふっ、ありがとうございますリヒャルト君。この子がもう少し大きくなったら、遊んでくれますか?」
「いいんですかっ!?」
「勿論ですわ。リヒャルト君がこの子のお兄様になってくれると、わたくしも嬉しく思います」
「ぼ、ぼくがお兄さまっ……はいっ! まかせてくださいっ、レイラ姉さま!」
キリッとした顔で、とても嬉しそうに胸を張るリヒャルト君。
嬉しい気持ちは僕にもわかる。お兄様になるというのは、とっても誇らしいことだもんね。
「では、帰りましょうか」
「ええ」
と、帰ろうとしたら・・・
「あれ? 来てたんですか、セディックさん達」
少し疲れた様子のロイ君が現れた。
「ロイ兄さま!」
「おう、リヒャルトも久し振り。元気だったか?」
「はいっ! ロイ兄さまはおつかれですか?」
「まぁ、赤ちゃんが可愛いからちょっとな。ついつい、じ~っと見ちまうんだ」
「わかりますっ」
赤ちゃんが生まれてから、ロイ君はうちじゃなくてフィールズ公爵家に寝泊まりしている。なんでも、レイラさんと交代で赤ちゃんの面倒を見ているそうだ。
寝不足なのか目の下に隈を作って少々疲れた顔をしているけど、それでも笑顔で、全然つらそうには見えないし、機嫌も良さそうだ。
初産で旦那の方が生まれたばかりの赤ちゃんの面倒を見ることは珍しいと、助産師や医者が驚いていたらしい。しかも、ロイ君は赤ちゃんの面倒を見るのが上手い。
「どうしてロイ様はそんなに抱っこが上手なんですのっ?」
と、新米ママなレイラさんが不満そうに唇を尖らせるくらいには。
「ああ、スピカとは年が離れているからな。赤ん坊の面倒見るのは、ちっこい頃から慣れてるんだよ」
ロイ君はそう言って笑っていた。
最初はさすがに、新生児の扱いには緊張していたし、今でも扱いが慎重なのに変わりはないけど。
でも・・・ロイ君がレイラさんと赤ちゃんのことを、とても可愛がっていることがわかる。
普通の家族って、こんな感じなのかな? なんて、感心してしまう。まぁ、ロイ君はきっと、多分普通の父親よりはかなり子煩悩な父親という部類に入りそうだけど。
そういう光景は僕には、少し・・・
「今来たんですか?」
「……え? ああ、ううん」
「レイラ様に赤ちゃんを見せてもらって、今から帰るところです」
なんだかぼんやり気味な僕の代わりに応えたのは、ケイトさん。
「ああ、そうですか。すみません、セディックさんの手伝いを放っぽり出して」
「ふふっ、全然気にしなくていいよ? どうせ、うちにいても気もそぞろだったし。下手なミスを連発されるくらいなら、レイラさんに付いててあげた方が断然いいですからね」
「うっ……」
「それより、ロイ君?」
と、ロイ君の顔を覗き込む。
「は、はい」
「レイラさんと赤ちゃんの体調を気遣うのは当然なんだけど。君も、ちゃんと休まないと駄目だよ」
「へ?」
チクリと揶揄った後だからか、ぱちぱちと驚いたように瞬く瞳。あ、なんかこういう顔は、スピカちゃんと似ているかも。
「赤ちゃんの子守りをするのと、レイラさんの看病をするのは凄くいいことだと思うよ? でもね、それで君が無理して倒れたら、レイラさんが心配するでしょ。それに、フィールズ公爵家にも迷惑が掛かる。だから、睡眠と食事はきちんと摂って元気でいること。約束、できる?」
「はい。ありがとうございます。セディックさん」
にっこりと笑って頷くロイ君。これなら大丈夫かな?
「宜しい。それじゃあ、僕達は帰りますね」
と、ロイ君の頭を撫でてうちに戻った。
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読んでくださり、ありがとうございました。
ロイ「あの人……俺にはちょいちょいイジワルするのに、偶にすっげーガキ扱いするんだよなぁ」(*´ー`*)




